第3話 ミノタウロスとの戦い


 目を開けると、一階層とは違い、あたり一帯が草原と化していた。


「アリス、アリス‼」


 俺が叫ぶと、ゆっくりと目を開けた。


「あ、あれ? ここは?」

「多分二階層……」


 アリスは辺りを見回しながら、絶望の表情をして下を向いた。


「な、なんで私なの……」

「え?」

「ライド様にふさわしくなるために頑張った。それだけの人材になったとも思う。なのになんで。なんでライド様じゃなくて無能が一緒に居るのよ‼」


(そうだよな。普通なら俺じゃなくてライドがいるはずだもんだ)


 でも、これはストーリーに合ったことなのか。ゲームの時は、三人全員が無事に帰ってきていた。それなのになんで今回はミノタウロスと出くわした。


 俺がそう思いながら、アリスの方を向くとほんのりと涙を流していた。


(今はそんなことどうでもいい。アリスを無事に返すのが俺の役目だ)


「帰ろう」

「無理」

「できるよ」


 俺の言葉に対して、アリスが大声を出す。


「私より弱いあなたに何ができるの? 二階層がどれだけ危ない場所か知らないから言えるのよ‼」


 アリスの言う通り、二階層は上級生たちがクリアできるかどうかの世界。入学したばかりの俺たちがそんな場所にいるのだから、絶望するのも無理がない。


「俺が何とかするから」

「口では何とでも言えるのよ」


(どうすれば一緒に動いてくれる?)


 今は絶望することが最善ではない。どうやって生き残るのかが重要。そして、アリスを無事に返さなくてはいけない。


(あ、なんで忘れていたんだろう)


 俺は荷物をあさり、二枚のマントを渡す。


「これで帰ろう」

「これは?」

「ステルス機能があるマントだよ」


 ステルスマントを身に付けていると、息をしていない状況ではモンスターから認知されなくなる。


「よくこんなの持っていたね」

「ビビりだからね」


 ビビりが悪いわけではない。ビビりとは用心深いってこと。


「ここに居すぎるのは危険だから、早く移動しよう」

「う、うん」


 俺たちはステルスマントを着て、二階層から一階層へ移動できる道を探し始めた。


 移動し始めて一時間ほど経ったが、一階層へ行ける道は見つけられなかった。はっきり言って、分かってはいた。


 なんせ、ダンジョン経験も無く、新天地である場所にいる俺たちが短時間で見つけられたら奇跡に近い。


 そこからも、諦めずに移動を続けて数時間が経った。アリスの疲労もあらわになって来て、俺も体中から悲鳴を上げていた。


 お互い心身的に厳しい状況になって来て、そろそろ一階層へ行ける道を見つけたいところ。


 そう思いながら一時間ほど歩くと、一階層へ行ける道を発見した。その瞬間、お互いホッとした表情になる。


「やっと一階層に行けるね」

「うん。ダイラルが居てよかった」


 俺はアリスの言葉に耳を疑った。


「私一人じゃ生きることを諦めていた。だから、ありがとう」

「それは今言う言葉じゃないよ。ダンジョンを抜けて一緒に笑い合おう」


 俺たちは一階層へたどり着くと、淡々と帰り道になる場所を探す。そして、一時間も経たないうちに地図に載っている場所にたどり着く。


「やっと帰れる」

「あぁ」


 その一瞬の綻びが悪かった。辺りの警戒を怠ってしまい、背後からミノタウロスが現れる。


(クソクソクソクソ‼)


 なんでここに居るんだよ。後少しだったのに。


 今の俺たちでは、ミノタウロスと戦える力もない。


「アリス、ごめん」

「ううん。ここまでこれただけよかった」


 ミノタウロスは、あの時のことを覚えているのか、アリスに攻撃を仕掛けた。


 俺はとっさに体が動き、アリスを守るように体を張ると、胸から血が流れ始める。


「ゥ……」

「ダイラル‼」


(どうにかして、アリスだけでも‼)


 考えろ、どうにかしてアリスを帰さなくちゃ。


 そう思った時、体が勝手に動き、火玉ファイヤーボールを天井に放っていた。その瞬間、爆発しミノタウロスが一瞬後方へ下がる。


 そこで意識が薄れていく。その時、背後から風魔法が放たれてミノタウロスが倒された。


(誰だ?)


 一瞬だけ耳の長い女性が見えて、俺は気を失った。

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