第30話 バーでの出会い
ゼフロンステーションの広大なドックにエニグマ号が係留され、修理と補給が行われている間、ゼノ・オスカーは短い休息を取るためにステーション内のバーへと足を運んでいた。戦闘の疲労と緊張が彼の体に重くのしかかっていたが、今は少しだけ心を落ち着けたいと思っていた。
バーの中は薄暗く、静かな音楽が流れる中で、多くの商人やステーションの住人たちが集まっていた。ゼノはカウンターに腰掛け、バーテンダーに軽く頷くと、ウィスキーを注文した。
「強いのを頼む。」ゼノは短く言い、カウンターに肘をついて周囲を見渡した。
ステーションのバーは豪華な装飾が施され、どこか異国情緒漂う雰囲気が漂っていた。彼の目に映るのは、多くの異なる種族や文化が交錯する銀河の縮図ともいえる風景だった。
その時、カウンターの隣に一人の女性が静かに座った。彼女は深い赤のドレスをまとい、長い黒髪が美しく流れていた。ゼノが彼女に気づいた時、彼女は静かに微笑みながら話しかけてきた。
「ここで会うのは珍しいですね、ゼノ・オスカー船長。」
ゼノは驚きとともに彼女の顔をじっと見つめた。「君は…?」
「アリシア・レヴァンティスです。商人連合の外交官の一人です。」彼女は微笑を浮かべたまま、ウィスキーを一口飲んだ。
「そうか、君が…」ゼノはアリシアの名前を聞いて、彼女が商人連合の中でも特に影響力を持つ人物であることを思い出した。「何か私に用があるのか?」
「ええ、もちろん。」アリシアはグラスを揺らしながら言葉を続けた。「あなた方のような戦闘艦がゼフロンに立ち寄ることは滅多にありません。そして、あなたのような重要な人物がここにいるなら、私たちも注意を払わざるを得ないのです。」
「私たちはただ、船を修理し、補給するためにここに来ただけだ。」ゼノは静かに言った。「余計なトラブルは望んでいない。」
「それは理解しています。でも、私が興味を持っているのは、あなた方の目的地と…何を求めているのかです。」アリシアはゼノの目を見つめながら、少し身を乗り出してささやいた。「あなたが探しているもの、教えてもらえませんか?」
ゼノはしばらくアリシアの言葉を考えた後、慎重に答えた。「私たちの目的は、銀河の平和を守ることだ。そして、そのために必要なものを探している。」
「平和…それは素晴らしい目標ですね。」アリシアは優雅に微笑んだ。「でも、平和を得るためには、時には強力な手段が必要になることもある。私たち商人連合も、そのための取引を惜しむことはありません。」
「君は何を提案しているんだ?」ゼノは彼女の意図を探るように問いかけた。
「簡単なことです。」アリシアはグラスを置いて、ゼノに真剣な目を向けた。「あなた方が探しているエターナル・スピアの力…私たち商人連合は、その情報に非常に興味を持っています。その力を使うことで、銀河全体の秩序を再構築する手助けができるのではないかと。」
ゼノはアリシアの言葉に警戒心を抱きつつも、彼女がただの外交官以上の存在であることを悟った。「君たちは、エターナル・スピアの力を手に入れるために、私たちを利用しようとしているのか?」
「利用だなんて、そんな言い方はしないでください。」アリシアは静かに首を振った。「これは互いに利益を得るための提案です。あなた方の目的に協力し、私たちの目的も達成する。双方にとって、悪い話ではないと思いますが?」
ゼノは彼女の言葉にじっと耳を傾けた後、グラスを持ち上げてウィスキーを一口飲んだ。「考えておく。」
「それで結構です。」アリシアは微笑みながら席を立った。「考える時間はたっぷりありますから。そして、決断を下す時が来たら、私を呼んでください。」
彼女は優雅にゼノに別れを告げると、バーを後にした。ゼノは彼女の後ろ姿を見送りながら、彼女が残した言葉の意味を深く考えた。
アリシアとの会話は、ゼノに新たな疑念と可能性をもたらした。商人連合がエターナル・スピアに興味を持ち、それを銀河全体の秩序に利用しようとしているならば、彼らとの関係をどう築くべきかが次の大きな課題となる。
「さて、どうする…?」ゼノは静かに呟きながら、再びウィスキーを一口飲んだ。
彼の心には、アリシアとの出会いがもたらした複雑な感情が渦巻いていた。しかし、彼はすぐに気を引き締め、クルーたちと共に次なる戦いに備える決意を固めた。銀河の未来を守るための戦いは、まだ続いているのだ。
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