第45話 原初の闇

カサンドラがもたらした「原初の闇」という言葉は、チーム全員の胸に重く響いた。彼女が見た記憶の断片は、帝国が計画している銀河規模の脅威を示唆していたが、その全貌はまだ掴めていない。


ゼノはブリッジの窓越しに広がる宇宙を見つめながら、静かに呟いた。「原初の闇……それが銀河全体を覆い尽くすというのか。」


カサンドラはまだ体の震えが治まらず、椅子に深く座り込んでいた。彼女の瞳には恐怖が宿っていたが、その奥には、何かを伝えなければならないという強い意志も感じられた。


「ゼノ……あれは、ただの脅威じゃない。帝国は『原初の闇』を使って、銀河全体を支配しようとしている。でも、その力が解放されれば、誰も彼らを止められなくなる。私たちは、その前に止めなければならないのよ。」


「具体的にどうするべきなんだ?」リラが静かに尋ねた。


「原初の闇が何であれ、帝国がそこに到達する前に阻止するしかない」とケイドがブラスターを握りしめながら答えた。「奴らがその力を手に入れれば、銀河の未来は終わりだ。」


「だが、どうやってその場所を見つける?」ゼノはカサンドラに目を向けた。「帝国はすでに動き出している。今の情報だけでは、何もできない。」


カサンドラは眉間に皺を寄せ、頭の中で必死に記憶を掘り起こそうとしていた。「あの記憶の断片には、場所を示す手がかりがあった……虚無への道の先……そう、座標が……」


彼女は手元に置かれたホログラム端末を操作し、虚無への道の近くに存在する星系のデータを呼び出した。画面には幾つかの星が浮かび上がり、その一つに赤いマークがつけられた。


「ここよ……この星が、原初の闇の発生源。帝国はすでにこの場所を特定し、アクセスを試みているはず。」


ナヴィがデータを確認し、顔をしかめた。「この星は通常の航路では到達できない。特別な重力波を乗り越えないと、どんな船でもたどり着けないわ。しかも、帝国はすでに防御を固めている。正面突破は不可能よ。」


「ならば、迂回するしかない。」ゼノは即座に決断した。「この戦いが銀河の命運を左右するなら、どんな手を使ってでも帝国を止めなければならない。虚無への道を越えるための方法を探そう。」


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エニグマ号は、全速力で「虚無への道」へと向かった。帝国の防御網が強化されているとはいえ、彼らには別の手段が必要だった。宇宙の奥深くで銀河全体を支配する力が目覚めようとしている今、ユウたちはそれを阻止するために急いでいた。


船内ではカサンドラが椅子に座り、心を落ち着けようとしていた。彼女の記憶に封じられていた情報が、彼女自身を追い詰めているのだ。


ゼノはそんなカサンドラに静かに声をかけた。「君が思い出してくれたおかげで、僕たちは次のステップに進める。これ以上君を無理させるつもりはない。だが、銀河のために、もう一度だけ力を貸してくれ。」


カサンドラはゆっくりと顔を上げ、ゼノを見つめた。彼女の瞳には決意が浮かんでいた。「私も戦うわ。これが私の使命なら、最後までやり遂げる。」


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エニグマ号は虚無への道を越え、遂に帝国が狙っている星へと到達した。しかし、目の前に広がるのは、かつて見たこともないほどの巨大な防衛システムだった。無数の戦艦が星を取り囲み、帝国の防御網が彼らを阻んでいる。


「帝国が全力で守っているのは、この星の中に原初の闇が眠っているからだ。」ナヴィがモニターを見ながら言った。「これを突破するには……」


「全員覚悟を決めろ。」ゼノが言葉を遮った。「僕たちのミッションは、帝国の陰謀を阻止し、銀河を救うことだ。命を懸けてでもこの防御網を突破する!」


全員が無言で頷き、エニグマ号はその圧倒的な戦艦群へと突入した。艦載砲が次々と光を放ち、船体を揺らす衝撃が走る。しかし、彼らの目指す場所はただ一つ――原初の闇が封印された星だ。


「ゼノ、急げ!帝国が原初の闇を解放しようとしている!」カサンドラが叫んだ。


エニグマ号は敵の攻撃をかわしながら、ついに惑星の表面に着陸した。そこには、かつて帝国が築いた古代の遺跡がそびえ立ち、まるでこの場所が銀河の全てを見下ろすかのように存在していた。


「ここが……原初の闇の封印場所……」カサンドラが呆然とつぶやいた。


だが、その時、帝国のエリート部隊が彼らを迎え撃った。彼らは原初の闇を解放し、帝国の絶対支配を確立しようとしていた。


「遅かったな、ゼノ。」帝国の将軍が冷笑を浮かべながら現れた。「だが、もう手遅れだ。今、この瞬間、原初の闇が目覚めようとしているのだ。」


ゼノたちは全力で応戦したが、帝国のエリート部隊は圧倒的な力で彼らを追い詰めていた。しかし、その時――カサンドラが覚醒した。


「私が、止める……!」彼女はクリスタルに触れた瞬間、封印された力を呼び覚まし、帝国の将軍に向かって手を伸ばした。


「原初の闇は、誰にも支配されない!」


カサンドラの叫びと共に、星全体が震え、光が彼女の体を包み込んだ。彼女はその瞬間、自らの命を賭け、原初の闇を封印する力を発揮した。


---


星は再び静寂に包まれた。ゼノたちは、カサンドラが消えた場所をじっと見つめていた。彼女は命を賭して銀河を救ったのだ。


「彼女は……銀河を救ったんだな……」ケイドが静かに言った。


ゼノはカサンドラの最後の姿を思い浮かべ、静かに頷いた。「ああ。彼女が全てを救ってくれた。」


リラが涙を拭いながら言った。「でも、彼女はもういない……」


「彼女の魂は銀河に生き続ける。これからも、僕たちと共に。」ゼノはそう言い、カサンドラの犠牲を胸に抱き、再び宇宙へと旅立った。


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エピローグ


銀河は、彼女の犠牲によって救われた。ゼノたちは、カサンドラが守り抜いた未来を信じ、これからも戦い続けるだろう。原初の闇は再び封印されたが、その背後にはまだ、帝国の陰謀の余韻が残っている。


これが終わりではない――銀河の未来は、まだ戦いの渦中にあるのだ。


【完】

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【完結】壮大なスペースオペラ、エニグマ・クロニクル 〜星間の謎を追う者たち〜 湊 マチ @minatomachi

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