第12話 戦闘
俺たち全員が屋敷の外に出ると、あたり一帯で悲鳴声が聞こえた。
(本当に起こってしまった……)
隣に立っているアリスとエミに視線を送り、バルドさんに言う。
「俺たちも南西に向かいたいと思います」
「それはダメだ‼」
バルドさんは門の前に立ち、敷地から出さないように立ち振る舞う。
「なぜですか?」
「君たちはこの国の未来を担う存在。命を捨てに行かせるようなことはできない」
「お父さん、わかって。私たちはいかなくちゃいけない」
「ダメだ。これだけは譲れない」
バルドさんの言うことは間違ってはいない。アリスや俺は公爵家、エミに関しては王族だ。そんな人を戦闘が起きている場所に向かわせるわけにはいかない。
(だけど……)
「バルドさん、俺たちは何ですか?」
「何とは?」
「俺たちは貴族です。それがどういう立ち位置なのかあなたが一番わかっているはずです」
そう。俺たちは貴族。国民を守る義務がある存在。
「こういうことは言いたくないが、君たちの変わりはいないんだ」
「それは国民も一緒です‼」
「国民に変えが利くとは言わない。だが、君たちは国民以上の存在なんだ。分かってくれ……」
こんなにまで真剣な表情をしているバルドさんを見たのは初めてだ。だけど、俺にだって引けない。
「バルドさん。国民がいなければ俺たちは成り立たない。だから俺は助けに行きます」
「……」
俺はアリスとエミの事を見た後、深呼吸を置いて言う。
「二人は変えが利かないでしょう。ですが私は違う。兄がいます。だから俺一人だけ行きます」
その言葉を聞いたアリスとエミは、驚きを隠しきれていなかった。
「「ダメ‼」」
「ごめん、だけど俺はいかなくちゃいけない。それに俺さ、この国好きだから」
どれだけ馬鹿にされたって、やさしくしてくれる人はいた。そんな場所が俺は好きだ。
バルドさんの横を駆け抜けて、俺は一人で南西へと向かって行った。
「ダイラルくん‼」
後方からバルドさんが叫びながら、俺はこの場を後にした。
★
街中はパニック状態に陥っていた。国民たちはこの場から離れようと人を追い除けて走り出していた。
(どこだ、どこが元凶なんだ‼)
俺が走りながら探していると、建物の隙間からホブゴブリンが現れる。
俺は剣を抜きながら、
(そんなの知っているさ)
ホブゴブリンの背後を取り、こまめに切り刻んでいく。すると、雄たけびを上げながらこん棒を振り下ろして攻撃を仕掛けてくる。
(遅い)
あの魔族に比べたら、こんなの遅すぎる。ホブゴブリンの攻撃を難なく避けて、首を切り落とした。
(よし、次だ)
この場を後にして、先へ進む。
道中火の海になっていて、どこから対処すればよいかわからない状況で、親子がコボルトに攻撃を仕掛けられそうになっていた。
(間に合え‼)
俺の魔法じゃコボルトは殺しきれない。そう思った時には、全力で走りだしていた。
(これは間に合わない……)
走っている時に悟る。確実に目の前にいる親子は殺される。そう確信したとき、後ろから魔法が放たれてコボルトが殺される。
後ろを振り向くと、そこには担任のリーバ先生が立っていた。
「ダイラルくん、君も逃げなさい‼」
そういった瞬間、物陰からゴブリン数体がリーバ先生に襲い掛かる。俺はとっさに体が動き、ゴブリンを切り殺す。
すると、驚いた表情でこちらを見てくる。
「助けてくれてありがとう。き、君は本当にダイラルくん?」
「はい」
「……」
俺はこの場を後にして先へ進む。
「ダ、ダイラルくん‼」
(ごめんなさい)
でも、俺はこの世界を嫌いになれない。だから、俺一人の命だけで元通りになるのなら何とかしたい。
走りながらあたりを見回していると、背後から殺気を感じる。
無意識に横に飛ぶと、先ほど俺がいた場所は黒く焼け焦げていた。
「ほお、これを避けるか」
瓦礫の上にガタイの良い魔族が立っていた。
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