第20話 安堵

マサは眼科医の孫と別れ、再び旅を続けることにした。彼は次の目的地である小さな山間の村を目指していた。道中、夏の日差しが強くなり、喉の渇きを感じ始めたマサは、ふと山道の脇に見つけた茶屋に立ち寄ることにした。


茶屋は古めかしいが、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。店先には大きな風鈴が揺れ、涼しげな音を立てている。マサは店内に入り、麦茶を一杯注文した。冷たい麦茶が喉を潤し、心地よい涼しさが広がっていく。


茶屋の主人は年配の女性で、親しみやすい笑顔を浮かべながら話しかけてきた。「旅の途中かい?この村は昔から幸せを運ぶ場所と言われていて、訪れる人は皆、心が軽くなると言われてるんだよ。」


マサは微笑みながら頷き、屋内を見渡した。すると、屋根裏に続く小さな梯子が目に入った。「あの屋根裏には何があるんですか?」とマサが尋ねると、主人は少しだけ表情を曇らせた。


「あそこには昔の道具や古いラジオが置いてあるだけだよ。特に珍しいものはないけど、気になるなら見てきてもいいよ。」主人はそう言うと、再び笑顔を見せた。


好奇心に駆られたマサは、梯子を登り、屋根裏に上がった。狭い空間には、確かに古びたラジオや壊れた道具が散乱していた。ラジオは古く、埃が積もっていたが、マサはその一つを手に取り、電源を入れてみた。しかし、ラジオは音を出すことなく、ただ静かにそこにあった。


その時、マサは屋根裏の隅に奇妙な動きがあるのに気づいた。薄暗い角に、ゆっくりと蠢くスライムのようなものが見えたのだ。マサは驚き、少し後ずさったが、そのスライムは特に敵意を示すことなく、ただそこにじっとしていた。


「これは…何だ?」マサは声を潜めて自問した。スライムは静かに、まるでマサを見つめるかのように動きを止めた。その瞬間、マサの耳にラジオから微かな音が聞こえてきた。


「…幸せとは…心の在り方…」


それはラジオから流れる穏やかな声だった。まるで、スライムがラジオを介して何かを伝えているかのようだった。マサはその場でしばらく立ち尽くし、ラジオの声に耳を傾けた。


その後、マサは茶屋を出て、旅を再開した。彼は茶屋の主人にスライムのことを伝えなかったが、心の中に何か温かいものが残ったように感じた。スライムとラジオ、そして幸せについて考えながら、マサは山道を進んだ。


日が暮れる頃、マサは次の村に辿り着いた。そこには、かつて鬼を退治したとされる「鬼殺し」の伝説が残る古い神社があった。神社の前でマサは立ち止まり、静かに手を合わせた。ラジオの言葉を思い出しながら、彼は自分の心の中にある幸せを感じ取ろうとした。


やがて夜が訪れ、マサは村の宿屋で一夜を過ごすことにした。眠りに就く前、彼はふと茶屋での出来事を思い返し、不思議と幸せな気持ちに包まれた。彼の旅はまだ続くが、その心には確かに、幸せの種が蒔かれていたのだった。


 アリスは、仕事や日常生活からの一時的な逃避を求めて、柔らかいクッションに寄りかかりながら目を閉じた。心の中で、彼女は一人の理想的なパートナーと過ごす情熱的な時間を夢見ていた。そのパートナーは、彼女の心を惹きつけ、優しくも強い眼差しで彼女を見つめる人だった。


 彼女の妄想の中で、二人は美しい庭園の中を散歩し、互いに耳打ちしながら、心の奥底にある秘密を共有する。アリスは、優しく手を取り合いながら、心の中で期待と興奮を感じていた。彼女は、夢の中でのロマンチックなひとときに、日常のストレスや心配を忘れて、幸せな気持ちに包まれていた。


「あん……だめ……こんなところで……だめ……」

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