第9話 家族への感謝
兄の堂々たる清々しい笑みを見た父は重いを決断する。
「リーリエをフォルモーント王立学院に入学させよう」
「ありがとうございます」
兄は両目に涙を貯めながら嬉しそうに微笑んだ。
「しかし、1つだけ条件がある」
「父上、条件とは」
「リーリエの意志を尊重することだ。リーリエには2つの選択肢を用意しよう。領内の学校もしくはフォルモーント王立学院に通うのかは本人に決めてもらう。フォルモーント王立学院へ入学することは、困難な道のりを選ぶことになるはずだ。俺はその道を強要するつもりはない」
フォルモーント王立学院へ入学するには3つの方法がある。1つ目は試験を受けて合格する方法。2つ目は国王の推薦で入学する方法、3つ目はコネとお金を使って入学する方法である。1つ目は実技と筆記があるのだが、実技は騎士なら剣聖試験で下級騎士に合格することで、魔法士なら賢者試験で下級魔法士に合格する必要がある。2つ目はゲームの私やローゼのように秀でた才能の持ち主などが国王直々に入学するように勅命が下される。3つ目は5大貴族や大金持ちの商人、もしくは王族関係者などがコネや財力で入学する方法である。父は3つ目の5大貴族の権力と資産で私を入学させることに決めた。しかし、入学試験に来ていない人物が入学するとすぐに3つ目の方法で入学したことはバレてしまうので、学生たちからは冷たい態度がとられることも多い。とくに堕落令嬢として名をはせている私へのあたりがキツくなることは必然であった。
次の日、兄は学院の寮へ戻り、私は家に帰るための馬車に乗る。そして、馬車の中で父は重い口を開くことになる。
「リーリエ、大事な話がある」
「はい、お父様」
唐突に真剣な表情に変わった父の顔を見て、私は何か粗相をしたのではないかと緊張が走る。思い返すと数件は身に覚えがあるからだ。
「今後のお前の将来のことだが、メッサーの助言をもとに2つの選択肢を用意した。1つは領内の学校に入学すること、もう1つはフォルモーント王立学院へ入学することだ。どちらの道を選んでも、お前がやりたいことをすれば良いと考えている」
父は私の目をじっと見て私の意志を問う。私も父の真剣な問いかけに真摯な思いで答えをだす。
「お父様、私はフォルモーント王立学院に入学したいです」
自分からフォルモーント王立学院に入学したいとは言えなかったので、父からの提案は天にも昇るほど嬉しい気持ちであった。実は私には1つ気がかりなことがあった。それは聖女ローゼのことである。ゲームのシナリオと同じように私が14歳の時に、ローゼが聖女ではないかとの噂が王国中に広まり、ローゼにフォルモーント王立学院へ入学するように勅命が下された。このままゲームのシナリオ通りに話が進むと、ローゼはフォルモーント王立学院で聖女として成長をして魔王を倒すことになる。しかしゲームでは、ローゼが選択肢を間違えると聖女になれず国が滅んでしまうバットエンドを迎えることになる。これはこのリアルの世界でも同じことが言えるだろう。ローゼが選択肢を間違えずに魔王を倒すとは絶対に言いきれない。だが、私はローゼが聖女となって魔王を倒すルートを知っている。いくら主役の座をローゼに任せたからといって、のほほんと領内の学校に通ってスローライフを満喫するわけにはいかない。
13歳の時、前世の記憶が蘇った時の私はあまりにも考えが幼かった。この2年、兄の強い志を見て私も成長したのである。しかし、気付いた時には既に遅かった。魔法が使えない私は下級騎士にさえなれずフォルモーント王立学院へ入学する門は閉ざされたのである。全てのことを父に話してフォルモーント王立学院に入学する道は残されていたのかもしれない。でも、私の素っ頓狂な話を信じてもらえるとは思えなかった。
「わかった。俺に任せろ」
父は理由など聞かずに力強く答える。私は何も聞いてこない父の優しさがとてもうれしかった。
「お父様、ありがとうございます」
私は歓喜余って思わず父の大きな胸元に抱きつきたいと思ったが、甘えているように思ったので思いとどまる。
「リーリエ、俺達家族はいつでもお前も味方だ」
父は私の気持ちを察したように微笑んでくれた。
「お父様」
私は感情を抑えることができなくなり父の大きな胸元に飛び込んで涙を流す。自分の軽はずみな行動で招いた大きな出来事、家族はほとんど詮索せずに私の意志を尊重してくれた。今回も父は私に2つの選択肢を用意してくれた。家族の優しさに私は感謝の気持ちを抑えきれずに大泣きしてしまった。
そして、2か月後、私はフォルモーント王立学院の入学式を迎えることとなる。
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