第6話:与えられた服と部屋
シスターマリーダとクリスティアはお互い無言で歩き、ある扉の前でシスターマリーダは立ち止まる。クリスティアもそれにならい足を止める。
「ここが今日からあんたの部屋だよ」
シスターマリーダはそう言って扉を開けた。扉を開けた先に見える部屋は、簡易なベッドと小さな服をしまう物入れのような物しかない小さな部屋だった。しかも、何年も使われてなかったのか、所々にホコリがたまっていた。
(本当はもっといい部屋があったんだが……さて、どう反応する……?)
シスターヘレン程でないにしろ、クリスティアの事を疑っていたシスターマリーダは、あえて何年も使われていない部屋を案内して彼女の反応を見ようとしたのだ。そのクリスティアは何故か無言で立ち尽くしていた。
(流石に貴族のお嬢様はこんな部屋で絶句したかねぇ……)
「……す」
「ん?」
「すごおぉ〜ーーーーーーい!!?ベッドだ!?本物のベッドだぁ!!?」
「はぁ?」
クリスティアは目をキラキラさせながらベッドの方を行くと、あらゆる所からベッドを眺め、クション性が悪いにも関わらず、嬉しそうにベッドに座り、ホコリっぽいそのベッドでポンポンと跳ねながら楽しんでいた。
「凄い!凄い!!凄いッ!!!本物のベッドだ!初めて見たぁ!!」
(初めて見たって……)
クリスティアの発言に引っかかる所があれど、伝えなければいない事がまだあり、シスターマリーダはクリスティアに声をかける。
「お楽しみにのとこ悪いけど、これを受け取りな」
「あっ、はい。ありがとうございます……ん?これって……」
「シスター服さ。サイズは合ってるはずだけど、もし合ってなかったら私に言いな。明日からあんたもシスターだ。だから明日からあんたもこれを着るんだよ」
シスターマリーダがそう話すと、クリスティアは「はい!分かりました!」と元気良く返事を返した後
「それにしても、皆さん優しい方ばかりですね」
「はぁ?優しいって……」
「だって、間違えてやって来た見ず知らずの私にこんな素敵な部屋を与えてくれるだけじゃなく、服まで貸してくれるんですから!」
曇り一つないクリスティアの言葉にしばし呆然と立ち尽くすシスターマリーダだったが
「また明日の朝来るからそれまでに着替えは済ましておきなよ」
そう言って部屋を出た後、大きく溜息を一つ吐き頭の後をガシガシとかくシスターマリーダ。
「はぁ……なんでこんなに罪悪感で胸いっぱいにならなきゃいけないんだか……」
そう呟くように言いながら、シスターマリーダは先程までのクリスティアの様子を思い返していた。
(ベッドを初めて見たって言ったり、あんな部屋やお古なシスター服を貰ってありがたがったり……それに、よくよく見れば彼女の服……確かに上等な生地を使った物だけど、着古して色々ボロボロだった……)
シスターマリーダがシスターになる前、悪い人間に騙された上に、愛していた夫に裏切られ、奴隷として売られそうになり、必死で逃げ聖王国セレスティアの人に保護された過去をもう。それ故か、彼女は人一倍人の嘘を見抜く力が優れるようになった。
(彼女は……一つも嘘をついてない……つまり、それは……)
「はぁ……やれやれ……修道女長。本当にあんたは色々厄介な事情を抱えた娘を囲うねぇ……)
自分以外の様々な過去をもつシスター達の事を思い、シスターマリーダは苦笑を浮かべそう呟いた後、自分の残った仕事を片付ける為に歩き出した。
追放極悪令嬢と呼ばれた少女はシスターとしてマイペースに暮らしたい 風間 シンヤ @kazamasinya
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