第4話 アリスの家


 目を覚ますと、体中から痛みが出て、うずくまってしまう。


(いった……)


 横を見回すと、そこにはアリスが寝ていた。


「無事でよかった」


 ホッとした瞬間、アリスが目を覚まし、涙を流しながら抱き着いてくる。


「無事でよかった‼」

「痛い」

「ご、ごめん」


 お互い無言の状況が続いて、俺が質問をする。


「そう言えば、あの後どうなったの?」

「あるパーティが助けてくれたんだ。フードを被っていて身元まで分からなかったけど……」

「そっか。誰だかわかればお礼を言いたかったけど」

「うん」


 本当にお礼を言いたかった。あの時助けてもらわなかったら俺たちは死んでいたから。でも、誰か分からない以上、考えても意味がない。


「本当にアリスが無事でよかった」

「ううん」


 そこで、無意識に心の中で呼んでいた【アリス】と呼び捨てにしていることに気付いた。


「ごめん、呼び捨てにして」

「良いよ。私もダイラルって呼ぶから」

「あ、うん」


(なんか、雰囲気変わった?)


 いや、気の所為か。俺はそう思いながら、アリスの方を向くと、少し顔を赤くしていた。


「そう言えばアリスの婚約者とかは大丈夫だったのかな?」

「ダイラルは私とライド様が婚約者だと思っているよね?」

「あぁ。違うのか?」


 公にも婚約者として発表していたはずじゃなかったか。


「実は違うの。婚約者になるってことを公にしているだけで、実際は婚約者じゃないんだ。十八になった時、お互い利益になるなら婚約者になるの」

「へ~」

「でも、公に言っているわけじゃないから、みんなには言わないでね」

「あぁ」


(そんな内情があったのか)


「それで、今回説明した理由は、ダイラルを私の家に招きたくて」

「え?」

「お父さんが是非来てほしいって言ってて」

「え~と」

「ダメ?」


 上目遣いで言われて、少しだけドキッとしてしまう。


「行くよ」

「やった、じゃあ明日には退院していると思うから、準備が出来たら来てね」

「あぁ」


 そして、ドッと眠気が来てしまい、俺は就寝した。


 翌朝、回復魔法であっという間に傷が治り、すぐに退院することが出来た。そして、一回実家に帰ると、父さんから言われる。


「よくやった」

「え?」


(この人が俺を褒めた?)


「助ける相手をよく考えたな。今後もラークネル家の利益になるような人にだけ、助けることだ」

「……」


(やっぱりクズはクズか)


「今日、ルーリア家に招待されているんだろう? 粗相のないようにな」

「は、はい」


 俺は父親に嫌気を指しながら、アリスの実家へと向かって行った。


 ルーリア家の目の前に到着すると、護衛の人が中へ通してくれた。


(公爵家なだけあって、すごいな)


 そう思いながら、ルーリア家内を歩いていると、私服姿のアリスが走ってこちらへ近寄ってきた。


(可愛い‼)


 呆然とアリスのことを見つめてしまった。


「ダイラル‼」

「昨日ぶりだね」

「えっと、どこか変?」


 髪をくるくるとまわしながら言われる。


(あ、もう可愛すぎる)


「今日も可愛いよ」


 俺の一言にアリスは軽いパンチを食らわせてくる。


「う、うるさい‼」 


 顔を真っ赤にしながら、アリスが言った。


「案内するから、ついてきて」


 アリスの後をついて行く形で歩くと、一室に案内される。そして、中へ入るとアリスの両親が座っていた。


「ダイラル・ラークネルと申します」

「あぁ知っているよ。アリスの父をしているバルド・ルーリアだ。隣に座っているのが妻のミシャ」


 すると、二人が立ち上がり負荷深く頭を下げて来た。


「アリスを救ってくれてありがとう」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「ラークネル家と聞いて最初は驚いたが、君は違うみたいだな」

「……」


 その言葉に少しだけ複雑な気持ちになった。実際。ストーリー状では俺がアリスを殺すのだから。


「それで、君にお礼をしたいのだけど、何かないかな?」

「お礼をしてもらうために助けたわけではないので、お気になさらないでください」

「そうも行かない。公爵家のメンツというものもあるから」

「……」


(お礼って言われてもなぁ)


 無言の状態が一分ほど続き、バルドさんが言う。


「何か思いついたかい?」

「もし、俺の身に何か起きたら助けてもらってもいいですか?」

「それは君の家でも学べるのでは?」

「俺がなんて言われているかご存じですよね」


 無能。出来損ない。そう言われている俺に、実家が手助けしてくれるわけがない。それを察してくれたバルドさんは納得した表情をした。


「君は聞いていた人物とは別人のように頭が回るんだね」

「‼」


 ドキリとしてしまった。


「わかった。後、これからもアリスと仲良くしてくれ」

「はい」


 その後、ルーリア家と軽い雑談をして一日が終わった。


 翌日、クラスに入ると、ライド様が怪訝そうな表情でこちらを見て来た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る