第10話 ローゼのイベント

 王都にあるフォルモーント王立学院、ここは選ばれし者しか入学が認められない由緒正しい歴史ある学院。真っ白の学生服は一切の邪心を抱かない純潔の証である。男子はネクタイを女子はスカーフを付け、その色で学年がわかるようになっている。1年生は初心の白、2年生は飛躍の青、3年生は常勝の赤、4年生は完璧の金を身に着ける。学生服は、男子は学ランで女子はブレザーになりボタンの色は学年を現す色と同じである。


 私は新しい学生服を着て入学式が行われるサン・ピエトロ大聖堂のような美しい大講堂へ向かうのではなく、大講堂の近くにある中庭へ足を運んでいた。



 ※15歳に成長したリーリエは、胸は大きくならなかったが、身長は172㎝まで伸びてモデルのような八頭身に成長した。髪型は変わらず黒髪のベリーショートであり、ゲームと同じで美少女というよりも美少年のビジュアルになった。



 

 「お前が噂の聖女なのか!」



 威嚇するような大きな声が響く。



 「コイツに間違いないぜ。制服も買えない庶民まる出しの姿が偽聖女だと証明しているぜ」

 「ガハハハハハ、そんなみっともない姿でよく入学式に参加しようと思えたな。お前のような汚らしい平民が入学すると由緒あるフォルモーント王立学院の品位が下がる。すぐにこの学院から立ち去れ」



 大柄の男子生徒が女生徒を激しく突き飛ばして、中庭にある花壇へ突き落とす。女生徒は花壇に落ちて服が土まみれになる。



 「お前には汚い土のがお似合いだ」

 「アハハハハ、本当にそうだわ」

 「もっと、相応しい姿にしてやろうぜ」



 2人の男子生徒と1人の女生徒は魔法を使って花壇の土を女生徒に投げつける。女生徒は全身が土まみれになってしまった。



 「ガハハハハハ、ガハハハハハ」

 「アハハハハハ、アハハハハハ」

 「ガハハハハハ、ガハハハハハ」



 3人の生徒は全身土まみれになった女生徒を見てバカ笑いをして姿を消した。



 「あ~あ、土まみれになっちゃったわ」



 3人の生徒が立ち去ると土まみれになった女生徒は自分の姿を見て笑みを浮かべていた。



 「やっぱり私歓迎されていないのね。でもね、嫌いな私に土を投げつけるのは良いとしても、花壇の花に迷惑をかけるのは良くないわ」



 先ほどまで無邪気な笑顔を浮かべていた女生徒は頬を膨らまして怒りをあらわにした。



 「まだ光魔法は使いこなせていないのよねぇ~。でも、魔法は気合よ」



 女生徒は両手を組んで祈りを捧げる。



 「浄化の神ライニグング様、私にお力をお貸しください。愚者による行いで生命が途切れた花々に再び命を宿してくださいませ」



 女生徒が強く念じると花壇一面が光り輝いて、女生徒の体によって潰された花が元の姿に戻る。この女生徒こそ、もう1人の主人公ローゼ・アイネミリオーン白薔薇の聖女である。



 ※ローゼ・アイネミリオーン 15歳 女性 銀髪のくせ毛のミディアムヘアー 二重の大きな黄金の瞳 小さな端正な鼻 薄いピンクの小さな唇 リーリエとは対照的に157㎝と小柄だが大きな胸の持ち主。14歳の時に母親の病を治して仮の聖女認定を受けてフォルモーント王立学園に特待生として入学する。特待生なので学費など全て免除されているが、制服や教科書などの備品は、とある貴族の嫌がらせを受けて本人の元に届いていない。



 「ライニグング様、ありがとうございます」



 ローゼは天使のような笑みを浮かべて感謝の意を述べる。



 「さすがにこんな姿では入学式には参加できないわね。寮に戻ってシャワーでも浴びようかしら。でも、この時間帯はシャワーを使えないわね……。それなら学院を抜け出して川で水浴びをすればよいわね。そうと決まれば急がないとね」



 寮生活の学生は、フォルモーント王立学院の敷地内から出る時は許可が必要になる。しかし、簡単には許可を得ることはできない。夏休みなどの学院が休みになる時期以外の外出は堅く禁じられていた。



 「君、ちょっと待ちたまえ。無許可の外出は最悪退学処分になることを知らないのか」



 ローゼの独り言をひそかに聞いていた男子生徒がいた。彼の名はフラム・グローサーベーア。



 ※フラム・グローサーベーア 16歳 男性 フォルモーント王立学院2年生 身長180㎝ 赤髪マッシュ 青い瞳のあっさりした薄い顔の韓国風イケメン 細身の体格。5大貴族の1人である。



 「え!私の独り言を聞いていたのですか!お願いします。先生には内緒にしてください」



 ローゼは突如現れたフラムの姿に少し焦りながら、頭を下げて見逃してほしいとお願いをする。



 「盗み聞きをするつもりはなかったのだが、聞こえてしまったのだ。申し訳ない。俺は先生へ報告するつもりはない。しかし、君みたいな可愛らしい女性が川で水浴びをするのはいかがなものかと思う。俺の姉の部屋ならシャワーが付いているからそれを使用すれば良い。それと……」



 フラムは一旦言葉を推し渋る。



 「君に制服をプレゼントさせてくれないか」

 


 フラムは下を向いて赤く染まった顔を隠しながら言った。



 「え!見ず知らずの方にシャワーを借りることなんてできませんし、制服なんてもってのほかです。そのお気持ちだけを受け取ることに致します」



 突拍子もないフラムの行為に、ローゼは少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを取り戻して、素敵な笑みで丁重に断る。



 「実は一部始終のやり取りを俺は見ていたのだ。すぐに助けるつもりだったが遅くなってすまない。そのお詫びとして受け取ってもらいたい」



 実はフラムは最初からローゼと生徒達のやり取りを見ていたのである。



 「助けなくて正解です。私はただの平民、相手はお貴族様です。平民を助けるとろくなことになりません」



 ローゼの言っていることは正しい。平民と貴族が揉めれば、貴族のが正しいと判断するのがこの世界の鉄則である。



 「君の言い分は私も理解している。だからこそ、私の気持ちを受け取ってほしいのだ」



 フラムはわざと助けなかった。助けなかったのには理由がある。



 「私にかかわるとろくなことになりません。あなたのその優しい気持ちだけありがたく受け取らせてもらいます」

 「だめだ。俺はこのまま君を放置することはできない。平民と貴族には大きな壁があるのは百も承知の上だ。でも、それは今現在の話しだ。俺はいずれこの学院内の風土を変えるつもりだ。その第一歩として君を助けたいのだ。俺の気持ちを理解してくれるのなら遠慮などしないでくれ」



 「それでも受け取ることなどできません」

 


 どのような言葉を並べてもローゼはフラムからの施しを受けるつもりはなかった。すると、フラムは思いつめた表情をして左膝を付いて頭を下げた。



 「本当のことを話そう。実は俺……」

 


 フラムが真実を話そうとした時、1人の女性が物陰から飛び出してきた。



 「ちょっと待ってぇ~」



 私はこのイベントに物申す!

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