やっぱり、

すもももも

第1話 プロローグ

「ちょっと!一口ぐらい食べていきなさいよー!」


「もう時間ないよーー!いってきまーす!」


 リビングのテーブルに置いてあったオレンジジュースだけ勢いよく飲み干して、お弁当しか入ってないような軽いカバンを握りしめて、スニーカーを履いて家を飛び出した。


 家から近いバス停まで歩いて5分、でもあと3分しかない。間に合うか分からないけど元々色素が薄いような淡い栗色の髪色に毛先だけ緩いウェーブがかかった胸元まである長い髪をなびかせてバス停まで走る。


 透けみえそうなほど白くきめ細かい肌に、一度見たら忘れられないような猫目に長いまつ毛、リップクリームしか塗っていないのに淡いピンク色に染まった唇に、走って蒸気した赤いほっぺがなんだか色気まで感じる彼女は、やっとのことで間に合ったバス停に並んでいたおじさんから高校生までみんなの視線を釘付けにした。


絶え絶えの息がようやく落ち着き、バスが到着した頃


「お前、またギリギリかー?」


 笑いながら頭をポンポンと叩きながら声をかけてきたのは、中学から男友達のるいだ。


 中学の頃から陸上で県代表になるほど、足が早く運動なら何でもそつなくこなしてしまう彼は昔からよくモテる。そして、茶髪の短髪に高い背に細いけど筋肉質の体とは相反して、切れ長の目に笑うと目がなくなる人懐っこい笑顔に、さっきまでの緊迫感がふと抜ける。


「そういう類だって今きたんでしょー!一緒じゃん!」


「俺は時間を測ってあえてこの時間に来てんの♩それより、沙也さやスカートめくれてるよ?痴女なの?」


「ちっ?!んなわけないじゃん!早く教えてよ!」


 その声に周りの男子達が一斉に振り向く視線を感じながら、新しい制服のタイトスカートの裾を直す。上は長袖のセーラーにスカートは膝上のタイトスカートと動きにくい制服はいつもバタバタしている沙耶にとっては結構ネックになっていた。


 バスが走り出し一駅先のバス停から乗ってきたのは、同じ制服に黒髪ショート、スタイルの良い姿に小麦色の肌が映える女の子。親友の愛佳あいかだ。


「おっはよー!沙也また走ったねー?髪ぼさほさだよー」


にっこり笑う愛佳はかわいらしい雰囲気の沙也とは違って大人の色気がある。


 愛佳が沙也の隣に座って類が後ろに座る。いつもの登校スタイルだ。学校まで20分、

沙也にとって二度寝の時間だ。


………


 私は沙也、16歳女子高生。

お父さんは私が3歳の時に癌で亡くなったと母親から聞かされたけど、記憶にないし、優しく友達のような関係の母のおかげで、寂しい思いもせずに育ってきた。


 4月から高校生になって新しい生活になった。まだ慣れないし、地元から少し離れた高校だから遠いし、知らない人も多いけど親友の愛佳(あいか)もいるし仲のいい男友達の頼がいるから楽しくやってる。


 自慢ではないけどそこそこモテる気はする。でも仕事で忙しい母に代わって家の手伝いをしたり、バイトで忙しく恋愛やらにハマっている余裕がなくこれまで誰とも付き合ったことはない。


 告白されても毎回断るのに定期的に色んな人に呼び出しをされることに段々嫌気がさしてきた私をみかねてか、少し前から類が代わりに断ってくれるようになった。汚れ役のようで申し訳ない気もするけど、、


 裕福でもないけど、家族や友達にも恵まれてるし、私の毎日それなりに充実してるし、これからもこれが続く、そう思ってた。


あの時までは。

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