第三話 衝撃の告白
俺は放心状態のまま、診察室で医師の男と向かい合っていた。
「赤ちゃんの健康状態はいたって良好です。」
医師はいかにも真剣そうな顔で俺に向かって言った。気づけば手が動いていた。
ドガッ
殴った瞬間、眼鏡が勢いよく飛び、医師は声にもならぬ声を上げた。
「ふざけんじゃねえっ!!」
「やめてください!」
看護師が慌てて俺を抑えるが、もう止まらなかった
「離せ!お前らのせいでっクソが!このヤブ医者どもがっ!」
自分でも自分がよく分からなかった。一夜あけても俺は状況を受け入れられずにいた。そして、この怒りをとにかくどこかに向けなければ、これ以上まともでいられる気がしなかった。ただただ吠えるように俺は叫び続けた。しばらくして、俺は暴れる気力もなくなり、今度は情けなくひたすら泣き喚いた。
「申し訳ありません、、申し訳ありません、、。」
俺が泣いている間、殴られた医師はただただ弱弱しい声でそう言い続けた。
これが“C”の産婦人科か、、、。
俺はつらい現実に向き合わなければいけなかった。これが自分の与えられた環境なのだ。いうまでもなく俺は“Cランク”の人間だった。Cランクの人間は、Cランクの医療機関にしか頼れない。この病院がひどく廃れ、寂れていても、サヤを入院させるにはここしかなかった。それは仕方のないことだった。Bランクの病院に入れていたら、、、なんて考えるだけ無駄だ。それでも、考えずにはいられなかった。もっと設備が整い、腕のある医師と助産師たちのいる環境でサヤが出産していたら、サヤは今頃、病室で安静に眠っていたのではないだろうか。サヤはこんなにも早く、この世を去ることはなかったのではないだろうか、と。そう思うと、悔しくて涙がこぼれてくるのだ。
丸椅子に座り、うつむきながら目元を手で覆い泣いていると、シャーと勢いよくカーテンの開く音が聞こえた。医師や看護師が行き来する奥の部屋との仕切りカーテンだ。なにやら小声で医師に話しかける女の看護師の声がする。なんと言っているかまでは聞こえなかった。しかしすぐに医師が驚いたような声を上げる。
「なにっ、、本当に、、、?」
「間違いありません、私たちもまさかと思って、、、」
「わ、わかった、、検査を続けてくれ、、、。に、西本さん、、。」
医師は俺に声をかけてきた。俺はぐちゃぐちゃになっているだろう顔を見せるのに恥ずかしさを感じながらも、ここまでみっともない姿をさらしきったことに逆に清々しさを覚え、素直に顔を上げる。医師はまだ自分でも整理がついていないとでもいうような困惑した顔を浮かべていた。もちろん俺に殴られた左頬はひどく腫らしながら。
「すいません。、、、なんですか。」
「お、落ち着いて聞いてください。先ほど、うちの看護師が、お子様の“ランク”を検査いたしました。」
「ああ、はい、、、。」
そうか、ランク測定があるんだよな。
俺のランクは「C」。サヤは「C⁺」。まあこの場合、俺たちの子供は良くても「C⁺」ということになる。同じ「C」であれ、その最上と最低、「C⁻」と「C⁺」とではまた能力には差がでてくる。
「C⁻」であることも考えられるが、サヤが命がけで産んだ子だ。サヤの血を強くひいて「C⁺」であってくれたら良いな、と俺は思う。
「プラスでした、、、。」
「そうですか。」
ああ、良かった。
「Aの。」
医者は付け加えるように言った。
うん、Aのプラス、、、
「お子様のランクはA⁺、でした。」
ん、待てよ?えーのぷらす、、、?
A(エー)の、プラス?!?!
俺は目を丸くして、口をぽっかり開け、固まった。
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