第2話 出会い

 キーンコーンカーンコーン


 終了のチャイムが鳴る


「じゃあ、明日までに課題仕上げてこいよー」


「はーい」


 皆んな一斉に帰る準備を始める。


 そんな中ぼーっと黒板を見つめる沙也に声をかける類。


「沙也今日バイトは?いつも終わったらすぐ出て行くのに何かあった?」


 類はこれか部活に行くのか、カバンに練習バックを持っている。


「ほんとだ、珍しー!沙也ががまだ残ってる!バイトないの?そしたら、駅前にできたワッフルのお店に一緒いこーよ!」


 愛佳がぼーっと座っている沙也の前の席の椅子に座って声をかける。


「今日はバイトはないんだけどー、ちょっと予定があるんだよね。」


「予定?まさかデートとか言わないよね!?」


 予想外の返しに愛佳が、少し怒った様子で沙也の顔を覗き込む。


「そんなんじゃないに決まってるでしょ!家の用事!今日はバイトも寄り道もせずにまっすぐに帰ってこいってママから言われてんの。」


真美まみさんが?真美さんいつも忙しそうなのにな。なんかあんのかな?」



 類は昔から家族ぐるみで仲がよく、沙也の家庭の事情もこともよく知っていて、母親のことは母本人の希望からいつも名前で呼んでいる。


「そうなんだよ、なんか怖いよねー。夜逃げするとか言われたらどーしよ。私も頑張って稼いでるんだけどなぁ。」


「とにかく急いで帰れよ。何かあったらすぐ連絡して、俺チャリで駆けつけるし。」


「類はいっつも沙也にあまあまだよねー!私にも優しくしてほしいなぁー」


 愛佳が席を立ってニヤっとしながら類の隣を通り過ぎながら捨て台詞を吐いて行ってしまった。


「ありがと、でも大丈夫!何かあれば言うね!じゃまた明日!」


「うん…」


 そうは言ってみたものの、いつも忙しくしているママが夕方に家にいるのも珍しいのに、早く帰ってこいだなんて、ちょっと胸騒ぎがする。


 はやる気持ちを抑えながら、家に帰ることにした。



「誰かいる、、」


 家の前に黒塗りの車が停まっている。


 ドキドキしながら玄関を開けた。


「ママ?ただいま、、」


 玄関を開けるとリビングから珍しく誰かとしゃべる母の楽しそうな声が聞こえてきた。


 ついつい小声になって靴を脱いでそっとリビングの扉を開けた。


「あっ沙也ー!遅かったじゃない!

 待ってたのよ!さ、ご挨拶して。」


 リビングのソファーに座っていたのは、高そうな薄いストライプの入った黒いスーツを着た中年の男性だった。少し白髪の入った長めの髪を掻き上げたようにセットされた髪型に、高く整った鼻に大きめの切れ長の目に目尻の皺が優しさを感じさせる。


「イケおじだ、、

 あっ、沙也です。よろしくお願いします?」


 イケオジはにっこり笑って、立ち上がり握手のために右手を伸ばしてきた。


「初めまして、鴻池透こうのいけとおると言います。

 よろしくね。ママに似て美人さんだね、おじさん照れちゃうな。」


「もう、沙也ったら恥ずかしがらないでいいのよ!もうすぐ沙也のパパになるんだから!」


 そう言って私の肩を照れながらバシバシ叩くママを傍目に私は豆鉄砲をくらった鳩のような顔をしていた。


「パパ?このイケオジと再婚するってこと?

 私何も聞いてないんだけど!」


「沙也、、」


 ママは私が喜ぶと思ったのか思いもしない私の反応に戸惑ったようだった。


「沙也ちゃん、驚かせてしまってごめんね。もちろん沙也ちゃんが許してくれるならの話だからね。」


「許すもなにも、、」


「、、あっ沙也!透さんね、沙也と同い年の息子さんがいるのよ!ほら、兄妹が欲しいって言ってたじゃない!嬉しいでしょ!?それに今同じ高校に通ってるのよ!

 鴻池真斗こうのいけまさとくんって知らない!?」


「は?

 鴻池真斗?まさと?そんな人知らないよ!兄弟が欲しいとは言ったことあるけど、いきなり同い年の兄妹ができるって言われても喜ぶわけないじゃん!」


 そう言って、リビングから勢いよく出て行こうと扉を開けた時に、チャイムと同時に玄関が開いた。


「こ、こんちには」


 そう言って入ってきた男は私と同じ高校の制服を着た、やたら背が高いけど猫背で痩せ型の根暗男子だった。



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