第4話 青眼の金髪勇者
「ホホ、そんなことじゃろうと思って、既に用意させておる。しばし待っとれ」
ベオウルフはしたり顔をすると、とあるものに手を伸ばした。
「これは魔電話と言っての。離れた場所の者と喋ることができる魔道具じゃよ。ねぇ聞いとる?」
別にそんな道具などなくても念話など魔法で余裕だ。別に興味もないのでスルー。リズベットにいたっては既に寝ている。
「ハァ……。あ、もしもし。わしじゃが、うむ。用意しとった食事を運んどくれ」
チンッ。魔電話とやらを切る。チンッ。エレベーターが到着する。
「ベオウルフ様、失礼いたします。お食事お持ちしました」
「うむ。ご苦労。あとはわしがやるから下がってよい」
「ハッ。失礼いたします」
食事が届いたようだ。さて、千年経って食事はどのように進化しているのか。
「と、その前に、じゃ。そろそろわしも我慢できないんじゃが」
「ん? どうした? 小便か? まぁジジィになると近くなるって言うからな」
「あら、食事届いたの? いただきま──いたっ。なによ、殺すわよ?」
リズベットは早速食事に手を伸ばそうとして、ベオウルフに手を叩かれる。
「ホホ、もうえぇじゃろ」
パチンッ。ベオウルフが指を鳴らす。すると、ベオウルフの身体をぼわんと白煙に包まれ──それが晴れるとそこには、青い瞳のサラサラ金髪イケメン勇者が立っていた。
「あぁーーーもぅ!! 師匠ッ!! お久しぶりですっ!!」
そして金髪イケメン勇者ベオウルフは俺に飛び掛るように抱き着いてきた。
「あぁ、久しぶりだなベオ。随分しわくちゃなジジィになって喋り方までジジ臭くなったもんだと時の流れに感慨深さを覚え──って、おい、離せ」
「イヤですっ! あぁー、師匠。師匠! 千年振りですよっ! 師匠とリズベットさんが亡くなってから本当に大変な千年だったんですからねっ!」
ベオは笑いながら泣きながら怒っていた。情緒が不安定なヤツだ。
「あら、久しぶりねボウヤ。もう食べていいかしら?」
「ハァ、もう。相変わらずリズベットさんはマイペース極まりないですね。師匠と弟さん以外にもう少し興味を持ったらどうですか?」
「何を言ってるのかしら。千年経ってもアナタのことを忘れてなかったんだから喜びなさいよ」
「じゃあ僕の名前言ってみて下さい」
「フフ、ボウヤはボウヤでしょ?」
「……これでも僕、千歳越えちゃってるんですけどね」
「ハハハハ、俺よりよっぽど年上だな」
「あーもう。なんか色々言いたいことあったのに、師匠とリズベットさんのいつも通りの感じを見たら引っ込んじゃいましたよ。とりあえず食事にしましょうか。自慢の料理ですから、ご説明しますね。まずは前菜の季節の──って、聞いてない」
サラダ。変なドレッシング掛かってて美味い。肉、やや酸味のあるコクのあるソースが美味い。魚、新鮮で美味い。焼いたパン、チーズが乗ってて美味い。
「おい、ベオ。この焼いたパンはなんだ」
「あ、師匠、それはですね。ピザです。最近王都で大流行しているんですよ。美味しいですよね~」
「私にも寄越しなさい。え、なにこれ、美味しい」
ピザが消えた。
「……ベオ、このピザを追加だ」
「はいはい。他にもこのスシという食べ物も人気ですよ。魚を捌いて酢の利いたご飯の上に乗せ、このワサビの効いた醤油にちょちょいとつけると──うまぁ」
「ほぅ。色々な種類があるな。どれがオススメだ」
「えと、この大トロってやつがスシの中でも王様とされていて──」
「あら、じゃあそれいただき」
「こら、リズベット。お前さっきから俺が狙ったものを盗りすぎだ。お前はそっちのなんだかゴツゴツした固そうなのが乗ったスシでも食え」
「ハァ? こんなゴツゴツが乗ったのが食べ物なわけがないでしょ。ボウヤ、料理人に言っておいて。二度目はないって」
「いやいや、ちゃんとした料理ですよ。これはレミーユ海で取れるレミーユ貝です。コリコリ歯応えがあって美味しいんですよ? ん、美味い」
ベオはゴツゴツに臆せずレミーユ貝のスシを食べた。中々勇気があるな、流石勇者だ。
「師匠? ドヤ顔で頷いてないでレミーユ貝食べてみて下さい。ほら、あーん」
「いらん。俺は王様を食べる」
「あら、もう全部食べちゃったわよ。舌の上でトロけて最高ね。料理人に言っておいて、これを献上し続ける限り、命はとらないでやるって」
「うわぁぁぁ、べオ、追加だぁぁ! 大トロも追加だぁぁ!」
「はいはい。分かりました分かりました。ちょっと待ってて下さいね。あー、もしもし、わしじゃが、うむうむ。ピザと大トロを追加で頼む。あぁ、頼んだぞ」
べオは魔電話とやらに鼻をつまみながらジジィ言葉で追加の注文をした。その間にも美味そうなものを平らげていくリズベット。
「ハァ、リズベットが落ち着くまでまともに食べられないな。べオ、酒~」
「はいはい。何を飲まれます?」
「あー、俺が飲んだことないやつがいいな。千年前にはなかった酒」
「となると、こちらですね。ストロングワン、略してストワンと呼んでるお酒です。このシュワシュワが結構クセになるんです」
「ほー。寄越せ」
「はい、どうぞ」
コップに透明な泡がシュワシュワと音を立て弾けている。一体どんなものだろうか──。
「コクッ。むっ──ぷはー、げぷっ。おいべオ、これは中々良いじゃないか」
「ちょっと寄越しなさい」
コップを奪われた。リズベットはそれを一気に煽る。
「おい、そんな一気に飲んだら──」
「んんんーーーーッ。ぷはっ、げぷっ。ちょっと喉が痛いわね。でも、あら結構効くじゃない」
リズベットの真っ白な肌が一瞬で上気する。チンッ。あ、ピザと大トロが来た。
「よーし、べオ。このストワンとピザと大トロで宴会だっ!」
「はいっ、師匠!」
こうして俺たちは昔話もそっちのけで飲み食いに没頭するのであった。
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