第3話 勇者王ベオウルフ
「なぁ、これいつまで続くんだ?」
天牢によって閉じ込めたリズベットに尋ねる。かれこれ五分は炎が暴れまわっている。天牢内の温度は人間を蒸発させるには十分な温度だろうに。
「…………」
「ん?」
リズベットの声が聞こえたような、聞こえないような。小さくてよく聞き取れない。天牢を解くわけにはいかないので、消火活動へと移る。俺は天牢の中へと右手を入れ──。
「『氷界』」
一瞬で全てを凍らせた。天牢からずぼっと右手を引き抜き、覗き込んでみる。うん、動く気配はなさそうだ。ここでようやく天牢を解く。
「ふむ。『ケルベロスと少女』という題名にしよう。この氷の彫像は観光名所になるだろう。夏は涼しいだろうし、うんうん──あっ」
芸術的な氷の彫刻が崩れ落ちた。ケルベロス部分が粉々になり、氷の細かい結晶が煙幕となり幻想的な光景の中、一人の少女がカツカツと小さく規則正しい足音を鳴らし、近付いてくる。
「風邪引いたらどうしてくれるのかしら?」
「お前、大陸一個吹き飛ばそうとしていてよくそんなセリフが吐けたな」
先ほどの『
「じゃあ、次は──」
「ホホホ、そこまでじゃ」
リズベットの肩に手が置かれる。しゃがれた声、しわくちゃな顔、長い白髪のやたら高そうな服を着たジジィだ。
「ゆゆゆゆ勇者王ベオウルフ様ッッ!!」
腰を抜かしていたトムがかつてない動きの速さで跪く。ベオウルフ様、ね。
「ふむ。この二人はわしが預かろう。エドガー、後処理を頼んだぞ」
「ハッ。王国騎士団、怪我人の救助と倒壊した建物の撤去を行え」
「はわわわ、エドガー団長に騎士団までっ」
ベオウルフの後ろからエドガーと呼ばれるいかにもな団長とぞろぞろと兵士、トム曰く騎士が現れてテキパキと後処理にあたり始める。トムはどうしたものか、あわあわしだしたが、なんとか後処理作業に取り掛かった。
「さて、おぬしらはこっちじゃ。ついてきてくれるかの?」
「あぁ、構わないさ」
「仕方ないわね」
こうして俺たちは勇者王ベオウルフという老人に王城まで連行されることに。
「手錠は?」
「ホホ、そんなものおぬしらには意味あるまいて」
「ポーズってもんがあるだろうに」
「ホホ、わしがおぬしらのような子供に手錠をつけて引き回したらイメージダウンじゃからのぅ」
というわけで連行と言っても俺とリズベットは拘束されないようだ。ベオウルフの後をついて歩くのだが、逃げようと思えばいつでも逃げれてしまうわけで。
「何よ、別に逃げないわよ。それに捕まってるという認識ですらないし」
「さよで」
「ホホ。仲が良いのぅ」
こいつはさっきリズベットが俺に向けて全力で放ったえげつない魔法を見ていなかったのだろうか。
「ベオウルフ様ぁ!」
「ベオウルフ様っ!」
それにしてもやかましい。城下町を歩き、王城へ向かう途中、視界の住人は全て跪き、嬉しそうにベオウルフの名を叫ぶ。
「人気者なんだな。王ってくらいだから偉いのか?」
「ホホ、一応この国の国王よりはのぅ。名誉国王みたいなもんじゃな」
「ふーん」
ベオウルフは、偉ぶった様子もなく気安げにそんなことを言った。
「さて、ここが王城じゃ」
平和の証拠と言わんばかりに巨大で立派な城だ。
「随分城も立派になったもんだなー。なぁリズベット」
「さぁ? 人族の城なんて覚えていないわ。見つけ次第壊していたから」
「いや、本当に大変だったんだぞ。お前にぶっ壊されない魔法障壁を作るの。何度も何度もぶっ壊しやがって」
「ハァ、うるさいわね。千年も前のことでしょ。しつこい男は嫌われるわよ」
「ホホ。お嬢ちゃんの言う通りじゃな」
「次、お嬢ちゃんて呼んだらアンタ殺すからね」
「ホホ、怖いのぅ。さて、わしじゃ客人を連れてきたので通らせてもらうぞ」
「ハッ、おかえりなさいませベオウルフ様ッ」
バカデカい門を抜け、吹き抜けのロビーを通り、そして奥の小部屋に入ると、ベオウルフが何やらボタンを押す。すると小部屋がグングンと上昇していくではないか。
「ホホ、魔動式昇降小部屋──エレベーターと言うのじゃが、乗ったのは初めてかの?」
「ま、なんせ飛べるからな」
「いちいちドヤ顔がムカつくから壊していいかしら?」
「ホホ、頼むから王城を壊さんどくれ。わしが怒られてしまうでの」
チンッ。エレベーターとやらが止まった。
「ここがわしの家ということじゃの。さ、中に入るがよい」
流石国王より偉いというだけはある。だだっ広い部屋に調度品から何から一流のものが揃えられているのだろう。
「お邪魔しまーす。肉くれー」
「私も喉が渇いたわ、小腹も空いた。あなた偉そうな王ならさぞ美味しいものを出してくれるんでしょうね」
俺たちはふかふかのソファーでゴロゴロしながらベオウルフに言いたい放題だ。
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