第12話 Chapter12 「JK戦士達の休息」

Chapter12 「JK戦士達の休息」


 米子の部屋に樹里亜と瑠美緯が遊びに来ていた。テーブルの上には米子が淹れたコーヒーが入ったコーヒーカップと 『ピエール マルコリーニ』のチョコレートが並んでいる。米子は笹塚のマンションに住んでいた。

「いいマンションですね。間取りはどうなってるんですか?」

樹里亜が米子に訊ねた。

「2LDKだよ」

「広いですね。羨ましいです。私は児童養護施設なんで狭い個室なんです」

「樹里亜ちゃんは高校生だから1級工作員のテストに合格すれば一人暮らしができるよ。家賃は組織が払ってくれるよ」

「はい、今学科の勉強をしてます。実技は自信があります」

「そうなんだ。頑張ってね」

1級工作員になるには16歳以上でテストに合格する必要がある。テストは学科と実技があり、学科は語学、数学、物理、諜報(暗号、盗聴等)、心理があり、実技は体力測定(走力、水泳、筋力)、格闘、射撃、尾行、模擬戦闘である。

「米子先輩の部屋って機能的というか結構殺風景なんですね。棚にエアガンがいっぱいありますね」

瑠美緯が言った。

「うん、あんまり物を置いたり飾ったりしないんだよね。エアガンは飾ってるんじゃなくて常に手に持って感覚を維持してるんだよ」

「あの絵は何ですか? 渋くてお洒落ですね。コーヒーも本格的で美味しいですし、チョコもお洒落ですし、落ち着いたお洒落な生活ですね」

樹里亜が訊いた。米子は専門店から買ってきたコーヒー豆をコーヒーミルで挽いて、コーヒーケトルとドリッパーとペーパーフィルターで1杯ずつ淹れている。

「『ユトリロ』のリトグラフだよ。家族がいた頃、お母さんが好きで部屋に飾ってあったんだよ」

「いいですね、私は捨て子だったんで、家族の思い出がありません」

「ミントちゃんと同じだね。私は9歳から一人だよ」

米子が言った。

「私は10歳から一人です。両親と兄が交通事故で亡くなりました」

瑠美緯が言った。

「ミントさんも捨て子だったんですね。でもミントさん明るいですよね。ミントさんはまだ来ないんですか?」

樹里亜が言った。

「うん、ミントちゃんの明るさに救われる時があるよ。ミントちゃんはさっき、少し遅れるって連絡があったよ」

「米子先輩とミント先輩はいいコンビですね、なんか羨ましいっす」

瑠美緯が言った。

「樹里亜ちゃんと瑠美緯ちゃんもきっといいコンビになれるよ」

「話は変わりますけど、私、個人用はずっとベレッタ92を使ってるんですけど、米子先輩は何でSIGのP229なんですか?」

瑠美緯が訊いた。

「以前はP226だったんだけど、P229の方が小型で手に馴染むからだよ。P229はP226をダウンサイズした型なのに357SIG弾を撃てるんだよ」

「P229は9mm弾バージョンもありますよね?」

「うん、でも9mmを撃つのなら装弾数が多いP226やベレッタ92の方がいいんじゃない?」

「9mmならそうですね。でも最近は45ACPもいいかなと思ってます」

「45口径はマンストッピングパワーがあるからね。装弾数は少なくなるけど、技術部にロングマガジンを作ってもらえばいいよ。45口径ならガバメント系だね」

「小型の45口径でいい銃ありますか? 小さい方が持ち運びに便利です」

「だったら『デトニクス』か『V10』がいいよ。コンパクトだよ。でもその分反動が大きくなるから常に訓練が必要だけどね。中学生が45口径ってカッコいいよ」

米子がテーブルの上のノートパソコンでデトニクスとV10ウルトラコンパクトの画像を表示した。

「へえ、両方ともコンパクトでいいっすね。45口径の銃には見えません。V10は見た目がカッコいいっすね。シルバーのバージョンがイケてますよ。個人用の銃、これにしようかな」

「申請書を書いて木崎さんに提出すればいいよ。申請が通って手に入ったら射撃場で撃ちたいね」

「はい、申請してみます。申請理由は米子先輩の推奨にしておきます。射撃場は行った事ないんで楽しみです、お台場でしたっけ?」

「そうだよ、テレコムセンターの近くだよ」

「連れてって下さい」

「いいよ。樹里亜ちゃんは今の銃でいいの?」

「はい、ベレッタ92は撃ちやすくていいです。見た目もスマートで気に入ってます。私は9mm弾がいいです」

「9mm弾は撃ち易くて連射がしやすいのがいいよね、装弾数も多くなるし。でも銃の話で盛り上がる女子高生や女子中学生なんて私達だけだろうね。ガンマニアの男の子だって撃ったことは無いだろうし」

米子が楽しそうに言った。銃の話で盛り上がる中、ミントが遅れて合流した。

「ミントちゃん遅かったね」

「ごめんね、美容院が混んでたんだよね。お詫びにお土産買って来たよ」

ミントがレジ袋から紙の箱を取り出してフタを開いた。

「『玉金屋』のお握りだよ。ここのお握り美味しんだよ」

「わー美味しそうです」

「玉金屋は有名ですよね」

「うん、握り方が絶妙で、具も沢山入っているんだよ。丸いのがいいんだよね。8個あるから1人2個までだよ。具はレシートに書いてあるよ」

お握りのてっぺんに中に入っている具がサンプルのように載っている。

「私は鮭イクラとおかかにするよ」

米子がお握りに手を伸ばした。

「私は牛肉そぼろがいいです。梅も貰います」

「私は卵黄の味噌漬けにします、松茸昆布も頂きます」

「私は一番ゴージャスな『ゴールデンボール』にするよ。いろんな具が入ってるんだよ」

「おいしい~!」

瑠美緯が笑顔で言った。

「お握りは日本人のソウルフードですよね」

樹里亜も満足そうだ。

「だよねー、ハンバーガーやピザも美味しいけど、お握りは落ち着くんだよね」

「私も訓練の合間に良く食べたよ。サバイバル訓練の時に食べたお握りは格別だった」

米子が懐かしそうに言った。

「米子、このコーヒー凄く美味しいね? 喫茶店やカフェより美味しいよ! どうやって淹れたの?」

ミントは米子の淹れたコーヒーの美味しさに驚いていた。

「淹れる直前にコーヒーミルで豆を挽いてるから香ばしいんだよ。お湯もコーヒーケトルで丁寧に注いでるんだよ。今回の豆は『コロンビア』だよ」

「私、家ではインスタントしか飲まないんだけど、こんなに美味しいコーヒーを飲めるならやってみたいよ」

「道具は全部ネットで揃えられるから教えてあげるよ。淹れ方は今からもう一杯淹れるからよく見ててね」

ミントは米子がコーヒーを淹れる手順を見ながら真剣にメモをとっていた。


【射撃場】

内閣情報統括室の射撃場はお台場のテレコムセンターの近くにあった。見た目は大きな物流倉庫で、郵便局のマークでカモフラージュしている。表向きは郵政省の施設であるが中は工作員の室内訓練場で地下には射撃場が存在する。全12レーンで距離80mの射撃場には内閣情報統括室が管理する諜報機関や工作機関のエージェントが実弾による射撃訓練を行っている。

『バン』 『バン』 『バン』

米子がV10ウルトラコンパクトを撃った。15m先のターゲットの真ん中に穴が空いた。

「思った通り反動が強いね。小型だからグリップを両手で包み込むように握った方がいいよ」

米子が言って瑠美緯に銃を渡した。瑠美緯は緊張した面持ちでV10ウルトラコンパクトを構えた。瑠美緯が3連射したが弾は1発が真ん中に当たり、2発は的には当ったが真ん中を外れた。

「難しいですね。この銃をメインにしよと思ってるんすけどもっと練習が必要です」

瑠美緯が残念そうに言った。15mの距離で45ACP弾をターゲットの中心に集められればかなり腕の良いシューターであるが、工作員に求められるレベルは高い。

「初弾は当ってるから、手首の戻しを訓練した方がいいね。大口径を撃って練習するといいよ」

米子がアドバイスした。米子とミントと樹里亜と瑠美緯は放課後に射撃場に来ていた。制服はバラバラだった。


瑠美緯がS&WM500を構えた。弾丸は500マグナム弾だ。流通しているハンドガンで最強の威力の拳銃だ。500マグナム弾は44マグナム弾の3倍の威力がある。弾丸エネルギー4000ジュールはライフル弾と同等以上だ。

『ドン』

反動に銃が跳ね上がり、弾丸はターゲートを大きく外れた。

「痛っ! 手が痛いです。こんなの罰ゲームです」

瑠美緯が抗議するように言った。

「貸して」

米子が瑠美緯からM500を受け取り、構える。

『ドン』 『ドン』 『ドン』

米子が撃った弾丸は全てターゲートの真ん中に命中した。

「凄~い!」

「さすが米子だね、500マグナムを連射で当てるなんて凄すぎるよ」

「米子先輩凄すぎる! 本当に憧れちゃいます」 

3人が感心する。瑠美緯は目がハートになっている。

「1発目より2発目を当てるように意識するの。鉄アレイで手首と前腕を鍛えるといいよ。500マグナムは反動が大きすぎるから、357か44マグナムで練習した方がいいよ」

米子がアドバイスした。

米子達はその後各自レーンに入って100発近くの射撃訓練を行った。米子はSIG‐P229とS&W‐M500、ミントはコルトパイソン357とベレッタ92、樹里亜はベレッタ92、瑠美緯はV10と施設でレンタルしたS&W‐M29の44マグナムを撃った。4人は射撃場の中にあるガラス張り休憩ルームに入ってペットボトルの飲み物を飲んでいた。

「米子先輩、射撃が上手くなるコツってあるんですか?」

「コツなんてない、練習するしかないよ」

「あの、君達はどこの所属かな?」

休憩所内のベンチに座っていた男が米子に話しかけた。黒いポロシャツに細身の黒いズボン。身長は180cmくらい。引き締まった体をした30代前半くらいの男だ。キリッとした顔立ちはアクション系の俳優のようだ。

「すみません、規則なので詳しい所属は言えません。内閣情報統括室の配下の組織です」

米子が答えた。内閣情報統括室が管理する組織は警察系、防衛省系、外務省系、CIA系の工作機関で、末端の組織を含めるとその数は20を超える。

「君達、もしかして噂のJKアサシンか?」

男は尚も質問をした。

「それにもお答えできません」

米子が言った。

「さっき見ていたが大した腕前だ。竹長を撃ったのは500マグナムだったな」

男が言った。米子は無視した。

米子達は射撃レーンに戻った。さっきの男も隣レーンに戻ると、射撃訓練を開始した。男は正面に対して横に向けたパイプ椅子に座り、体を90度捻って銃を構えた。銃はコルトパイソン357で銃身は8インチだ。

「あの人何やってるんだろう? 変な撃ち方だね。でも結構イケメンだよ」

ミントが言った。

「きっと車の中からの狙撃を想定してるんだよ。運転席からの座った姿勢での精密射撃だよ」

米子が答えた。

「イケメンだけど殺し屋みたいでなんか不気味な人だね」

男は1発ずつハンマーを起こすシングルアクションでターゲットを撃った。弾は全てターゲットの真ん中に当たった。


「米子、『米子撃ち』やってよ、この前群馬で真似したけど、もう一回見本を見たいんだよだよ」

米子はベレッタ92を2丁上下に平行に構えて連射した。上下二つの銃口から同時にマズルフラッシュが噴き出す。2丁のマガジンの30発の9mm弾を4秒で撃ち尽くした。ターゲットには上下40cm間隔の穴が複数空いていた。

「やっぱり凄いね! 機関銃みたいだよ」

「トリガーを同時に引くのがコツだよ。単位時間あたりの発射弾数が増えるよ」

隣のレーンの男が米子を見つめていた。

「あの人、ずっとこっちを見てるよ。なんか気味が悪いね。どこの組織の人なんだろう?」

ミントが言った。

「8インチで訓練してるから精密射撃が必要な組織なんだろううね。暗殺かな?」

米子が言った。

「米子先輩、V10、結構当たるようになりました。この銃をメインにします」

瑠美緯が嬉しそうに言った。

「私は『米子撃ち』のコツを掴んだよ、弾の消費が凄いね」

ミントも嬉しそうだ。

「私も『米子撃ち』に挑戦してます」

樹里亜が言った。


米子達は室内訓練施設を出るとテレポート駅からゆりかもに乗った。時刻は20:00。米子達は制服姿で拳銃の入ったバックを持っていた。

「今度は遊びに来たいですね」

「だよねー、せっかくお台場来たのに射撃訓練しかしてないもんね」

「私なんか4丁も持ってきたからカバンが重いよ。まあ弾丸は施設のやつを撃ち放題だから助かるけどね」

米子が言った。

「月が出てますよ。満月です」

樹里亜が窓から外を見ながら言った。

「ホントだ。まん丸っすね、なんか食べ物に見えます」

瑠美緯も外を見て言った。

「丸い食べ物か。ねえ! 新橋で『金だこ』のたこ焼き食べて帰ろうよ。お腹減ったよ」

ミントが言った。

「いいねえ、賛成!」

「私も食べたいです」

「いいっすねえ!」

米子達の見た目はどこにでもいるカワイイ女子高生と女子中学生だった。誰も凄腕のアサシンだとは思わないだろう。ゆりかもめは4人の少女アサシンを乗せて夜の東京ベイエリアを軽

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