第6話 長期ダンジョン開始


 広場には、長期ダンジョンに挑むライド、ルリ、アリス、エミ、俺がそろっていた。すると、エミは俺たちに一枚の紙を渡してくる。


「長期ダンジョンの内容は以下の通りになっています」


 この国---アリバルンより南西に三日ほど歩いたところにダンジョンがあり、そこの緑良の翼を手に入れるのがクエスト。


 緑良の翼は前世で言う鷲を巨大化したモンスターであるイーグラーを倒すことで入手することができる。


(結構きついな)


 イーグラーとは、ストーリーでも中盤になったら簡単に倒せるモンスターだが、現段階ではかなり厳しい。


 それをわかっているライドとアリスは怪訝そうな表情をしていた。


「それでは、今から二組に分かれて行いましょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。さすがにイーグラーを二人で倒すのは厳しいから、みんなでやらないか?」

「私は程よいクエストだと思いますよ?」


 ライドの言葉に対して、エミは首をかしげながら言った。


「はっきり言って俺たちには荷が重すぎる」

「でも、倒せないモンスターではないですよね? 今回は実力を示すということも名目に入っていますので、簡単なモンスターだと意味がないと思いますよ」

「だが……」


 助けを求める形で、俺とアリスのほうを見てくる。


「私はエミ様の言う通り、このままでいいと思う」

「俺も」

「なぜだ‼」

「ライド様、考えを改めましょう。俺たちにとって、一番最悪なのは死ぬことです。ダンジョンに失敗することではありません。なので、無理なら諦めて帰ってくればいいだけです」

「……」


 少し不服そうな表情をしながらも、エミのほうを向いて覚悟を決めた。すると、 エミは俺たち四人に指輪を渡した。


「では、ダンジョン攻略が終わりましたら、連絡してください‼」


 俺たちは時間をずらしてばらばらに出発を始めた。俺たちは二時間ほどずらして、出発しようとした。その時、アリスが後ろを見ながら言った。


「なんで一緒についてくるのですか?」


 なぜだか一緒についてくるエミに対してアリスが質問をした。


「なんでって、私も皆さんと同じ目的ですよ?」

「私たちじゃなくてもいいじゃないですか‼ それこそライド様のほうで……」

「ライド様のほうへ行ったら、意味がないじゃないですか」

「そ、それはそうかもですけど……」


 もじもじとしながら、一瞬俺のほうを向いてのち、下を見た。


「それにこっちのほうが面白そうですしね」


 エミ様は俺のことをチラッと見ながら言ってくる。


「まあ、じゃあ三人で行きますか」

「はい‼」


 こうして俺たち三人で長期ダンジョンへと向かっていった。



 道中、何度かモンスターと出くわしたが、アリス、俺、エミの順に倒していったことより、あまり疲労がたまらないで先へ進むことができた。


 そして初日の夜、俺は野営の準備、アリスが夕食の準備を始めた。すると、エミがこちらへ近寄ってくる。


「ダイラルさんは、なぜ力を使わないのですか?」

「はい?」


(力ってなんだ?)


「あ~、いえ。なんでもありません」


 エミは背を向けてこの場を去っていった。


(何だったんだ?)


 それに力って何なんだろう。今の実力が俺の力じゃないのか。


(また後で聞けばいいか)


 俺はそう思いながら、準備を終えてみんなのもとへと戻った。すると、すでにアリスが夕食を作り終えており、食事を始めた。


 まず初めに、トウモロコシを温めてスープにしたものを一口食べると、ぼそっと言葉が出てしまった。


「おいしい」


 俺の言葉に、アリスは笑みを浮かべた。


「本当?」

「本当‼」

「よかった。もっと食べてね」


 場に出されているものをグイグイと渡されていき、ゆっくりと食していく。


(どれもおいしいなぁ)


 無言で食していき、一瞬アリスの方を向くと、こちらを見ていた。


「どうしたの?」

「な、なんでもないよ‼」


 そういって、アリスも食事を始めた。


(どうしたんだろう?)


 俺がそう思っていると、エミが俺に向かって言う。


「ダイラルさん、今日の戦いを見ていて思ったのですが、もう少し剣の使い方を工夫してみてはいかがですか?」

「え?」

「今のダイラルさんは剣をただ振っているだけ。それだけでも強いとは思いますが、考えを変えましょう。エルフの国にはレイピアという細い剣が存在します」

「あ~、知っています」


 すると、エミは驚いた表情をした。


「レイピアを知っているのですね」

「はい」

「じゃあ説明は簡単です。レイピアとは剣を振るのではなく、突くやしなやかせるというのを主としています。なので、それを取り入れてみたらいいと思います」


(ほ~)


 いわれてみればそうだ。目の前の剣にだけとらわれていたが、幅広く視野を広げてみるべきだった。


「ありがとう」


 俺は心の底からお礼を言うと、それからも二人で剣について話が盛り上がった。


 ふとアリスの方を見ると、ムスッとした表情でこちらを見ていた。


「そ、そういえばアリス。俺に魔法を教えてくれないか?」

「え」

「俺さ、魔法はあまり使えないんだ。だから、教えてほしい」


 すると、先ほどまでの表情とは一変し、うれしそうな表情に変わった。


「うん‼ 教えてあげる」

「ありがと」

「それでしたら、私も教えますよ」


 その言葉を聞いたアリスはエミの方を一瞬だけ見た。


「あ~、ちょっと行き詰ったら教えてもらうよ」

「はい」


 その後も雑談をして初日が終わった。


 翌日は、日中の戦闘では剣術の応用を聞かせる練習、食後はアリスから魔法を教わるために二人っきりになった。


 するとアリスは突然、俺の胸に顔をうずめてきた。


(え、え!?)


 アリスの行動に頭が真っ白になってしまった。






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