第7話 ハデス様の休日⑦

ハデス様の休日⑦

ーハデスがトイレで腹痛と大格闘を繰り広げた翌日、二人は帰路に着く準備をしていた。

 

ケルベロス:昨日一日でいろんな体験しましたけど、終わってみたら一瞬でしたね。…あの…ハデス様、いくら何でもお土産買いすぎじゃありません?

 

ハデスが持ってきたトランクケースは無数のお土産でパンパンに膨れ上がっていた。

ハデス:ウムゥ…これでも大分減らしたのだが…

ケルベロス:そんなにたくさんのお土産、一体誰に渡すんです?

ハデス:まず愛する妻と弟達、そしてヘカテーや冥府の役人や冥界の亡者達、それからそれから…

ケルベロス:ちょ、ちょっと待って下さい!冥界の亡者達にって…お土産が何個あっても足りませんよ⁈

ハデス:しかし私はこの地で味わった貴重な体験を、一人でも多くの者と分かち合いたいのだ!

 

ハデスの熱い口調にケルベロスは驚く。


(ここに来るまで死んだ魚みたいだったハデス様の目が、今は爛爛と輝いている…!まるで憑き物がすっかり落ちたみたいだ…!)

地獄の番犬としてハデスとは長い付き合いになる彼だが、今までついぞ見たことがない主人の朗らかな顔を見て思わず涙が溢れそうになった。

ハデス:それにこの地に訪れたことで、私は新たな目標を持つことができた。

ケルベロス:目標ですか…?

ハデス:ウム。私は今まで仕事や冥府のことで頭が一杯で、周りを優先するあまり自分自身のことを疎かにしていた。だが私はこの地を訪れたことで、私の中で眠らせていた「欲」に気づかされた。ケルベロスよ、私はここに誓う!今後必ず休みを取り、再びこの地を訪れることを!

ケルベロス:…ッ!はい!絶対また来ましょう!


仕事に邁進することはある意味社会人としての使命であり、時にはガムシャラに仕事に打ち込むことやつらい状況を乗り越えることでより成長できることもある。しかし仕事というのは長い長いマラソンのようなもの、常に全力疾走していては息が上がってしまう。

時には走る足を緩め、何故自分は走っているのか、一体どこに向かいたいのかといった自分の内なる声に耳を傾けることも大切な仕事の一つである。

冥府の王であるハデスは、今まであまりに仕事を優先しすぎて自身の「欲」に向き合うことはしてこなかった。だが、この地での経験を通じて彼はようやく自分の内なる声に耳を傾けることを覚えたのだ。

 

ハデス:さぁそろそろ行こう。あまり長居し過ぎると名残惜しくて仕方がなくなるからな。

 

そうして冥府に戻ったハデスはすぐさま大量のお土産を天界、冥府の各方面に配り始めた。特にハデスの仕事を代わり一日冥王となっていた妻のペルセポネや彼の兄弟達は、今まで見たことのない元気ハツラツな彼の笑顔を見て天地がひっくり返るほどの衝撃を受けた。奇しくもハデスの休暇をもって、オリンポス中に「JAPANヤバい」という噂が轟くこととなる。

ー完ー

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ブラック環境で働き過ぎて過労死待ったなしの冥界の王が有給取って日本に遊びに来たら体だけでなく心まで整った件 @Re_

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