上別府才賀3年生編1話 もう少し、我慢してみよっか、晴生君。


  「オレェはもう、むやみに人を殴らない」

 

 今しがた、モラルタの連中数人を1人で殴り倒してから、親友の石戸晴生君が言った。


 とにかくでかくて、圧倒的なパワーにして無尽蔵のHP。

 初めに喧嘩した時に、彼のパワーと終わりのないヒットポイントに敗北した。

 喧嘩では、彼に勝てる事はないだろう。

 でも僕は、彼と喧嘩以外の形ではやりたくない。

 その時は、来て欲しくはない。

 来るだろうけれど、嫌だ。



 「殴ったでござるよ晴生殿」


 この、見た目からしても中身からしてもオタク君なのは親友の新田富造君。

 深夜の美少女アニメなんかを見て、よく眠そうにしている。

 月恵ちゃんがどう思うかは別として。

 いざとなった時、彼の殺人拳は非常に頼もしい。

 僕も、頼りたくはないが。

 頼る時が来る。

 彼の殺人拳をくらった時があるかって?

 くらってたら、僕は死んでるよ。

 だって殺人拳だからね。

 ははは、常識だろう。

 初めに喧嘩した時は僕が勝った。

 が、それも喧嘩だったから。

 喧嘩じゃなかったら?

 それはどうなるかは分からない。

 僕の方が技術は上だし。

 僕に勝ち目がないわけじゃない。

 むしろ、僕の方が勝つ可能性はかなり高い。

 8割がた僕が勝つだろうね。

 後の2割は何かって。

 僕が死ぬのが2割だよ。


 「殴ったよ晴生君」


 こう言うしかないじゃないか。

 他に、何か言う事ってあるかな。

 ないよね。


 「殴ったわね晴生君」

 

 彼女が僕らの上林月恵ちゃん。

 僕は彼女に喧嘩で勝って、彼女に救われた。

 僕達は皆、彼女に勝って、彼女に救われた。

 僕達はもう、彼女に夢中なんだ。



 「こんな事して晋次さんが黙ってるとでも思ってんのか」


 倒れてた中の、1人が声を出す。

 思えないよな。

 モラルタのリーダー立和名晋次は、直接攻め込んでくる。


 「モラルタへの宣戦布告と受け取っておいてやる」


 宣戦布告か。

 モラルタらしい受け取り方だ。

 晴生君が一方的に殴り倒したのは事実。

 けれど、彼らにも非礼がある。

 モラルタは、非礼無礼を良しとするチームではない。

 むしろ、リーダーの立和名晋次君という人間からしても騎士道を良しとするチームだ。

 宣戦布告と受け取っておいてやると言った彼、光本泰雅君も、非礼無礼を行う者ではない。

 モラルタの人間が発した非礼無礼なる言葉と引き換えに、突然殴りかかったという事ではなく。

 宣戦布告にする。

 そういうところだろう。


 「宣戦布告って泰雅さん」

 「そりゃねぇよ」

 「向こうから攻撃してきたんだぜ」


 晴生君に殴り倒されたモラルタの1人が口を挟む。

 まぁ、彼の言ってる事も最もだ。

 モラルタの側に非礼無礼があったとはいえ。

 殴るのが早かったよ晴生君は。

 もう少し、我慢してみよっか、晴生君。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る