第36話 戦いの前触れ

エニグマ号がエテルニス帝国の旗艦へと進撃する中、銀河の闇を切り裂くように、無数の星々が静かに瞬いていた。銀河の中心へ向かう航路は、通常の航海とは異なり、重く、そして何か得体の知れない緊張感に包まれていた。


周囲の星雲は淡い紫と青の霧で満たされ、その中で巨大なガス雲がゆっくりと蠢いている。遠くの星がぼんやりとした光の帯を描き、銀河の果てに続いていくような錯覚を覚える。その美しさは、まるで静寂の中に潜む何かを暗示しているかのようだった。


エニグマ号のブリッジでは、ゼノ・オスカーが緊張した面持ちで、目の前に広がる光景をじっと見つめていた。彼の周囲には、クルーたちがそれぞれの持ち場で黙々と準備を進めていた。戦いの前の静けさが、彼ら全員に重くのしかかっていた。


「これが、嵐の前の静けさというやつか…」ケイド・ローガンが低くつぶやきながら、艦のメインシステムの最終チェックを行っていた。「こんなに静かなのは不気味だ。まるで、何かが起こるのを待っているような感じがする。」


「その通りかもしれない。」ゼノが静かに応えた。「だが、私たちがここで立ち止まるわけにはいかない。この戦いが銀河の未来を決める。準備は整っているか?」


リラ・ナイトシェイドが艦のナビゲーションシステムをチェックしながら頷いた。「全システムが正常に稼働しています。エテルニス帝国の旗艦は目の前です。あとは、タイミングを見計らって突入するだけです。」


「周囲の状況はどうだ?」ゼノが問いかけた。


「目の前に広がるのは、帝国の艦隊の主力部分です。」ナヴィ・エルドレッドがセンサーを確認しながら答えた。「あちらも我々の接近に気づいているはずですが、今のところ動きはありません。待ち伏せか、もしくは我々をおびき寄せようとしているのかもしれません。」


ゼノは再び外の光景に目をやった。銀河の星々が、まるで彼らを見守るかのように瞬いている。その中で、エテルニス帝国の旗艦は、闇の中に巨大な影を落としながら静かに浮かんでいた。その姿は、まるで暗黒の要塞のようであり、ゼノたちを飲み込もうと待ち構えているかのようだった。


「我々は、この影の中に飛び込む準備ができている。」ゼノは覚悟を決めた声で言った。「全員、これが我々の使命だ。銀河の未来を守るため、帝国の中枢を叩く。誰一人、後戻りはしない。」


ケイドが手を止め、ゼノに向かって力強く頷いた。「了解。すべての兵器システムを最大出力に設定。いつでも攻撃を開始できる。」


「ナヴィ、リラ、準備はいいか?」ゼノが再び確認を取る。


「もちろんです。」ナヴィが冷静に答え、リラも力強く頷いた。「帝国の防衛システムを突破し、我々が突入できる隙を作ります。」


「よし、では行動開始だ。」ゼノは命令を下し、クルーたちが一斉に動き出した。


エニグマ号は、静かにエテルニス帝国の旗艦に向けて進み始めた。その進路はまるで、闇の中に広がる道筋を切り裂いていくようであり、ゼノたちはその先に待ち受ける運命に向かって突き進んでいた。


帝国の旗艦は、依然としてその不気味な沈黙を保っていたが、その内部では何かが動き始めている気配があった。銀河の闇を切り裂くように、エニグマ号はゆっくりと、その深淵へと近づいていく。


「いざ、進め。」ゼノが静かに言葉を放ち、エニグマ号は次の戦いに向けて全速力で突進していった。


銀河の果てに続くような道を進みながら、彼らは戦いの運命を自らの手で切り開こうとしていた。その先には、彼らの想像を超えた運命が待ち受けていることを、ゼノは強く感じていた。

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