第4話
すると、ジイさんが・・かがめていた腰をまっすぐに伸ばしたのだ。そして、ベッドのすぐ横、つまり、ボクの枕元に立って・・ボクをじっと見降ろし始めたのだ。
知らない人に枕元に立たれて、黙って見降ろされる・・という状況は初めての体験だった。
ジイさんの顔には表情がなかった・・
ボクはベッドからジイさんを見上げている。ジイさんはボクの枕元で、ボクを見降ろしている。この状態が続いた。ジイさんは何も言わない。黙って、無表情に、ボクを見降ろしているだけだ。
気味が悪かった・・
ボクは以前、これとそっくりな状況を、あるテレビ番組で見たことを思い出した。
そのテレビ番組は、視聴者から寄せられた体験談をもとに再現ドラマを作るというもので・・ボクが見た放送回の再現ドラマは、こんな内容だった。
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主人公(=体験談を書いた男性)が病気で入院した。・・
すると、夜な夜な、知らないバアさんが音もなく病室に入ってきて・・
主人公のベッドの枕元に立って・・
黙って、主人公の顔を見降ろすのだ。・・
主人公は恐怖で声も出ない。・・
朝になる前に、バアさんは病室から出て行くのだが・・
夜になると、また病室に現れる。・・
そんなことが毎日繰り返された。・・
バアさんが出現してから・・
日ごとに、衰えていく主人公。・・
たまりかねた主人公は、ある夜、枕元に立ったバアさんに対して、必死になって心の中で念じたのだ。・・
「自分はまだ死にたくない。どうかこの病室には、もうやって来ないでくれ」・・
主人公の思いが伝わったのか・・
それから、バアさんは現れなくなった。・・
すると、主人公の病状が回復し出して・・
無事に退院の日を迎えた。
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・・・という再現ドラマだった。再現ドラマの後で、解説者のような人が「そのバアさんは、だいぶ前にその病院で亡くなった人の霊なのだ」と説明していた。
ボクはこのテレビ番組を思い出して・・戦慄した。
なんと、バアさんがジイさんに代わっているだけで・・ボクが置かれている状況と何から何までそっくりではないか!
冷たいものが、ボクの背中を走った。
ボクは、もう一度、枕元に立っているジイさんの顔を見上げた。
室内灯の明かりの中で見るそれは・・無表情で、死人のような顔だった。真っ青で、血の気がないのだ。ボクは蝋人形を連想した。
ジイさんは黙ってボクを見降ろしたままだ。身じろぎもしない。
恐怖がボクを襲った。
ジイさんの視線を避けるように・・ボクは布団を眼の下まで引き上げた。本当は、布団で眼も覆ってしまいたかったのだが・・眼の前が真っ暗になる恐怖が、ボクにそうさせなかった。
ボクは布団から眼だけを出して、ジイさんを見上げた。
すると、ジイさんの手が動いて・・ボクの布団にかかった。
ボクには分かった。ジイさんは、布団をめくろうとしているのだ・・
(つづく)
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