第10話 『この技こそ、柔道の基本にして真髄』


  左腕を折られ、どうにもならない才賀君の喉を晴生君が掴む。


 「やめて、晴生君」


 私がそんな事を言っても、なんの意味もなかった。

 そう。この場でまず晴生君が潰そうとしてるのは、才賀君だ。


 才賀君の喉が、握りつぶされる。


 もう、才賀君がだめなのはわかった。


 晴生君が、私の方を向く。


 「メインデーッシュ」


 怪物は、メインデッシュに意識を向ける。

 この時を、メインデッシュを最後に残して。

 これから、楽しみにしていたメインデッシュを食べるように。

 

 教室は、机と椅子が倒れ散らかってるだけではない。

 机の中身も、何もかもが散乱しており、ここで逃げては、理々花ちゃんと同様の敗北になる。


 まるで、理々花ちゃんが、身を持って、教えてくれているように思えた。


 ありがとう、理々花ちゃん。

 貴女の身を持って教えてくれた事、無駄にしないわ。


 晴生君の大振りパンチを足を使って大きく回避する事はしない。


 晴生君の大振りパンチが、こめかみに当たる。


 こめかみは骨が薄く、こんな場所に晴生君の大振りパンチが当たればどうなるかなんて。

 そんな事は分かっていた。


 それでも、私は、そのまま、才賀君に教えて貰った背負い投げで、晴生君を地面に付ける。


 『投げ技は覚えておくといい』

 『覚えておかなければいけない』


 この時のために、才賀君は教えてくれたんだと思う。


 『まず、何より、背負い投げさ』

 『この技こそ、柔道の基本にして真髄』

 『柔よく業を制すという言葉を体現した技なんだ』


 柔よく剛を制す。


 『月恵ちゃんは女子だからってのもあるけど』

 『君に力は不足してる』

 『けれども、君は巨漢とも、獣とも、怪物ともモンスターとも戦わなければいけない』

 『その時が来る』


 女の子の私には、力が不足してる私には、それが必要なんだって。

 才賀君が言っていた。


 その時は事実、来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る