第10話 内部の葛藤

エニグマ号が銀河の深奥へと進む中、船内には再び静けさが戻っていた。しかし、その静けさの裏には、クルーたちが抱える複雑な思いが交錯していた。彼らは銀河を揺るがす力を手に入れたが、それをどう扱うべきか、全員が心の中で葛藤していた。


ブリッジで、ゼノ・オスカーはホログラムが消えた後もその場に立ち尽くしていた。彼の心の中には、先ほどのホログラムの言葉が何度も繰り返されていた。


「あなたは選ばれた。だが、その力をどう使うかは、あなた次第だ。」


ゼノはその言葉を重く受け止めていた。銀河全体をコントロールするほどの力を手に入れたことにより、その責任が一層重く感じられていた。彼は、自らの決断がクルーや銀河の未来にどれほどの影響を与えるのかを痛感していた。


「ゼノ、大丈夫か?」ケイド・ローガンがゼノの隣に立ち、静かに声をかけた。彼の表情は厳しく、彼もまたこの状況を重く受け止めていることがわかる。


「ケイド、私たちが直面しているのは、単なる科学の問題ではない。この力は、銀河全体を変える可能性を持っている。それをどう扱うか…私にはその答えがまだ見えていない。」ゼノは正直に答えた。


「俺たちは今、この力をどう使うか、慎重に考えるべきだと思う。だが、時間は限られている。他の勢力がこの情報を手に入れれば、戦争は避けられない。」ケイドの声には、警戒と緊張が滲んでいた。


「そうだな…」ゼノは静かに頷いた。「リラ、今の状況について何か新しい発見はあるか?」


リラ・ナイトシェイドは端末に目を向けたまま、ゼノに応答した。「装置が自己防衛機能を持っている可能性が高いことがわかりました。先ほどのエネルギー放出は、おそらく連邦艦の攻撃に対する反応だったのでしょう。でも、それが意図的かどうかはまだ判断できません。」


「つまり、装置は我々の敵を自動的に排除しようとしている…?」エリサ・トールが不安げに尋ねた。


「その可能性は高い。ただ、それが意識的なものか、単なるプログラムによるものかは分からない。」リラは慎重に言葉を選びながら答えた。


ゼノは深く考え込んだ後、決断を下した。「私たちはまず、この装置がどのように機能するのかを完全に理解しなければならない。そして、それを銀河の平和のためにどう使うべきか、慎重に判断する必要がある。」


ケイドがゼノの言葉に賛同するように頷いた。「その通りだ、ゼノ。我々はこの力を、無謀に使うべきではない。だが、放っておけば、他の勢力に悪用される可能性もある。」


その時、ヴァーゴが再びエネルギー反応を検知した。「船長、再びエネルギー反応が増幅しています。このままでは装置が暴走する可能性があります。」


「暴走…?」ゼノの顔に緊張が走った。「どうにかしてその反応を抑えることはできるか?」


「難しいです。装置が自律的に動いているため、外部からの干渉がうまくいくかは分かりません。」リラは真剣な表情で端末を操作していた。


「リラ、全力で対応してくれ。何としてでもこの暴走を止めなければならない。」ゼノは指示を飛ばし、ブリッジ全体が一層緊張感に包まれた。


エニグマ号は再び混乱の中に巻き込まれつつあった。クルーたちはそれぞれのポジションで奮闘し、装置の暴走を食い止めようと必死だった。その中でゼノは、改めて自らが抱える責任の重さを痛感していた。


「この力が我々を救うのか、それとも破滅へと導くのか…」ゼノは心の中でつぶやいた。「その答えを見つけなければならない。」


クルーたちは全員が一丸となり、装置の暴走を食い止めるために尽力した。だが、その過程で明らかになっていく真実と、彼らが下さなければならない決断が、さらに大きな試練となって彼らを待ち受けていることを、誰もが感じていた。


エニグマ号は銀河の深淵へと進み続ける。その先に待つのは、未知なる未来と、彼らが手に入れた力がもたらす運命の分かれ道だった。

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