第16話 三大騎士


「アレクサンダー……」


 ボソッとつぶやくと、驚いた表情をしてこちらを向く。


「俺のことを知っていたのか」


 アレクサンダーのことを知らない人はほとんどいないだろう。なんせ、この人は世界で政治や権力に左右されない唯一無二の存在、三大騎士なのだから。


 三大騎士とは、世界で最も優れた剣術を扱う人たち三人を指す。それ以外にも三大魔法師も存在している。


 三大魔法師も三大騎士同様のような存在。


(なんでこんなところに……)


 意識が朦朧としながらもアレクサンダーさんのことを見ていると、後ろから人やがってきて、万能薬を飲まされる。


 そして、俺がはっきりとあたりをみえるようになると、そこには涙目のアリスとエミがこちらを見ていた。


「ダイラル、大丈夫?」

「あ、あぁ」

「よかったぁ……」


 安堵したような表情をする二人。


「なんでアレクサンダーさんがここに?」


 どの国にも属さない存在。そんな人がなぜこんな場所に。


「それは、私が呼んだの……」

「エミが?」


 呆然としながらエミの事を見る。


「幼少期のころ、私に剣術を教えてくれたのはアレクサンダー先生。エルフ国を出る前、パパに頼んだんだ」

「そ、そうなんだ」


(そんな設定があったなんて……)


 俺がアレクサンダーさんの方を向くと、笑みを浮かべながら言った。


「本当によく時間を稼いでくれた。君のおかげでこの国は救われるよ」


 その言葉に俺が首をかしげる。


「今から俺の戦いを見ていなさい。君には見てもらう価値がある」


 そういって、魔人とアレクサンダーさんの戦闘が始まった。


 まず初めに魔人が魔法を放った。すると、難なく避けながら魔人の片腕に切りかかる。だが、切りかかった方向とは逆の腕が切り落ちた。


(何が起こったんだ?)


 無意識に立ってしまいながら、アレクサンダーさんと魔人の戦闘を見る。


 すると、徐々に理解し始める。


 魔人の攻撃に対しては、相手の視線や魔素の乱れによって位置を把握し、瞬時に避けている。そして、攻撃をするときは、何度も細かいフェイントを入れていた。


(次元が違う……)


 それに、この人は俺たちにわかるよう戦っている。なら、全力を出したらどうなってしまうんだ。


 そう考えたとき、俺は背筋がゾッとしてしまった。


 すると、魔人が暴走し始める。


「自爆か、何とも馬鹿なことを」


 アレクサンダーさんはそう呟いた。そして、次の瞬間、何が起きたのかわからずに魔人の体が切り刻まれて地面に落ちた。


(すごい……)


 俺にあれができるのか。そう考えたとき、どれだけアレクサンダーさんと俺の実力が遠いのかを実感する。


 そして、アレクサンダーさんは後始末をするといって、この場を後にした。


「アリス、エミ本当にありがとう」

「ううん。私の方こそありがと」

「え?」

「守ってくれたんだもんね」

「……」


 温かい目で俺のことを見てくる二人。


「一旦、パパのところへ戻っか」

「あぁ」


 そして、俺達はバルドさんの元へと戻っていった。



 無事であった屋敷で休息を取り、現状を把握する。そこから、各自できることを行い始め、数日が経って行った。


 ライドの件については、秘密事項が多く、上層部のなかでも一部の人材しか知ることができない状況だった。


 そのため、バルドさんからの報告があるまで聞くことができなかった。


 ちなみに、俺の実家はあの一件を聞いた瞬間、近隣国に逃げ出し、現状もこの国にはいない。

 

 そして、一通り区切りがついたタイミングで、アレクサンダーさんが俺の元へ来る。


「俺はここを立つが、君はもっと強くなる。だから、俺の力を見せた。この意味が分かるよな?」

「はい」


 この前のあれを参考にしろということ。そして、あれを超えろということだ。


「楽しみにしているさ。後はエミ様のことを頼んだよ」

「はい」


 アレクサンダーさんは手を振りながらこの場を去っていった。そして、俺が屋敷に戻り、夕食を取り始める。すると、バルドさんが言う。


「ダイラルくん、アリスと婚約者にならないかい?」

「は?」


 俺を含めた全員が驚きを隠しきれなかった。その時、アリス顔を真っ赤にし、エミは呆然とした表情をしていた。


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