第二話 嘲笑い

 

「............ガハッっっっ!」


 いくつもの木々に衝突しながら

 一瞬にして吹き飛ばされた


 —-ズサァァ…

「..は、….はあっっ!! 死んだっ!今度はっ...マジでっ!......

 .....って..あれ?...生きてる」

 それに痛みもそれほど感じない 

 俺の体、なんかおかしい...




 -------


「......やっ ...い、やだ .....人が、殴られ....」

 女は恐怖で引き攣った顔で、座りこんだまま動けずにいる。


「おぉっと怖がることはねえぞ〜子猫ちゃ〜ん。

 あんな男は無視して俺のとこについてきな? 

 食べ物もご褒美もやるからさぁ」 

 不敵な笑みを浮かべながら男は彼女の顎をくいっと持ち上げ、そう囁く。


「気持ちいい事いっぱいできるよ〜♡

 だぁいじょうぶ、俺上手いから 」

「き、気持ち悪いです......ゃめて...ください..!」

(この人が何を言っているのかわかる、なにをしようとしているのかも...)

 そう言い放ち、男の手を払った女の名前はマキ

 別の惑星から来た宇宙人だった


 だが男の気に障ったのだろうか

「いいから黙って着いて来りゃいいんだよ」

 低い声でそう呟く

 マキの顔はさらに青ざめる


 その顔をジーーっと見つめ

 ムクムクムクッ!

「 っっ!いい顔するじゃ〜ん♡!!はぁ…はアハッハあh 」


(こんな人…私の星にはいなかったあのように暴力を振るう人も…)

「もしかしてさぁ、未経験だったりしないよねえ? 

 だったらなおさら興奮するんだけど…」

「ぁ .....れ…....」


 バタッ---- 

 彼女は急激な恐怖とストレスにより

倒れ込んでしまった


「あれ?気失っちゃった?

 まあいいや…ラッキー〜4人目ゲット〜  

 たまたま通りかかった山でこんな可愛いガキに出会えるとは…♡」


 .....ダッダッ..

 何者かが走って近づいてくる


「それにしてもこの体は便利だな〜 

 一発で人間を殴り殺す..あの快感がたまんねえー!」



 ダッダッダッダッ....

「おっ もう時間か 早く帰らねえと 

 また怒られるのはゴメンだからな」


 ダッダッダッダッダッ!!


 そう言って男は彼女を持ち上げようとする


「...?なんかこいつ異様に耳長くn



 ...ぅぅおおりゃあ!!!!!!!!!!!



 ドゴォッ!!!!

 九十九の全力パンチがやつの右頬に直撃した

「っっつ!!!」


 それと同時に彼の肘から

 青い炎が噴射された

 ヴィィィィーン!!!!

 さらに勢いが増す


 ドォーッーン!!!!




 ……ドサッ!!

 男は後ろに吹き飛ばされる


 っなんだ今の…!

 肘からなんか出た!しかもめちゃくちゃ足が速い

 確信した、俺はもう人間じゃねえ何かになってる!


 ふと下を見るとさっきの女が倒れている

 おいおい...倒れてる場合かよ....

 せめてこの体の説明くらいしてくれ!

 そう心の中で考えている内に


 スゥ…

 砂埃の中から奴は現れた

「......、なんだ、てめえもHEIKIかよ」

 口の血を拭いながらそう言う

「そうか.....開発に成功したんだなお前ら・」


 ザッザッ 

 こちらに歩いてくる


 開発? へいき? 

 もしかして

 この体の事を言ってる?


 …待て待て!そんなことより変なことに巻き込まれた! 

 どうする..!


 ザッザッザッザッザッ! 

 怒りに満ちた足音


 逃げるか! こいつは置いて、....

 …くそッ!


「...か、かかってきやがれ〜ー!!」

 やってやる、俺だってできるんだ!


 ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!

 どんどんやつの顔が近づいてくる!


 無理!やっぱ無理無理無理無理!!!

 人殴ったの今のが人生初だし!!!


「邪魔してんじゃねーーーーー!!!」


 うああああぁぁぁぁ!!!!!!




 【!!!!ドォン!!!!】 


 俺も咄嗟に殴ったものの、

 奴の拳の方が何倍も速かった


「ぐあっ!!っ」

 ズサァァ....


 っっ!なんだよこいつ!

デカイくせに動きが素早い!


「っておいおい クソ弱えじゃねえかよw

 それでもHEIKIかぁ?」


 うるせえ さっきなったばかりなんだよ!

「...こ、こんなの......」

「あ?」

「....やってられるか!!」

 バッ!!

 俺は全速力で逃げ出した


「待ちやがれ!クソガキィ!!人の顔面殴りやがって!」


 そう叫びながら俺を追いかけてくる


「ごめんなさぁあい!!!!」

 決めた! 宇宙人は置いていく! 

 ほんとごめん!!!だって怖いんだ!


「あの女は!お前の彼女か?!? 

 あいつが俺に犯されまくってもいいのか!!??」

 俺に聞こえるように大声で言う


 それは…可哀想だ、でも助けるのは無理!

 てかこいつも足速い! きっとHEIKIってやつだ


「そうやってずっと逃げてんのか? 弱虫が!」


 やめろ、その言葉は俺に刺さる!



 .....ブチブチィ..!!

 突然男は木を平然と引っこ抜いて

 俺に向かって投げてきた


 ドンっ!


「!!...うおっ!」

 奇跡的に避けれた

 あっぶねえ…



 そう思ったのも束の間


 やつは装備したゴツい腕を伸ばした。


「ぐはっ!! なんだこれ!!」

 一瞬で俺の首根っこを掴まれていた

 コイツ…体を使いこなしてやがる…


 グウぅーーっ

 と抵抗できないまま

 後ろに引き付けられる


 あ、やべ これ…



 !!ドスドスドスッッ!!!!


 身体中、ボコボコに殴られた

 十発は入っただろうか


 そのまま10メートル以上吹っ飛んだ


 ------------------ドサッ!!


「......がはっ! な…んなんだよこれ!...」

 今度はちゃんと痛い... 体が動かない.....!

 HEIKIとやらになったのに弱いままだ...


「ダセェなぁ

 そうやってずっとうずくまってんのか!?てめえは!!」

 そうだ 俺は何もできない

「反撃してこいやぁ!! HEIKIならよォ!」


 クソッ 

 早く逃げとけばよかったんだ.....

 最悪だ…

 こんなんになるなら.....


 後悔が渦巻く


「おぉいおい

 どうした?もうおしまいか?

 それとも俺の奴隷になる覚悟でも決めたか?」


 …んなわけねえだろ…


 ザッザッ そう言いながら近づいてくる

「目の前の恐怖に立ち向かえず、てめえは惨めだなぁ...」


 変に耐久力があるせいで死ねない

「クソッ…」


「もう逃げらんねえぞ」

 殺意がこもった声で俺に言う



「へぇ、いい景色じゃねえか。お前の墓場はここで決定だな」

 そこはあの時俺がいた場所だった


 思い出す 今までの行い


「死んでたまるか…」

 …って死にたいのか…?

 もうわからない …

 自分がどうしたいのか どうしたかったのか


「人間ってよぉ案外すぐ死ぬんだ。

 でもHEIKIはそう簡単には死なねえ、いや死ねねえ。すぐ死なない事がいい事だと思うか? 

 思わねえよなぁ?だってお前が人間だったらあの時痛みも感じないスピードで死ねたもんな?」

「何が言いたいっ…」


「…こっからが地獄だってことさ」



 そう言って俺の後頭部を思いっきり蹴った

「おっらああぁ!!」


「うああっッ…!」


「おら!おら!おらぁ… !どうすんだ?このままじゃ死んじゃうぞ〜!?」

 そう言っている間もずっと俺を蹴り続ける

「....ぐっ や、、メロっ...!」

 その足は止まる事を知らない


「バカがぁ!!!! 

 今頃気づいたか!喧嘩売る相手間違えてんだよお!!

 1食らったら100でやり返すっ! 

 これが俺のモットーてやつさ!」


 …ヤバ…い 死に…たく…


「てめえがどんな経緯でHEIKIになったか知らねえが!大抵!HEIKIになるやつは!

 クソみたいなやつだ!

 政府の実験目的か!?

 いやちげえな!あの女に改造されたのか?!

 どれにしろ!てめえは!人間として!死んだ!

 クソみたいな人生過ごしてきたんだろ!?

 ざんねーーん!HEIKIになったとこで何も変わりませーーん!!」


 地面を転がる

 俺には何もできなかった


 …好き勝手…言いやがって…

 今度は俺を持ち上げ、


「その証拠だ!お前は今も反撃しようとしない!

 こうなったのも全てお前のせいさ!

 全ての判断を間違えてんだよぉ!!!!」



 !バアァァンッ!


 殴り飛ばされた

 何回目だろうか


 でも… やっぱ死にたく,,ない

 心の奥底で叫び声が聞こえる



 髪を掴み、体ごと持ち上げられる

「ここで死ぬか、俺の元へ来て奴隷として死ぬか選べ。」


「...せ..んだよ」

「あん?」

「うるせぇんだよ、クソ野郎が…」

 掠れた声しか出なかった

 ...........


「.........くっ ハッハッハッ!!! 

 いいね! 俺はその顔が大好物なんだ!!」


 ボゴッ!

 そう言って腹に膝を入れる

「ぐはっ...!.」


 ——ドサッ

「…はぁ…はぁ…、、」


 クソ...こんなやつに...

 俺は.......


 


 生きる意味を見失ってた

 そんな俺を

 宇宙人が、あの女が、

 生まれ変わらせてくれた


 これが..最後のチャンスなら...

 この退屈から抜け出す、最後の救いだとするなら

「......ど、 れ......い」


「....いい子だ」


こいつの言ってることが

全部間違っているとして


「...おら、いくぞ」

 そう言って九十九を引きずりながら

 マキの居場所に戻ろうとする


「.....やってやる」

「...威勢のいい奴隷だな 」

 バコッ!!

体が動いた


「...ッ! さっきから顔ばっか狙いやがってェ!」


 決めた

 九十九 千としての人生は終わりだ

「HEIKIとして、お前を殺す!!!」


「…なんだ? さっきの言葉が聞こえなかったか?

生きようとするんじゃねぇ。

HEIKIとしてもう一度死ね 」

「かかってこい! ハゲ!!!!!!」

「…そこまでして、俺に殺してほしいのか」


「ああ、死んでやる! てめえと一緒に!」

「そうか...ならば」


シュッ


 ほぼ同時にストレートを放つ


 ドンッ! 


 だが今度は奴に当たる


「…ッ! なんだ?そんな力じゃ効かねえぞ!?」

咄嗟の蹴りが放たれるが

腕で防ぐ


ザッ,,


 ああ分かってる

 俺は宇宙人から改造された最新のHEIKIだ

 こんな殴る蹴るしかできねえわけがねえ.....



 スッッ--


 俺はやつの体に手をかざした

なんか出やがれ!


 ガチャガチャッ!!!!

 腕から幾つもの謎の武器が飛び出す

 まじで出たっ!


「,......そ、それは.....」


 ギュイィィィィンン!!!!!


「何いっ!!」

「ブッッッ飛べーーー!!!!!」


「やめろおおーー!!!」

 青く光る俺の武器から

 光線が放たれる


 ズドォォォォォォォォン!!!!







 --------------



 辺り一面は吹き荒れ、

 地面には光線が触れた跡が長く続いていた


「はぁ...はあ.... やった…」


 シュウゥ.......



だが

「............--ふぅぅ----っっっふぅ....ふぅーーーっ!」

 遠く離れた場所にやつの姿が

 ボロボロになって

 顔の前で十字に腕を組んでいる


「はぁ、はぁ… クソッ この俺が…」

 そう呟きながら男は

 またこちらを目指して歩き出す


 俺にはまだどこかピンピンしてるように見えた


「チッ... 残りのエネルギー残量は.....ざっと20%ってとこか. はぁ.. はぁ

 おそらくあいつは...まだ...HEIKIになって..時間が浅い...

 戦闘経験も全くない様子だ....」


今がチャンスだ

「....いいさ やってやる! かかってこ…」

 -クラっ- 

 突如,眩暈が俺を襲った

 あ、なんか....やばい感じが...する

「...........ぅ」

 ガタッ!

 膝をつく

 疲れか?それとも他に何か原因が.....


「....ははっ! やっぱりだ!狙い通り!

 エネルギー切れさァ!」


 何っっ!まさかそんなものがあったとは....

 く..そ。...


「ハハァ.... 無茶をしすぎたんだよ、お前は

 .....かといって俺もやばかったが...」

「 っこ、こんな。。とこで....」

 ドサッ-


 少年は倒れてしまった


「.....ザマーみやがれ....!....」

 男はよろめきながらも

 かろうじて生き残っていた


「...しかし..驚いたぜ... 

 まさかエネルギー光線を打てるほど高性能なHEIKIだったとは.....

 だが、勝負は決まったも同然。

 そのまま干からびて死にやがれ!.......へへ....」

 そう言ってマキのいる方向に歩き出す


 -その時だった-

 突如として

彼の足元には巨大な影が映った

「っっ! 何者だ!」

 咄嗟に空を見上げる


 .......絶望した顔で男は叫んだ


「 ...なんで、、、、お前があぁぁ!!!!!!!!!!!!」










 【!!!!ズドオォォォンッ!!!!】



 辺りには轟音が鳴り響き

 地は割れ、大きな穴が空いた


 男の内臓が弾け飛んでおり、なんとも酷い姿となっていた



 空からの奇襲

 そこには


 筋骨隆々の獣に近い図体をした

  謎の男の姿があった


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る