第8話 銀河を揺るがす決断

エニグマ号は静かに、そして確実に球体内部から離れ、再び宇宙の暗闇の中に姿を現した。クルーたちは、先ほど目の当たりにした銀河全体のエネルギーフローのホログラムと、古代文明の装置について考えを巡らせながら、それぞれのポジションに戻っていった。ブリッジに戻ったゼノ・オスカーは、その情報をどう活用すべきか、真剣に考え込んでいた。


「銀河全体をコントロールする力を持つ装置…これが我々の手に渡った以上、その使い方を誤れば、取り返しのつかない事態になる。」ゼノは冷静な口調でクルーに話しかけた。


「だが、この情報が他の勢力に漏れれば、戦争は避けられない。」ケイド・ローガンが言葉を重ねた。「俺たちがどれだけ秘密にしていても、追跡者はいるだろう。」


「それに、古代文明がこの装置を作った目的がまだ完全には解明されていない。彼らは本当にこの力をコントロールできていたのか…それとも、何かの災いを防ぐために封印したのかもしれない。」エリサ・トールが慎重に意見を述べた。


「リラ、装置のデータとホログラムから何か新しい発見は?」ゼノはリラ・ナイトシェイドに向き直った。


「解析は進んでいるけど、すぐに全てが解明できるわけじゃない。ただ…」リラは少し躊躇してから続けた。「ただ、この装置が完全に再起動した場合、銀河のエネルギーバランスが大きく変わる可能性がある。ひょっとすると、自然災害や異常現象が頻発するかもしれない。」


ゼノはリラの言葉を聞きながら、しばし黙考した後、決断を下した。「この装置を再起動する前に、我々はその影響を予測し、制御する方法を見つけなければならない。さもなければ、銀河全体を危険にさらすことになる。」


「そのためには、もっと多くの情報が必要だな。」ケイドが冷静に言った。「俺たちは他の古代の遺跡や装置も調べて、全体像を把握する必要がある。」


「そうだな。」ゼノは同意し、次の行動計画をクルーに伝えた。「私たちはこれまでに得た情報を基に、古代文明が残した他の遺跡を探し出す。そこに、この装置を理解するためのさらなる手がかりがあるはずだ。」


その時、ヴァーゴ・キンタロスが再びエネルギー反応を感知した。「船長、銀河連邦の艦がこちらに向かっているのを確認しました。彼らがこのエリアに現れるのは異例です。どうしますか?」


「連邦の艦?なぜこんな場所に?」ゼノは眉をひそめ、画面に映し出された艦隊の映像を見つめた。「もしかすると、我々の動きを察知しているのかもしれない。」


「接触を試みるか?」ケイドが問うた。


ゼノはしばらく考えた後、決断を下した。「いや、接触は避けよう。もし彼らがこの装置の存在を知れば、すぐにでも押収しようとするだろう。エニグマ号をできるだけ目立たないようにして、彼らの動きを観察する。」


「了解。コースを変更して、連邦艦のレーダー範囲外を維持します。」ヴァーゴが船の進路を調整し始めた。


「我々は引き続きこの装置の研究を続けるが、その間に銀河連邦や他の勢力に見つからないよう注意しなければならない。クルー全員に対しても、装置の詳細は極秘とする。」ゼノは指示を続けた。


エニグマ号は銀河連邦の艦隊の目を避けつつ、新たな目的地へと進んでいった。彼らの前には、さらなる危険と謎が待ち受けていることを、誰もが予感していた。だが同時に、銀河の命運を握る重大な決断を迫られていることも感じていた。


クルーたちはそれぞれの任務に戻り、船内の緊張感は高まるばかりだった。ゼノはブリッジの中心で、再びホログラムに映し出された銀河全体の図を見つめた。その目には決意と不安が交錯していたが、彼の声は冷静で強かった。


「我々がこの旅の果てに何を見つけるかは分からないが、銀河の未来は我々の手にかかっている。全員が一丸となって、この試練を乗り越えるぞ。」


エニグマ号は再び、そのエンジンを鳴らし、深い宇宙へと進んでいった。クルーたちが抱える重圧と、彼らが目指す真実の先に、果たして何が待ち受けているのか—それは、まだ誰にも分からないことだった。

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