第2話 蜘蛛の糸

「追放だ、クロエ。俺のパーティから」


 ガイルの冷酷な声が洞窟内に響く。クロエは背中を強く押され、奈落の底へと落ちていった。体が重力に引かれ、何もない空間をただ落下する感覚に襲われる。だが、彼女はとっさに受身を取り、大きな怪我を回避することができた。


「ガイルー!」


 クロエは叫びながら、暗い穴の中で苔に覆われた壁を必死に登ろうとする。しかし、ぬるぬるとした苔が指先から滑り落ち、何度も地面に戻される。彼女の声は、狭い洞窟内で反響するだけで、助けを呼ぶ声は届かない。


 やがて、穴の上からガイルの顔が覗き込んだ。彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


「俺たちの儲けをピンハネして、汚ねぇ子供たちに渡してたのを見たやつがいるんだよ。お前みたいに口うるさくなくて、ちゃーんと従順な鍵開けなんて、この街にはいくらでもいるんだよ。じゃあな、クロエ。もう会うこともないだろうがな。これまで儲けさせてくれてありがとなー!」


「助けて! ガイルー! ごめんなさい! ガイル! ガイルー!」


 クロエの叫びはむなしく響き渡るだけだった。ガイルは冷たい笑いを残してその場を去った。


 クロエは、穴の底で一人、声を枯らしながら泣いていた。


「騙された… 騙された…」


 地面を何度も叩き、涙がこぼれ落ちる。悔しさと絶望感が彼女の心を締め付けていた。だが、その時、彼女の頭上から足音が聞こえてきた。


「ガイル…帰ってきてくれたんだ…助けて…なんでもするから!」


 クロエは期待を込めて叫んだが、穴を覗き込んできたのは、ガイルではなく、見知らぬ黒いマントの男だった。


「なるほどー。なんでもするのですかー?」


 男の声は冷たく、どこか不気味だった。


「す、すみません、どなたか知りませんが助けてください! 穴に落ちてしまって…」


「本当に何でもするのですかー?」


「えっ、はい、なんでもします! なので、助けてください!」


「じゃあ、ここで死んでもらえますかー? そうしたら助けますー!」


 クロエは混乱した。死んだら助かるという意味不明な要求に、彼女はどう反応すべきか分からなかった。だが、男の言葉には一切の冗談が含まれていないことを感じ取った。


「どうしますかー? いやなら帰りますがー。たぶんあなた、ここで死にますがー!」


 絶望的な状況で、クロエは何とかして生き延びる道を選ぶしかなかった。彼女は決心し、叫んだ。


「じゃあ、死にます! 私ここで死にます! 助けてください!」


「承知いたしましたー!」


 男はそう言うと、突然穴の上から姿を消した。そして次の瞬間、クロエの隣に立っていた。


「では、宣言通りあなたは今から死にます。私の名前は、レイン・ドレイク。以後お見知り置きを」


 そう言うと、レインはクロエの首を軽く叩いた。その瞬間、クロエの意識は闇に沈み、彼女は深い眠りに落ちていった。


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