第9話 連邦との衝突

エニグマ号は、銀河連邦の艦隊を避けながら新たな目的地へと向かっていた。船内の空気は張り詰め、クルーたちは全員が緊張した面持ちで任務にあたっていた。ゼノ・オスカーは、連邦の動きを警戒しつつ、古代の装置に関するデータの解析を続けていた。


「ヴァーゴ、連邦艦隊との距離は保てているか?」ゼノが尋ねた。


「はい、今のところ彼らは我々に気づいていないようです。ただし、彼らの探査範囲に入ればすぐに見つかる可能性があります。」ヴァーゴ・キンタロスが冷静に報告した。


「よし、このまま慎重に進め。」ゼノは指示を出した後、リラ・ナイトシェイドの方に目を向けた。「リラ、装置の解析は進んでいるか?」


「少しずつ進展していますが、まだ全貌を解明するには至っていません。ただし、装置が完全に起動した場合、銀河全体に影響を与えることは間違いありません。」リラがデータを見つめながら答えた。


「その影響がプラスかマイナスか、それを見極める必要がある。」ゼノは深く頷き、思案にふけった。


その時、船内に警報が鳴り響いた。ヴァーゴが即座に反応し、スクリーンに映し出されたデータを確認した。「船長、連邦艦がこちらに急接近しています!彼らに気づかれたようです。」


「避ける手段はあるか?」ケイド・ローガンが緊張した声で尋ねた。


「今の状況では、接触を避けるのは難しいかもしれません。」ヴァーゴが厳しい表情で応えた。


「やむを得ない…交渉を試みよう。彼らが我々の目的を理解してくれれば、最悪の事態は避けられるかもしれない。」ゼノは決断し、クルーに指示を出した。「全員、ブリッジに集合し、状況に備えろ。」


エニグマ号は速度を落とし、連邦艦との接触に備えた。数分後、連邦艦からの通信が入り、ゼノはその呼びかけに応じた。スクリーンに映し出されたのは、銀河連邦の高官と思われる人物だった。


「こちらは銀河連邦艦エクスカリバー。あなた方の行動が不審と判断され、即刻停船し、指示に従うことを要求する。」連邦の高官が冷徹な声で言った。


「こちらはエニグマ号、船長のゼノ・オスカーです。我々は学術探査のためにこのエリアを調査しています。いかなる敵対行動も意図していません。」ゼノは冷静に応答した。


「あなた方が所持している古代の装置について、銀河連邦はすでに情報を得ています。その装置は我々にとって重大なリスクとなり得る。即刻、我々に引き渡しなさい。」高官は一歩も引かない態度で命令を続けた。


「その装置は、まだ完全に解明されていません。それを不完全な状態で引き渡すことは、逆に銀河全体に危険を及ぼす可能性があります。」ゼノは説得を試みた。


「言い訳は通用しない。我々はそれを封印するための処置を行う。従わない場合、強制的に措置を取らせてもらう。」高官は冷酷に言い放った。


ゼノはしばし黙考し、最終的に決断した。「私は銀河の平和を守るためにここにいる。その装置が悪用されることは決して許さない。」


その瞬間、連邦艦からエネルギーシグナルが発せられ、エニグマ号のシステムにロックオンがかかった。ケイドは即座に反応し、シールドを最大出力に上げた。「船長、戦闘は避けられそうにありません!」


「全員、戦闘態勢に入れ!」ゼノが声を上げた。


エニグマ号と連邦艦との間で、緊迫した戦闘が始まった。エニグマ号は防御に徹しつつ、連邦艦の攻撃をかわしながら逃れる道を探していた。ケイドの指揮の下、船は巧みに敵の攻撃を避け、反撃を試みた。


「彼らの攻撃は熾烈だが、まだ我々には機動力がある!」ケイドが冷静に指示を続けた。


「ヴァーゴ、急速に機動を変えて敵の射程外に出ろ!リラ、システムの防御を強化してくれ!」ゼノは迅速に指示を飛ばし、クルー全員が一丸となって戦闘を繰り広げた。


しかし、連邦艦の火力は強大で、エニグマ号のシールドは次第に限界に達しつつあった。その時、リラが新たなエネルギー反応をキャッチした。


「船長、装置が自動的に起動し始めました!何かが反応しています!」リラが警告を発した。


「装置が起動…?」ゼノは驚きつつも、すぐにスクリーンに目をやった。装置が発するエネルギーがエニグマ号全体に広がり始め、その影響で連邦艦の攻撃が突然停止した。


「これは…?」エリサが信じられないという表情でスクリーンを見つめた。


「装置が我々を守ろうとしているのか…?」ゼノはその状況に戸惑いながらも、何とか冷静を保とうとした。


次の瞬間、装置から放たれたエネルギーが空間に広がり、エニグマ号と連邦艦を包み込んだ。全てが一瞬で静まり返り、まるで時間が止まったかのような感覚が船内に漂った。


「何が起こっている…?」ケイドが困惑した声を漏らした。


その時、ゼノの前に再びあの巨大なホログラムが現れた。それは以前のホログラムとは異なり、まるで彼に直接話しかけているかのようだった。


「あなたは選ばれた。我々が遺した力を制御する者として。だが、その力をどう使うかは、あなた次第だ。」ホログラムの声が静かに響いた。


ゼノはホログラムを見つめながら、自らの決断が銀河の運命を大きく左右することを理解していた。「私はこの力を使い、銀河を守る。だが、そのためにはまず、この試練を乗り越えなければならない。」


ホログラムは静かに消え、エニグマ号は再び動き出した。連邦艦はエネルギーの影響から逃れ、徐々に後退を始めた。ゼノはブリッジ全体を見渡し、クルーに向けて静かに言った。


「私たちはこの力を手に入れたが、同時にそれを正しく使う責任を負うことになった。これからの道はさらに険しくなるだろうが、全員で乗り越えていこう。」


エニグマ号は再び深い宇宙へと進んでいった。彼らの前には、さらなる試練と真実が待ち受けている。しかし、ゼノとクルーは、今や銀河の運命を背負って進む覚悟を決めていた。

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