106話 小脇に抱えられていた幼女が、幼女を小脇に抱えていた私より10倍移動ボーナスをもらっている件に関して


  「なら、有難く飲むとするか」


   「ひぃぃ」


 冷蔵庫に近づいた小羽玖ちゃんが、いつものようにひぃぃと言っているわね。

 おじさんから敵意があるわけはない事は分かり切っているんですが。

 いったい、何を怯えているんでしょうかね。


 「実椿ちゃん、環希ちゃん、これ少しでも動かせば」

 「センサーが起動してコンビニの三倍の値段取られるやつよ」

 「怖い。怖いわぁ」

 「手に取ってみたら」

 「もう料金が発生するわよ」


 「けれど、飲みましょうか」


 ひぃぃしておいて、小羽玖ちゃんは結局飲むようです。


 「近くにコンビニも自販機もなかったものね」

 「ひぃひぃもののペリカン物価ね」


 まぁ、そうですね。

 このエタファンの世界で飲食をしないとどうなるかはまだわかりませんが。

 荒野を何も飲まずに歌いながら走ったりしてきたのですから、高くついても何か飲んでおいた方がいいでしょう。


 「モンスターとの戦闘なんてしてねぇけど」

 「カッパーが増えてるぜ」

 「1000Cちょいある」

 「移動しただけで収入になるのか」


 私だけの特別チートシステム仕様ではなく、環希ちゃんの所持金も増えているようです。


 「ひぃぃ」

 「私も、モンスターとの戦闘なんて一度もしてないけれど」

 「1200Cはあるわ」


 「ぷるぷる」

 「実椿は一歩も歩いていないけれど」

 「5000Cを超えてるの」


 「実椿、お前一歩も歩いていないのに」


 「ひぃぃ」

 「実椿ちゃんを小脇に抱えて移動したら」

 「実椿ちゃんの所持金がどんどん増えていくんだよ」

 「これは、私達が実椿ちゃんを小脇に抱えて走り回れば」

 「エタファンの世界で生きていくのに困らないお金が手に入るんだよ」


 小脇に抱えられていた幼女が、幼女を小脇に抱えていた私より10倍移動ボーナスをもらっている件に関して。

 良いと思いますよ。

 これで、実椿ちゃんは、私達が小脇に抱えている限り、生活に困る事はないでしょう。

 

 「小脇に抱えられてるだけの実椿だけだぜ」

 「金が手に入るのはな」


 「むふー」

 「実椿、たくさん小脇に抱えられて」

 「ぐんぐんみるこをいっぱい飲むの」

 「むふー」


 「実椿ちゃん」

 「ぐんぐんみるこばかり飲んでると」

 「虫歯になるよ」

 「エタファンは痛覚もあるフルダイブ型VRMMORPGなんだから」

 「虫歯になったら、痛いよ」

 「ひぃぃ」

 「実椿ちゃんが虫歯で苦しむのよ」

 「ひぃぃ」


 「ぷるぷる」

 「虫歯は嫌なの」

 「歯医者も嫌なの」


 痛覚があるとはいえ、フルダイブ型VRMMORPGで虫歯になるかは分かりません。

 わかりませんが、おじさんがまだ一人で泣いていて、誰も相手にしていない事は分かります。


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