第6話

 今でも、ボクはあのジイさんのことをよく覚えている。


 ジイさんは、ここに書いたように・・


 最初、病室の入り口から首を突っ込んで、室内を見まわしていた。・・


 そして、病室内に入ってきて、入り口のところに立って、ボクを見つめた。・・


 次に、窓際に行って、窓の外の夜景を眺めた。・・


 それから、ベッドの下にかがみこんで、何かを探し出したのだ。・・


 そして、ボクの言葉で、枕元に立って、ボクをじっと見降ろし始めた。・・


 恐怖を感じたボクが、布団を眼の下までかぶると・・


 布団に手をやって、めくろうとしたのだ。・・


 そして、ボクがテレビ番組を思い出して・・


 「出て行ってくれ」と心の中で念ずると・・


 ようやく、病室から出て行った。・・


 作り話のようだが、全て本当の出来事だ。




 でも・・


 あのジイさんは、認知症とか、あるいは寝ぼけた患者さんが、うっかり病室を間違えただけなのかもしれないよ。




 だけど・・


 もしも、今夜、あなたが寝ていて・・


 ふと夜中に目覚めたときに・・


 上を見ると・・


 枕元から、知らないジイさんか、バアさんが・・


 あなたの顔をじっと覗き込んでいるかもしれない。・・


 そんなときは、ボクの話をぜひ思い出して欲しいんだ。・・


          了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真夜中のジイさん 永嶋良一 @azuki-takuan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ