第44話 監獄の最深部へ

「行こう、時間がない。」ゼノの声が鋭く響き、カサンドラ、リラ、ケイド、そしてナヴィは無言で頷いた。彼らの心には、すでに一つの目標が刻まれていた——監獄の最深部。そこに、銀河全体の未来を左右するデータが隠されているのだ。


カサンドラが監獄の内部地図をホログラムで表示させる。彼女の指が画面上を滑り、最深部への道筋を指し示す。「この先に進めば、帝国の秘密データ保管室にたどり着けるはず。ただし、最深部にはさらなる防御システムが待ち受けているはずよ。」


「防御システムか…。」ケイドが眉をひそめ、背中に背負ったブラスターを確認する。「どれだけ厳重だろうと、俺たちなら突破できる。」


「油断は禁物だ。」ゼノは彼を制しつつも、戦闘に備えている表情だった。「カサンドラが正しければ、帝国はここで全ての機密情報を保管している。もしそれが敵の手に渡れば、銀河は終わりだ。」


一行は廊下を進み、さらに深く冷たい金属の通路を降りていった。監獄の内部は静寂に包まれ、彼らの足音だけが響いていた。しかし、その静けさが逆に不気味で、何かが待ち受けているような緊張感が漂っていた。


「ゼノ、ここから先が問題よ。」カサンドラが立ち止まり、目の前にそびえ立つ巨大な扉を指さした。「この扉の向こうが最深部の入り口。通常のパスワードやIDでは開かない。帝国の高位将校だけが知る特別な認証コードが必要なの。」


ゼノは彼女に目を向けた。「君はそのコードを知っているのか?」


カサンドラは一瞬ためらったが、やがて冷静な声で答えた。「ええ、知っている。けれど、そのコードを入力した瞬間、セキュリティが最大限に強化されるはず。つまり…私たちは帝国の防御システムと直接対決することになるわ。」


「それでもやるしかない。」リラが前に出て、ブラスターを構えた。「今さら引き返すわけにはいかない。」


カサンドラは深呼吸をしてから、アクセスパネルに指を置いた。数秒後、彼女はコードを打ち込み始めた。ゼノたちは息を飲んでその動作を見守っていた。パネルが短いビープ音を鳴らし、巨大な扉が重々しく開き始めた。


扉の向こうには、広大なデータセンターが広がっていた。銀色の柱や端末が幾重にも並び、無数のホログラムディスプレイが無感情に点滅している。その中心には、巨大なサーバーがまるで監獄そのものの心臓のように鎮座していた。


「ここが帝国の秘密だ。」カサンドラが静かに呟いた。


しかし、次の瞬間、部屋全体が赤い警告灯に包まれ、鋭い警報音が鳴り響いた。天井から警備ドローンが次々と出現し、冷たく光る目で彼らを監視していた。


「来たぞ!」ケイドがブラスターを構え、すぐに最も近くのドローンに狙いを定めた。


「ナヴィ、サーバーを抑えろ!カサンドラと一緒にデータをダウンロードするんだ!」ゼノは素早く指示を出し、リラと共にドローンの攻撃を回避しながら反撃を始めた。


「了解!」ナヴィは端末に飛びつき、カサンドラと共に帝国のデータをハッキングし始めた。膨大な情報がホログラムに映し出され、次々とコードが解読されていく。


「データは守られている!これは…帝国の最高機密だわ。」ナヴィが焦りながら言う。


「そんなことはわかってる。だから急ぐんだ!」ゼノはドローンの光線をかわしつつ、冷静に指示を続けた。


ドローンたちは無慈悲に攻撃を続け、リラとケイドは必死に防御と反撃を繰り返していた。彼らの戦いは激しくなる一方だったが、ナヴィとカサンドラもまた、別の戦いを繰り広げていた。帝国の強固な防御システムが彼女たちを阻んでいたのだ。


「ゼノ、もう少しで…もう少しで解読できる!」カサンドラが叫んだ。


その時、巨大なドローンが彼らの背後から現れ、全てを焼き尽くすようなエネルギー波を放った。ゼノはすぐに地面に伏せ、その波動が彼らの頭上をかすめた。床に焦げ跡が残り、空気が一気に焦げ臭くなった。


「ケイド!あのドローンを抑えろ!」ゼノは叫び、再びブラスターを構えた。


ケイドは無言で頷き、その巨大なドローンに向かって突撃した。ブラスターの光が何度もドローンに打ち込まれ、ついにその動きが鈍くなった。ケイドは最後の一撃を放ち、巨大なドローンが鈍い音を立てて崩れ落ちた。


「ナヴィ、今だ!データを取り出せ!」ゼノが叫ぶ。


「できた!ダウンロード完了!」ナヴィが勝利の声を上げた。


しかし、その瞬間、カサンドラの目が急に鋭く光り、彼女はゼノたちに背を向け、サーバーの端末を操作し始めた。


「カサンドラ、何をしている!?」ゼノが叫ぶ。


「私にはもう時間がない。」カサンドラは低い声で言った。「この場所は自爆システムが組み込まれているの。帝国は絶対に自分たちの情報を他者に渡さない。私はここで、全てを終わらせる。」


「待て、そんなことをしても君自身も…!」ゼノは叫びながら彼女に駆け寄った。


しかし、カサンドラは静かに微笑んで言った。「もう私に残された道はないわ。ゼノ、私を信じて。銀河の未来はあなたたちに託すわ。」


彼女が最後のキーを押した瞬間、部屋全体が再び赤い警告灯に包まれ、システムの音声が響き渡った。「自爆シーケンス、起動。全システムをロックダウンします。」


「逃げるぞ!」ゼノは振り返って叫び、全員が一斉に出口へと駆け出した。だが、時間は限られていた。


---


「カサンドラ、来い!」ゼノは彼女の手を強く引き、冷たい金属の床を全速力で駆け抜けた。カサンドラの目には躊躇が見えたが、ゼノの真剣な表情に押され、彼女は走り始めた。彼女を置き去りにするわけにはいかなかった。時間は限られているが、彼女が銀河の未来を救う鍵を握っている以上、ここで命を捨てさせるわけにはいかない。


「自爆システムが作動するまで、あと5分!」ナヴィが端末を確認しながら叫んだ。彼女の声には焦りが滲んでいた。


「これが現実か…!」ケイドが息を切らせながら叫ぶ。「このままじゃ俺たち、全員ここで消えるぞ!」


「そんなことはさせない!」ゼノは必死に叫び返し、逃げ道を探す目は鋭かった。広大な監獄内部を駆け抜ける彼らの足音が、監獄の静寂を打ち破って響いていた。


「左に曲がれ!」リラが通路の先を指し示し、チームは一斉に方向を変えた。彼女は地図を頭に叩き込んでおり、逃走経路を完璧に把握していた。


しかし、その時、通路の先で低い唸り声が聞こえた。突然、前方の壁からドローンが現れ、彼らの行く手を遮った。ドローンの冷たい目が輝き、攻撃の準備をしているのが明らかだった。


「またか!」ケイドはブラスターを構え、素早くドローンを撃ち抜いた。だが、倒れたドローンの後ろからさらに二体が現れ、レーザーを放った。


「ナヴィ!シールドを展開して!」ゼノが叫んだ。


ナヴィは端末を操作し、即座に携帯シールドを展開。透明なエネルギーフィールドが彼らの前に現れ、ドローンの攻撃を防いだ。「シールドの持続時間は限られてるわ!早く抜け出さないと!」


「了解だ!」ゼノはすぐさま指示を出し、リラがさらに前方に進んで道を切り開いた。彼女の動きは軽やかで、一瞬の隙をついて次々とドローンを撃破していった。ゼノはその隙に、カサンドラを守りながら後方の警戒を続けた。


「ゼノ、なんで私を連れて行くの?私はもう、銀河のために何もできない…」カサンドラが苦しげな声で問いかける。


「君がどう思っていようが関係ない!」ゼノは厳しい口調で答えた。「君はまだ重要な情報を持っている。それが銀河の未来を変える力になるんだ。だからここで君を死なせるわけにはいかない!」


カサンドラはゼノの強い言葉に一瞬戸惑ったが、やがてその意志に引き寄せられるように足を止めずに走り続けた。


「あと3分!」ナヴィがさらに叫ぶ。「シールドが限界よ!」


「もう少しだ!」リラが前方に見えるハッチを指差した。「エニグマ号はあそこだ!」


彼らの目の前に、逃走経路の最終出口が見えてきた。ハッチの向こうには、エニグマ号のシルエットが確認できる。彼らの唯一の脱出手段だ。


しかし、またしても運命は試練を与えるように、監獄の最後の防御システムが作動した。突然、通路の両脇から無数のトラップが発動し、レーザーが空中を交差して彼らの進路を遮断した。シールドも、レーザーを何本か防いだが、その光が激しく揺れ、エネルギーの尽きる音を立て始めた。


「シールドが限界よ!突破しないとここで終わり!」ナヴィの焦りが最高潮に達した瞬間、ゼノは決断を下した。


「俺が前に出る!みんなで一気に駆け抜けろ!」ゼノは自分のシールド発生装置を手に取り、チーム全員を覆うように最大限のエネルギーを展開した。


「ゼノ、無茶だ!」リラが叫んだ。


「無茶でもやるしかない!」ゼノは強引に進み、レーザーの網を強引に突破する覚悟で突き進んだ。


チームは一斉に彼の後ろに従い、シールドのかすかな輝きに守られながら前に進んだ。レーザーが次々とシールドに衝突し、光が激しく散る。ゼノは歯を食いしばりながらシールドを維持し、少しでも長く持たせようと全力を尽くした。


「もう少し…!」ゼノは苦痛に耐えながら叫んだ。体力も精神力も限界に近づいていたが、エニグマ号が目前に迫っていた。


最後の一歩を踏み出し、彼らはようやくハッチを通り抜けた。その瞬間、シールドが限界を超え、崩壊した。背後で通路が崩壊し、巨大な爆発音が響き渡る。ゼノたちはエニグマ号のハッチが閉まると同時に、何とか機体の中へと転がり込んだ。


「出せ!今すぐにエンジン全開だ!」ゼノはブリッジに叫び、エニグマ号は警報音を響かせながらエンジンを吹かした。


エニグマ号は猛スピードで監獄から飛び出し、その背後で爆発が次々と起こった。まるで監獄そのものが崩壊するかのように、炎が銀河の闇を照らし出した。ゼノたちはその光景を見つめ、命の危機を免れたことを実感した。


「間に合った…」ケイドが息を吐き出しながら床に座り込んだ。


「カサンドラ、君は無事だ。」ゼノは彼女の肩に手を置き、微笑んだ。「これで銀河の未来を救うための戦いが始まるんだ。」


しかし、カサンドラはまだ放心したまま、爆発する監獄を見つめていた。「でも、これで終わりじゃない…帝国はもっと恐ろしい計画を進めている。私たちは、これからもっと大きな敵に直面することになるわ。」


ゼノはその言葉を聞き、静かに頷いた。銀河の運命はまだ決していない。これから先、彼らはさらに厳しい戦いに挑むことになるだろう。


---


エニグマ号は監獄を脱出したものの、船内の空気は重く張り詰めていた。カサンドラの記憶には、帝国のさらなる陰謀に関する重要な手がかりが隠されているはずだ。しかし、その情報はまだ表に出ていない。彼女の心の奥深くに封印された何かが、カサンドラ自身を縛り続けているかのようだった。


ブリッジのモニターには、爆発で崩壊する監獄の映像が映し出されていた。ゼノはその光景を見つめながら、カサンドラに向かって静かに口を開いた。


「カサンドラ、君が持っている情報はまだ完全じゃない。帝国の計画を阻止するためには、君の記憶の奥底にある秘密を解き明かす必要がある。」


カサンドラはゼノの言葉に反応せず、ただ無言で窓の外を見つめていた。彼女の目には、まるで彼女自身が何か大きな闇に飲み込まれているかのような、深い虚無感が漂っていた。


リラが静かに歩み寄り、彼女の肩に手を置いた。「カサンドラ、あなたはただの犠牲者じゃない。私たちと一緒に戦って、銀河を救うことができるのよ。」


カサンドラはしばらく黙ったままだったが、やがて静かに口を開いた。「私にはもう、誰が味方で誰が敵なのかわからない。私が知っているのは、帝国が銀河を崩壊させる力を手に入れようとしているということだけ。でも、その詳細が…私の頭の中からどうしても抜け落ちてしまうの。」


「それはおそらく、帝国が君に施した精神的な操作のせいだ。」ナヴィがコンソールを操作しながら答えた。「監獄で何らかの方法で君の記憶を封じている可能性がある。」


「つまり、彼女の記憶は封印されているってことか?」ケイドがブラスターを確認しながら尋ねた。「どうすればそれを取り戻せるんだ?」


「一つの方法がある。」ナヴィはコンソールに手を置きながら、慎重に言葉を選んだ。「脳波を解析し、深層記憶にアクセスすることができる装置がある。だが、それは非常にリスクが高い。彼女の精神に負担をかけすぎると、逆に記憶が永久に失われる可能性もある。」


ゼノはナヴィの言葉に少しの沈黙を置き、深く息をついた。「リスクを承知でやるしかない。カサンドラの記憶の中には、銀河全体の未来がかかっている。何もしないで待っているわけにはいかない。」


「私が…その装置を使うってこと?」カサンドラは不安そうにゼノを見つめた。


ゼノは優しく彼女の目を見つめ返し、静かに頷いた。「君の意志に委ねる。だが、僕たちは君を一人にはしない。必ず支える。」


カサンドラはしばらく迷った様子を見せていたが、やがて決意を込めて頷いた。「わかった。やってみるわ。もし私が本当に銀河の運命を変える力を持っているのなら…そのために全力を尽くすわ。」


ナヴィはすぐに装置を準備し、カサンドラを座らせた。「この装置は、君の脳波を解析し、最も深い記憶にアクセスする。何か異変を感じたらすぐに知らせて。」


「わかった。」カサンドラは少し緊張しながらも、目を閉じて装置が動き出すのを待った。


ゼノ、リラ、ケイドは彼女の周りに立ち、静かに見守った。ナヴィが操作を開始すると、カサンドラの頭部に取り付けられた装置がゆっくりと光を発し、彼女の脳波をリアルタイムで解析し始めた。


「カサンドラ、深呼吸してリラックスして。記憶の中に入る準備をして。」ナヴィが優しく指示した。


カサンドラは深呼吸し、静かに目を閉じた。徐々に、彼女の意識は過去へと遡っていった。帝国の暗い廊下、監獄の冷たい壁…そして何か恐ろしい影が彼女の記憶の中に潜んでいた。


突然、カサンドラは苦しそうに顔を歪め、体が震え始めた。「…何かが…私を止めようとしている…!」


ゼノはすぐにナヴィに目を向けた。「どうなってる?」


「彼女の脳波に異常が発生している!誰かが彼女の記憶を封印し、今その防御システムが作動しているわ!」ナヴィの声に焦りがこもっていた。


「でも、何かを見ている…何かが…」カサンドラは震えながら声を絞り出した。「帝国の計画…彼らは…虚無への道だけじゃない…」


「虚無への道以外にも何かがあるのか?」ゼノは鋭く問いただした。


「そう…それは…もっと…もっと深い闇…」カサンドラの声が途切れ途切れに響く。「それが…銀河全体を支配するための最後の鍵…それは…」


その瞬間、カサンドラの体が激しく痙攣し、彼女は叫び声を上げた。「いやああああ!」


「止めろ、ナヴィ!」ゼノはすぐに指示を出し、ナヴィは装置を緊急停止させた。


カサンドラはハァハァと荒い呼吸を繰り返し、ぐったりと椅子に座り込んだ。彼女の目は虚ろで、まだ完全に現実に戻っていないようだった。


「何が見えた、カサンドラ?何を思い出した?」ゼノは慎重に問いかけた。


カサンドラは震える声で答えた。「それは…『原初の闇』…帝国の最も深い秘密…銀河全体を覆い尽くすための力…それが、虚無への道の先に待っている…」


「原初の闇…」ゼノはその言葉を反芻し、静かに呟いた。


カサンドラが思い出したその言葉は、銀河全体の未来を揺るがす新たな脅威を示唆していた。帝国は、虚無への道を超えるさらなる恐ろしい力を手に入れようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る