第5話

そもそも、「前提条件」とはなにか。


それを洗いざらいに考えていこうと決めた。


「前提条件」とは?


それは「インターネット」の情報は抜け落ちがなく、完璧な状態である。ということ。


ではその前提条件が崩れている、ということは?


インターネットの情報が完璧ではない、ということだ。


しかし、そのことを考慮したうえで「複数」のサイトを比較し、更には直接航空会社に聞くことでその「前提条件」をクリアした。


と思っていた。


しかし、それが完璧ではないとしたら?


いや、ありえないか…


「機械」と「人間」


この2つを組み合わせて出てきた結果がこれだ。


この2つをクリアした時点でなにか抜け落ちが有るとは思えない。


こんだけ聞き出した上で抜け落ちる情報など有るはずがないのだ。


飛行機会社がそのことを抜け落ちる、とは思えない。


ということは「田中新太郎」と「青野早奈子」の取り調べにおいてなにか不備があった、と考えるのが自然だ。


まず「事件の動機」としてはお互いに不透明であり、十分性が有るとは言い難い。


なぜならば「取り調べ」という「前提条件」のなかでそのことに追求する質問が明らかに少なかったからだ。


そこが盲点だったな、と思いつつ、ここで満足はしない。


まだなにか抜け落ちが有るはずだ


そう思い、まだまだ取り調べの内容を遡ってみる。


「事件当日の被害者と朝から夜、分かれるまで何回の接触があったのか」


「よく高架下の自転車駐輪所には来るのか」


「日常とは違うなにか特別な行動をしたか」


などなど


あとから調べてみれば様々な情報の抜け落ちがあることがわかった。


じゃあその情報をもとにもう一度取り調べを行うか…


担当の警官にそう告げ、容疑者たちの電話番号に電話をいれる…


―――――――――――――――――――――――――――――


「おかしい…」


そう思ったのは2人の容疑者の取り調べが終わったときだった。


そもそも取り調べ、というものは「加害者」のボロを容疑者の中からどんどんふるいにかけて明瞭にしていく。というものだ。


しかし、この取り調べではたしかに明瞭にはなってきているが…


その内容は「ボロが出る」というものではなく、余計に「わからなくなっていく」というものだった。


調べれば調べるほど、二人のことが怪しくなっていき、調べれば調べるほど、二人のことが「白」に見えてくる。


なぜだ…?


お互い共犯の可能性も視野に入れておくべきなのかもしれない、と思い始めた。


しかし、共犯でこの犯行に及ぶ、ということは果たして可能なのか…?


まずはその可能性から考えていこう。


――――――――――――――――――――――――――――――――


共犯である、ということは必ず「口裏あわせ」というものが必要になってくる。


お互いの連携、というものが崩れてしまうと犯行自体が「成り立たない」からだ。


しかし、その連携というのも一朝一夕で身につくものではない。


その点はクリアしている。


なにせ同じ会社なのだ。


いつでも一緒にいることができる。


しかし、共犯となると一つ疑問点が出てくる。


それは「どちらも犯行場所におびき寄せるような行動をしていない」ということだ。


共犯の手口として必ず出てくるのは「犯行場所におびき寄せる」とうこと。


それは共犯のうち、片方が必ずするべき仕事、というものでも有る。


まぁ犯罪を仕事、というのはたとえとして良くないがそこは許してほしい。


問題はそのおびき寄せるような行動をお違いしていない、ということ。


さきほどの取り調べで「朝から夜、退勤の時間まで接触したことは何回有るか」という質問に対してお互い「今日は0」という回答がかえってきた。


仕事の同僚に話を聞いてみても


「確かに福さんは今日は商談の準備だから、と言って誰とも接していなかったし話していませんでしたね」


という回答がかえってきた。


「となると…共犯という可能性は低い…か…」


だったらなぜだ?


この明瞭なのに不明瞭な感覚がするのは…


「前提条件」…


それがこの事件の鍵になるな…


そう思いながら今回の取り調べの内容をノートに簡潔にまとめ、金庫に入れておく。


なぜだろう、俺の勘が警鐘を鳴らしている。


「……乗換案内に出てこないことなんてあるのか…?」


いくらそんなことを考えようにも、人間の頭じゃ追いつかない。


まぁ今日は一旦諦めて家に帰るか…

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