第2話 ファーストコンタクト

エニグマ号がオメガ領域への航行を開始して数日が経過した。航行システムは順調に作動し、船内は規則正しいリズムで動いていた。クルーたちはそれぞれの任務を着実にこなし、未知の領域に向けて進んでいた。


ゼノ・オスカーはブリッジに立ち、観察窓越しに広がる無限の星々を見つめていた。オメガ領域に近づくにつれて、星の配置が微妙に変わり、空間の歪みが感じられるようになってきた。彼はデータパッドを手に取り、現在の進行状況を確認した。


「距離、オメガ領域まであと2パーセク。」ヴァーゴが航行システムのデータを報告した。


「シールドと武器システムの状態はどうだ?」ゼノが尋ねる。


「シールドは通常通り稼働中、武器システムもスタンバイ状態です。」ケイドが即座に答えた。


その時、船内の通信システムが不意にアラートを発した。異星種族からの通信が受信されたことを示している。


「通信が入ってきた、正体不明の信号源からです。」リラが端末に向かって報告した。彼女の声には、わずかに緊張が混じっていた。


ゼノはすぐにモニターに目を移した。異星からの通信は、断続的で不明瞭だったが、その内容を解析する必要があった。


「リラ、通信を解析して、意味を解読できるか試みてくれ。」ゼノが指示を出す。


リラは頷き、手早く端末を操作し始めた。彼女の指はキーを滑らかに叩き、次々とデータがスクリーンに表示されていく。彼女のサイバネティックエンハンスメントは、このような状況で非常に役立っていた。


数分後、リラは顔を上げてゼノを見た。「信号は古代の言語で送られてきていますが、解析に成功しました。彼らは我々に『接触』を求めているようです。」


「接触?」ゼノは眉をひそめた。異星種族が彼らにコンタクトを求めるということは、何か重要な情報があるに違いない。


「船長、我々はどのように応答すべきでしょうか?」ヴァーゴが慎重に尋ねた。


ゼノはしばらく思案した後、決断した。「我々は科学者であり、未知を恐れるべきではない。彼らの提案に応じよう。だが、全ての防御システムはフル稼働にしておいてくれ。」


ケイドはその命令に即座に反応し、武器システムのチェックを開始した。「了解。全システム、戦闘態勢に移行します。」


エニグマ号のブリッジは静かに、しかし確実に緊張感が高まっていった。クルーたちは、これが単なるファーストコンタクトではなく、彼らの命運を左右する瞬間であることを悟っていた。


数時間後、オメガ領域の端に到達したエニグマ号は、異星種族の宇宙船と接触する。船は巨大で、まるで漆黒の海に浮かぶ要塞のようだった。彼らの技術は明らかに地球のものとは異なり、その船体はまるで生きているかのように脈動していた。


「船長、彼らが通信を送ってきました。」リラが報告する。スクリーンには、異星種族のリーダーと思しき人物の姿が映し出される。彼の顔は特徴的で、人間にはない独特の模様が刻まれていた。


「我々はあなた方を歓迎する。だが、この領域に踏み入る前に、あなた方の意図を明らかにしていただきたい。」異星種族のリーダーが、ゆっくりと慎重な口調で言葉を発する。


ゼノは一瞬躊躇したが、冷静な表情を保ちながら応答した。「我々は探査と学術研究のためにこの領域を訪れました。銀河連邦の名の下に、平和的な接触を望んでいます。」


異星種族のリーダーは、しばらくゼノを見つめた後、頷いた。「よろしい。我々はあなた方の提案を受け入れる。だが、ここにはあなた方が知らない多くの危険が潜んでいることを忘れないでほしい。」


通信が切れると、ブリッジに一瞬の静寂が訪れた。ゼノは深呼吸し、クルーに向き直った。


「これは単なる冒険ではない。これから先、我々が直面するものは、これまでのどんな困難よりも厳しいだろう。だが、我々は準備ができている。」


ケイド、リラ、ヴァーゴ、そしてエリサをはじめとするクルー全員が、それぞれの任務に向けて一層の決意を固めた。エニグマ号は再び進路を取り直し、未知の領域へと進んでいった。銀河の運命を握る鍵が、彼らの目の前に広がっていることを誰もが感じていた。

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