第1章 第7話 便利な魔法具

家を出てから人があまり歩いていない裏道に出ると俺は自分の気配を消した。

「相変わらず、すごいわね。あなたの気配を消す技能。目の前にいるのに、しっかり意識していないとわからない」

 気配を消した俺をトミが驚いたように見ながら言った。

「まぁ、この技術は何年も前からシンに教わって練習しているからな。魔法ではなくて技術でできるというところがかなりいいよ」

 俺は平然と答えるが、内心は少し喜んでいた。やっぱり、自分が努力してきたことを褒められたら悪い気はしない。

 ところで、どうして執事のシンが気配を消す術を知っていたのかは、彼が元一流の暗殺者だからだ。20年以上前は暗殺者として恐れられていたらしい。その暗殺者がなぜ俺の元にいるかだが、まぁお目付役みたいなものだ。

「私は、技術だけで気配を消すのは得意ではないんだよね」

 そう言ったトミは、普通の状態よりも存在感がほんの少し薄くなっている。そして、さらにその上から気配遮断の魔法をかけ、かなり存在感が薄くなった。

「それだけ気配を消せたら十分だろ」  

 ギルドに向かう途中、情報屋の家に向かった。情報屋は昔からの悪友であり、名前はオリ・ハザリヤという。

「これはこれは上客の登場だね。これから冒険にでも行くのかい?」

 店に入ると、こちらを歓迎するかのようにオリの快活な声が聞こえた。

「ああいつもの部屋2つを借りたい」

俺がそういうとオリは笑顔で「ご自由にどうぞ」と言った。

 いつもの部屋というのは、オリが座っているカウンターの奥にある部屋のことだ。ここは情報屋ということもあり大事な話をする時に用いる部屋がいくつも用意されている。その中の2部屋を俺とトミは借りている。

 俺とトミはそれぞれに用意された部屋に入った。その部屋のクローゼットを開けると仮面と着替えが置いてある。俺はクローゼットに置いてある服に着替え、目元までを覆う仮面をつける。その仮面をつけると脳内に声が聞こえてくる。

『隠蔽魔法を発動しますか?』

 俺は脳内に聞こえた質問に対し淡々と答える。

「はい」

『髪の色はどうしますか?』

「赤色で」

『髪型はどうされますか?』

「今と同じで」

『少々お待ちください』

 そう脳内に聞こえたので少しばかり鏡をぼーっと見ながら待つ。

 そういえばこの服装ってAランクの服装なんだよなーと鏡を見ながら思った。情報屋の部屋に置かれている服は俺とトミがダンジョンから探索して手にいれたものである。確か2年くらい前に手に入れたものだ。手に入れた時はCランクの服装だったのだが、ある時オリに「その服強化しないか?」と言われ「したい」と答えたら、オリのお得意様である鍛冶屋を紹介してもらった。その紹介してもらった鍛冶屋というのが、トロン王国では有名な鍛冶屋でそこでは何人もの従業員が働いている。俺も何度かその鍛冶屋には客として見に行ったことがある。というより、トロン王国に住んでいるものなら、誰もが一度は訪れる店の1つである。

 その中の1人とオリは懇意にしており、俺はオリから紹介してもらった。今ではその鍛冶屋の1人に装備の見直しなどの依頼を行ってもらったりと常連となっていた。

 鍛冶屋の人に強化してもらった服装の見た目は赤色と黒色を基調とした貴族が着ていそうなデザインをしている。個人的にはかなりお気に入りのデザイン、そして性能であるので、冒険に出かける時に装備している。

 そんなことを考えていると特に前触れがなく、いきなり髪の色が黒色から赤色に変化する。正直この急な変化はいつ見てもびっくりする。

 しかし、びっくりするが、この仮面は便利だなとも思う。髪の色を変えられ、正体を認識しにくくする隠蔽魔法もかけてくれる。そして、最も便利な点は、この仮面には魔力が内包されているという点だ。

 本来こういった魔法具と呼ばれるものは、使用者の魔力を注入することでその魔法具の能力を発動することができる。魔法具に魔力が内包されているのはかなり珍しいものだと言われている。

 ちなみに魔法具にも冒険者と同じでランク付けされていて、FからSランクとランクの内容もギルドの冒険者と同じである。それでその魔法具のランクを決めるのが鑑定屋である。

 俺は集めた魔法具をオリに鑑定してもらっている。情報屋であるオリは鑑定をする資格も手に入れている。前にこの仮面を鑑定してもらったところ、Aランクの魔法具と言われた。強さ的には大したことない魔法なので、どうしてAランクなのか聞いてみたが、隠蔽魔法の精度がかなり高く、正体を見分けるのは非常に困難であるらしいからだ。

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