第5話
その瞬間、ボクの恐怖は極限にまで高まった。
ボクは、あまりの恐怖に眼を閉じた。恐怖が高じて・・そうせざるを得なかったのだ。あの再現ドラマが脳裏に浮かんだ。ボクは再現ドラマの主人公の行動を思い出した。そうだ、念じるのだ・・
ボクは眼をつむったまま、心に念じた。
「出て行ってくれ、この病室から出て行ってくれ・・」
ジイさんは布団をめくらなかった。布団に手を掛けたままで、静止したのだ。眼をつむっていたが、ボクにはそういったことが気配で分かった。
ボクは念じ続けた・・
どのくらいの時間、そうしていたのだろうか? ずいぶん長い間、そうしていたようにも思うが、案外、短い時間だったのかもしれない。
やがて、何やら気配がした。
ボクが眼を開けると・・ジイさんが背中を向けていた。そして、ジイさんは、ゆっくりと、病室の入り口に向かって歩いていった。
ジイさんが病室のドアを開けた。・・廊下に出た。・・ゆっくりとドアが閉じてきて・・ドアが閉まる、あのカチャリという音が病室内に響いた。
ジイさんの姿が、ボクの視界から消えた。
ふ~・・・
ボクは心から安堵の息を吐いた。
4時になると、再び看護師さんが巡回にやって来た。ボクは看護師さんに頼んで、ベッドの下のナースコールのスイッチを拾い上げてもらった。
そして、さっきのジイさんのことを話したのだ。
看護師さんは、眼を大きく見開いてボクの話を聞いていた。そして、ボクの話が終わると・・何も言わずに病室を出て行った。
それから・・
ジイさんは、もう病室には現れなかった。
看護師さんは、入れ代わり立ち代わり、ボクの病室にやって来たが、誰もジイさんの話をしなかった。ボクも聞かなかった。
ボクの病状はしばらく一進一退が続いたが・・やがて、回復に向かいだして・・退院した。
(つづく)
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