ts弱小配信者の現代ダンジョン探索

@yuyu_yu4696

第1話

悪魔の証明、存在しているものを証明するのは簡単だ。現物でも資料でも見せればいい。では存在しない事を証明するには?資料もなにもない未知の物をどうやって証明する?


こんな屁理屈をこねて、僕は良くある空想に思いを馳せていた。存在しないものは存在しないのに、そう諦めてもいたが…。


空想は実在した。僕の言う空想とは言わば魔法、ダンジョンや財宝。そんな類のものだ。まあ結構色んな人が夢見るよねこう言うの。


事の始まりは10年前だ。大地震と同時にダンジョンの入り口が地上に出現した。最初は軍が入り口を封鎖していたが、中から現れた怪物に惨殺され、その中の1人が奇跡的に生還を果たした。おまけに炎を操る異能も獲得して。


彼は言った。

「奴らは間引かないといけない。でなければいつの日か溢れ出し、世界を蹂躙するだろう。」と。その為の仲間を集める。とも言った。それがダンジョン探索文化の始まりだ。


かく言う僕もその仲間…なのだが…


「…っく、死ねっ!!!」


手に持ったナイフを緑色の小人の喉に突き刺す。こいつはゴブリンだ。性格は残忍、とにかく数が多く連携もとってくる。単体なら大したことはない。がその数に蹂躙され命を落とす探索者も多くはない。


「はぁ、はぁ……倒し切ったぞ。」


数が多いとは言え、ゴブリンはそこまで強くない。落ち着いてやれば簡単に対処できる。僕は苦戦したが…まあ、僕はまだなりたてで弱いのもある。僕にはまだ異能がない。


ダンジョンの探索には必須の異能。ダンジョン内の魔力のような力にあてられる事で覚醒するらしい。最初の軍人のように炎を操ったり、身体能力を強化したり…様々だ。


僕にそんな力はないのでその身一つでこいつら"魔物"と戦っている。もっているナイフも市販の安物だ。僕が探索者をしているのは家が貧乏で、家族を養うためだ。だからとっとと異能に目覚めてもっと強くならないといけない。もっと、戦わないと。


「いやっ、やめて!来ないでっ!!!」


奥から声が聞こえる。どうやら魔物に殺されかけているらしい。聞こえてしまった以上見て見ぬふりはできない。そう思い奥へと歩を進める。



私は薔薇色の人生を送るはずだった。探索者になって、強い異能に目覚めて、でもダメだった。そんな考えが甘かった。この剣一本じゃこんな奴一体にも勝てない。


「いやっ、やめて!来ないで!!!」


情けない叫び声をあげる。ゴブリンの持つ棍棒が私に振り下ろされる瞬間、救世主が現れた。



ゴブリンの背後に音を立てずに忍び寄り、視界を塞いでから喉笛をナイフで切る。


「立てるか?」

「え…えぇ…ありがとう。」


その時、どこからともなく狼の遠吠えが聞こえる。


「っち、逃げるぞ!」

「え?っちょっと!?」


女性の手を引き走る。正直僕も前の戦闘でかなり消耗している。真っ向からとやり合って勝てるわけが無い。必死に走る。


しかしそんな行為も虚しく狼に追いつかれつつある。出口もまだ遠い。僕もこいつも多分無能力だ。勝てない。


「おい!先に行け!」

「そんなの無理よ!」


見ず知らずの奴に対して何を言ってるんだこいつは。新米ならまだ希望はある。僕はかれこれ2年も探索者をしているのに異能がない。無能だ。だがこいつは違う。まだ希望がある。強い異能に目覚める希望が。才能の芽は残しとこう。


「僕もちゃんと逃げるさ!もしまた会ったら高い飯でも奢れ!」


彼女は少しの間考え、一目散に走り出した。


「僕がいなくなっても問題は…ないだろ。いつもちまちまゴブリンを倒してただけだし。稼ぎも少ない。」


彼女の方から視線を狼の方に戻す。狼はすぐそこまで来ていた。今から走っても逃げられない。

せめて、あいつが逃げられるように時間を稼ごう。殺すか殺されるかの戦いが始まった。

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