第11話 帰国


 

 (やっと戻れる)


 本当は、すぐにでもアリバルン国へ帰国したかったが、アリスとエミから万全になるまでは出ることを許してもらえず、数日を過ごした。


 なぜかエミから王室の前に集合するように言われたため、俺とアリスが予定時刻に集合すると、一枚の大きな鏡が用意されていた。


 俺たちの顔を見て、エミが真剣な表情をしながら言う。


「二人とも、これから起こることは他言しないでほしい」

「あ、あぁ」

「うん」


 俺たちの反応を見た後、エミは鏡に魔力を入れ始める。すると、俺たちを写していた鏡が歪み始めた。


(なんだ!?)


 驚きを隠しきれない俺とアリスに対して、エミが説明を始める。


「これはアリバルン国付近の森へ繋がる転移晶。古代道具とでもいうべきかな」

「「……」」


 呆然としてしまう俺とアリス。


「今からこれを使うけど、二人には家族を含む全員に言わないでほしい」

「わ、わかった」

「うん」


 そりゃあそうだよ。逆になんで俺たちにこんなものを見せたのかさっぱりわからないレベルの代物だ。


 もしこんなものがあると知られてしまうと、他国はエルフ国を脅威としてみるしかないのだから。


「じゃあ使うよ」


 そして俺たちが鏡の前に行くと、エミのお母さんが俺の近くに寄ってきて言う。


「エミをよろしくお願いします」

「はい」

「無事に帰ってきたらいろいろとお話をしましょうね」


 その言葉に首をかしげていると、目の前が歪んでいき、一瞬にしてアリバルン国付近の森へと転移させられた。


(すごい……)


 前回エミが転移結晶を使ってくれたが、入手することが非常に難しい。それが魔力のみの代償で転移できるなんて。


「早く行こ」


 エミの言葉に俺たちは頷き、アリバルン国へと向かって行った。



 アリバルン国へ到着すると、一見通常通りの風景であった。


(まだ起こっていないってことか?)


 俺はアリスの方を向くと頷きながら言う。


「一旦、お父様に聞きにいこ」

「そうだな」


 俺の家に帰ったところで、なんの情報も教えてくれるはずがない。それに加え、もしかしたら魔族と関わりがある可能性もある。


 だからこそ、ルーリア家に情報が回っているか聞きに行くのは正しい選択だと思った。


 そして、街中を歩いている最中、ある噂が耳に入る。


・ライド王子は婚約者であるアリスを見捨てて逃げてきた


(なんでそんなことを知っているんだ……)


 噂の意味が分からなかった。アリスを見捨てたのは事実だ。だけど、それが起きたのは数日前。エミが情報を流したと言っていたが、国民が噂を流すには早すぎる。


 もしかしたら、この間の件で噂が流れているのかもしれないが、それだとしたら遅すぎる。


 呆然と噂の出所を考えていると、あっという間にルーリア家にたどり着く。


 敷地内でバルドさんが家の外で何かをしているのを見つけて、近寄る。すると、俺たちに気づいたのか、こちらへ駆け寄ってきてアリスに抱き着く。


「大丈夫だったか!?」

「え?」

「魔族に絡まれたんだろ?」

「それはダイラルのおかげで何とかなったよ」


 その言葉を聞いたバルドさんはホットした表情を見せた。そして、俺に頭を下げてくる。


「アリスを助けてくれてありがとう」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「あはは。君はそう言ってくれると思っていたよ」

「それよりも、一つお聞きしてもいいですか?」


 俺の言葉にバルドさんはあたりを見回して、声を小さくした。


「まず屋敷に入ろう」


 俺たちは首をかしげながら頷き、屋敷の中へと入っていった。


「それで、聞きたいこととは何だい?」

「噂はどこから流れたのですか?」

「エルフ国が情報を伝えてくれる一日前、何者かわからないが、一通の手紙が王宮に届いた。それが出所だ」

「……」


(誰なんだ?)


 俺はエミの方を向くが、首を横に振った。


「ありがとうございます。後、ここ最近この国で何か起きましたか?」

「いや、何も起きていないはずだ。だが、噂の影響で国内がピリピリしている状況でもある」

「そ、そうですか……」


(まだ、魔族が言っていた危険になる場面には陥っていないということか?)


 一応はこの件は伝えた方がよいと思い、バルドさんに言う。


「バルドさん、もしかしたら直近で何かが」


 そう言いかけている時、部屋の中へ騎士が入ってくる。


「南西にモンスターが現れました‼」


(は?)


 この部屋にいる全員が呆然と立ち尽くしてしまった。

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