第8話   私達は、せぇせぇ言いながら、晴生君に下段突きを繰り返した


  「富造君才賀君」


 私は、富造君と才賀君に呼びかける。

 富造君と才賀君が、準備態勢に入る。


 「晴生君」

 「やめなさい」


 晴生君の前に立ちふさがり、理々花ちゃんへの追撃を阻止する。

 

 「もう、理々花ちゃんはダウンしてるわ」

 「カウントダウンするまでもなく、ノックアウトよ」


 実際、理々花ちゃんはもうダウンなんてものではなく、ノックアウトだ。


 「総合だって、ノックアウト判定よ」

 「マウントにいかなくていいのよ」


 ノックアウト状態の理々花ちゃんに、技術のない原始的なマウントとはいえ。

 晴生君の体重体格力で、タコ殴りなんてしたら。

 理々花ちゃんは。


 「Grrrrr」



 晴生君は、もう言葉が届いているとも思えない。


 晴生君は、私を左手で掴み、右手で殴る。


 左手で掴んだ状態でも、威力は十分だった。

 もう、私にあるのは恐怖だった。


 才賀君のいう通り。

 もう、限界よ。


 「晴生君を止めて」

 「富造君才賀君」


 富造君が、地面を強く蹴り、踏み込んでからの突きを、背後から、晴生君の背中に当てる。


 「ぎぃっ」

 流石に、この一撃は晴生君にも痛みを与えるようだ。

 

 だが、痛み程度で、晴生君が止まるわけがない。


 私は、もう泣きそうだった。


 この場の誰もが、泣いて当然なのだ。

 

 誰が、こんな終わりを望んだのだろうか。


 誰も望まなくても、私がそれを望んだ。


 才賀君が、大車を晴生君にしかける。


 晴生君が、回転し、地面に倒れる。


 そのまま、3人で、地面に倒れた晴生君に、下段突きを決める。


 下段突きを、決めていく。


 もう、十分ではないだろうか。

 止まってちょうだい。

 そう、願っても。

 私はもう、願ってしまっている。

 晴生君が止まるまで、私達は止まれない。

 富造君が、才賀君が止まっても、私が止まるわけにはいかない。


 「せぇぇぇい」

 「せぇっ」

 「せぇにござる」


 私達は、せぇせぇ言いながら、晴生君に下段突きを繰り返した


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