におい

あーく

におい

満員電車の中は最悪だった。

隣のおじさんの汗の臭い――汗をかいているのに着替えないのか?

目の前の後頭部からくる加齢臭もキツい。日々ストレスを感じているのだろう。

席に座っているおばさんや、その隣に座っているメイクが濃いミニスカートからも香水の匂いがする。

なぜ匂いを足そうとするのだろうか。絵具を混ぜすぎると黒くなるのを知らないのだろうか。


やがて扉が空き、地獄のような空気から解放された。

改札を抜け、地下から地上へ向かうと、地下鉄の出口で喫煙している輩がいた。

ふざけるな。いくら喫煙場所が減ってきたとはいえ、他の人への配慮がなっていない。

面倒臭いが、駅前まで迂回することにしよう

駅前にいる胡散臭い宗教勧誘をすり抜け、自宅へ向かう。


匂いを感じるのは、昆虫やカタツムリにすら備わっている原始的な機能だ。

危険から回避するため、嫌な匂いがあればすぐにわかるようになっている。


公園のそばを通り、鼻の中をリセットして自宅の前へ。

玄関を開け、「ただいま」と言うと妻が「おかえり」と応える。

「風呂は?」と聞くと「入れるよ」と応える。

さらに妻は淡々とした口調でこう続けた。

「お風呂から上がったらお話があります。」


これは――不吉な匂い――。

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におい あーく @arcsin1203

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