第11話 Chapter11 「昭和記念公園の対決」

Chapter11 「昭和記念公園の対決」


 『木崎だ、今どこだ?』

『学校を出たとこです。今日は家に帰る予定です。明日は土曜なんで朝から事務所に行きます』

『緊急招集だ、今すぐ事務所に来い』

『わかりました』


ミント、パトリック、樹里亜、瑠美緯がすでに集まっていた。

「米子、緊急指令だ。これから昭和記念公園に行く。アサルトライフルを装備しろ」

「何があったんですか?」

「八重樫の仲間が市ヶ谷の防衛省を襲った。防衛省の幹部3人を射殺してバイクで逃走した。甲州街道で警察の検問を突破し、白バイが追跡したが昭和記念公園に逃げ込んだ。公園は閉鎖して機動隊が囲んでいる。SATを突入させたが大きな被害が出た。待ち伏せ攻撃にあったようだ」

「自衛隊を突入させればいいじゃないですか」

米子が言った。

「相手は1人だ。法律的に自衛隊は出せない。警察もこれ以上犠牲を出したくないようだ。この件はマスコミにも伏せている。犯人は元自衛隊の強襲作戦群にいた川上真也という男だ。川上はレンジャー資格を持っている。J航機墜落事件当時は自衛隊から出向とういう形でうちの組織の戦闘チームに配属になっていた。極めて優秀は兵士だという事だ。今回は64式自動小銃と実包200発を所持している。ゲリラ戦と野戦のプロでイラクに派兵された実績もある。だから機動隊も迂闊に手をだせないんだ。八重樫の事件を知って、川上の中で封印していた何かが動き出したのかもしれない。川上も八重樫と一緒にJ航空機事件で生き残った一般人を抹殺したんだ。川上の存在はいろんな意味で危険すぎる。とにかく川上を排除して存在そのものを消すんだ。元からこの世にいなかった事にするんだ」

「さすがに相手が悪すぎます。私達は暗殺専門です。戦闘チームを出した方がいいんじゃないですか? そもそも川上の目的は何なんですか?」

「戦闘チームは待機している。だがもっと敵の情報が欲しいのだろう。上層部はまずは俺達で小手調べをするつもりだ。川上の目的は分からんが、当時の上層部への復讐か知れん。かなり錯乱してるようだ。とにかく川上を排除するんだ」

「私達は実験台ですか?」

「米子、上から命令だ、やるのか? やらないのか?」

「パトさんにはM240汎用機関銃を装備させて下さい。弾丸はベルト式200発を3つです。他のメンバーはM4A1を装備します。手榴弾もお願いします」

M240は7.62mmNATO弾を発射する汎用機関銃である。重量は12.5Kgと重いが、ベルト給弾式で1分間に800発以上の連射が可能な分隊支援火器だ。2脚のバイポッドを使った臥せ撃ちなら有効射程は800mである。

「米子、やるの?」

ミントが言った。

「俺は海兵隊にいた時、自衛隊の強襲作戦群と合同演習をした事がある。恐ろしく強かった。チームワークも凄いが個々の戦闘能力も高いぞ」

パトリックが説明した。

「相手は1人です。5人で追い込めばなんとかなります」

「米子、ボディーアーマーはどうする?」

木崎が訊いた。

「64式は7.62mmNATO弾です、レベル2のボディーアーマーは役に立ちません。重いだけです。私はバイクで移動します。MP7も持っていきます。たしか群馬の訓練で試し撃ちしたのが1丁倉庫にあるはずです。試作のドラムマガジンを使います」


米子達は装備を整えると木崎の運転するハイエースとKawasaki KLX250オフロードバイクで東京都立川市にある昭和記念公園に移動した。Kawasaki KLX250オフロードバイクは陸上自衛隊の偵察部隊が使用しているバイクの原型である。米子のバイクは艶消しの黒で塗装されている。


昭和記念公園は1983年に開園した国営の公園で、米軍立川基地の跡地に作られ、東京ドーム39個分の広さを持っている。かつては輸送機の滑走路もあり、『朝鮮戦争』の時には米軍の物資輸送の拠点となった。今では森、池、各種広場、展示施設、レストランなどがある都内最大級の公園である。


米子達は昭和記念公園の『水鳥の池』の『ボーハウス』横の広場に設営された警察の前線本部に顔を出した。

「現場指揮官の警視の田沼だ。内閣情報統括室の実働部隊については聞いている。しかしこれが排除メンバーか? 子供達じゃないか! しかも女の子で学校の制服を着ているじゃないか。内閣情報統括室はふざけているのか?」

田沼警視が不満を口にする。広場にある幅20mの階段状の段差に機動隊員達1個小隊が座って米子達を興味深げに見ている。機動隊員達は完全装備だ。

「おっさん、俺が女の子に見えるかい!?」

パトリックがM240汎用機関銃を頭上に掲げて大きな声で言った。

「隊長は誰なんだ!」

田沼警視が叫んだ。

「私が本作戦の責任者の木崎です。戦闘指揮は彼女が執ります」

木崎が米子を指さした。

「彼女って、女子高校生だろ? 大丈夫なのか?」

「大丈夫です。それより最新の情報を教えて下さい」

木崎と米子は警察の作戦本部の置かれているテントに入った。警部の階級章を着けた男が地図を広げて説明を始めた。

「山上はこの地図の『こどもの森』の辺りに潜伏しているようです。木と遊具や小屋が邪魔で狙撃班が狙えません。公園内は施設やレストラン、売店も含め誰もいない状況です。7個ある出口はすべて機動隊で塞いでいますので公園の外に出る事はできません。川上の所持する武器は自衛隊の64式自動小銃です。弾丸は200発ほど所持しています」

「SATはどこでやられたんですか?」

米子が質問した。

「この『みんなのひろば』で待ち伏せをされました。川上がわざと姿を現し、SATを誘い込みました。川上は100mの距離から狙撃で5人を倒した後、突進しながらフルオートで撃ってきました。SAT小隊の死者は12名、負傷者は16名です。川上の射撃は極めて正確で動きに無駄がありませんでした。想定以上に強かったです。服装は迷彩の戦闘服です」

警部が地図を指さしながら言った。

「パトさんには『トンボ湿地』の辺りから『こどもの森』に接近して支援射撃をお願いします。私と瑠美緯ちゃんは左前から。ミントちゃんと樹里亜ちゃんは右後方から接近。攻撃は無線の指示で同時に実施するよ。川上が撃ってきたらパトさんは側面から射撃を開始して下さい。もし接近する前に気付かれたら私達は『かたらいのイチョウ並木』に、ミントちゃん達は『こもれびの丘』まで退却して。パトさんは支援射撃をお願いします」

全員が地図に見入っている。

「わかったよ。米子の立てた作戦なら安心だよ。でも広い公園だねえ、演習場みたいだよ。拳銃よりライフルで撃ち合う距離感だね」

ミントが言った。

「米子は冷静なコマンダー(指揮官)だ。頼もしいぜ」

パトリックも納得した。

「それから今回は野戦だから戦闘服とジャングルブーツに着替えて。弾帯も着けてね。弾丸は1人3マガジン、手榴弾は2発。戦闘服と弾帯は車にあるから着替えて。この前の群馬の訓練で着たやつだよ。作戦は日没の10分前の40分後に開始。各自地図を読み込んでおいてね。各自のコードネームは私が『ネギマ』、ミントちゃんは『つくね』、パトリックさんは『ハツ』 樹里亜ちゃんは『カワ』、瑠美緯ちゃんは『レバ』だって。木崎さんは『ハイボール』」

「相変わらず木崎さんはセンスないねえ。居酒屋のメニューみたいだよ」

ミントが不満を言った。


18:10。

『こちらネギマ、赤外線スコープで対象の存在を確認、こどもの森の『森のとりで』付近。距離50m』

『つくね了解、距離60m、引き続き接近』

『ハツ了解、『太陽のピラミット』の上で待機。距離50m.射撃準備OKだぜ』

各自が配置に着いた。日没を過ぎ、公園は暗くなり始めている。


『攻撃用意、3、2、1、今』

地面に伏せていた米子と瑠美緯が立ち上がって突進した。ミントと樹里亜も米子達と反対側から突進する。

『ダン ダン ダン』 

米子がセミオート射撃をしながら走る。瑠美緯もセミオートで射撃する。森の反対側からもミント達のM4A1の射撃音が聞こえる。

『シュー』

小さな火花が宙を舞った。

「伏せて!」

米子が叫びながら伏せた。瑠美緯も地面に伏せた。

『ドーーーーン』 『ドーーーーン』

米子の前方10mで爆発が2回連続で起きた。米子は瑠美緯を確認した。

『ネギマからハイボールへ、川上はダイナマイトを所持、攻撃を受けるも被害なし』

『ハイボール了解、全員退避しろ』

『ダダダダダ』 『ダダダダダダダダダダダ』

川上が発砲した。弾丸がヒュンヒュンと音を立てて米子と瑠美緯の上を飛んでいく。

『ネギマからハツ、援護射撃よろしく』

『ドドドドドドドド』 『ドドドドドドドド』 『ドドドドドド』

パトリックがM240による援護射撃を開始した。

『こちらハツ、敵が見えない! 『森のとりで』を掃射する』

『ドドドドドドドドドドドド』  『ドドドドドドドド』

『森のとりで』のチューブスライダーがM240の7.62mm弾を受けて砕け散る。銃声が止み、静かになった。米子チームとミントチームはそれぞれ当初予定した場所に退避した。5分ほど静寂が続いた後、バイクのエンジン音が響き、遠くから複数の銃声が聞こえた。

『こちらつくね、川上が『こもれびの丘』に進入。現在応戦中。川上はバイクを運転しながら射撃。米子、川上は強いよ!』

『ハイボールからつくね、『花の丘に』に退避しろ』

『つくね了解、カワと一緒に退避する』

『こちらレバ。バイクの音が近づいてきます。イチョウ並木の近くです』

「瑠美緯ちゃん待ってて、バイクを取ってくるよ、バーベキューガーデンに隠れてて」

米子は全速力で走ってボートハウス前に戻ると停めてあったバイクに跨り、エンジンをスタートさせる。ハンドルに掛けてあったフルフェイスのヘルメットは地面に置いた。木崎がテントから走り出て来た。

「米子、どうした?」

「バイクで戦います」

「大丈夫なのか? 相手は元レンジャーだ!」

「勝ちます! 勝ったらこの前のお店でまた焼肉を奢って下さい」

「わかった、川上を倒すんだ!」

「了解です、行きます!」

米子がアクセルを捻って急発進した。


イチョウ並木の北側の入り口に川上の乗った『Kawasaki Ninja400』が停車した。米子の乗った『Kawasaki KLX250』オフロードバイクはイチョウ並木の南端の『いちょう橋』に停まった。2台の距離は300m。並木道の道幅は6m。お互いに相手のヘッドライトを確認する。川上のバイクが米子に向かって並木道を走り出した。米子もギアを入れてアクセルを捻る。2台のバイクがエンジン音を響かせながらスピードを上げ、グングン近づく。距離80m。

『ダダダダダダダダ』 『ダダダダダダ』

山上が左脇に構えた64式自動小銃をフルオートで射撃する。ヘッドライトが眩しい。川上の撃った7.62mm弾が米子のオフロードバイクの前面にあたって『ガツン、ガツン』と音を立てる。

『ガキッ!』

「痛っ!」

米子のバイクのバックミラーが弾け飛び、米子の顔に当たった。米子はオフロードバイクを傾けて道幅一杯に大きく蛇行する。

『ダダダダダダ』 『ダダダダダダ』

山上は尚も撃ってくるが運転しながら長い64式自動小銃を片手で撃っているので蛇行する米子のオフロードバイクに照準を上手く合わせられない。弾丸が米子のオフロードバイク前方の路面に火花を散らせる。米子はアクセルを捻って急加速した。エンジンが唸りを上げる。左前方からNinja400CCが突っ込んでくる。米子はハンドルから左手を離して首から掛けたMP7のグリップを掴んで左前方に向けた。特別仕様の弾倉が重いのでグリップを強く握り込む。距離20m。

『バババババババババババババババ』 『ババババババババババババババババババババババババババババババババババババ』

1秒間に16発の4.6mm×30mm弾がバイクを運転する川上に吸い込まれ、バイクに当たった弾丸が火花を散らす。通常は30発、もしくは40発の標準ボックス型弾倉を使用するが、米子のMP7は技術部が独自に開発した、82発の装弾が可能なドラム式マガジンを装着していた。2台のバイクが衝突ギリギリですれ違う。川上のバイクが転倒して火花を散らしながら滑るように転がり、ヘッドライトがイチョウの木を次々と暗闇に浮かび上がらせた。山上もバイクから放り出され路面を激しく転がった。米子は左足を地面に着けてオフロードバイクをUターンさせると倒れている川上の横に停めた。

『バババババババババババ』

米子が川上にトドメを刺す。

「米子先輩凄いです~! 私見てました! アクション映画みたいでした!」

瑠美緯が叫びながら駆け寄ってきた。ミントと樹里亜とパトリックも現れた。

「米子、凄いよ、バイクを運転しながら撃つなんて訓練所で習わなかったよね」

ミントが言った。

「コツを掴めば簡単だよ。運転7、射撃3の割合で気を遣うの。でもバイクの運転を徹底的に体に叩き込んでからじゃないと危ないよ」

「沢村さん、バイクの運転教えて下さい! カッコいいです」

樹里亜が目を輝かせて言った。

「樹里亜先輩ズルい! 私が先です!!」

瑠美緯が抗議する。

「米子はソルジャーとしてもコマンダーとしても凄いぜ! ネービーシールズやデルタフォースでも通用するぜ! 本当に女子高生なのかよ? 女にしておくのはもったいないぜ」

「パトちゃん、それはポリコレ違反だよ」

ミントが注意した。

「オー面倒くせえなあ! でも米子には女のままでいて欲しいぜ。めちゃくちゃ美人なビューティフルコマンダーだぜ。美人だから絵になるんだぜ」

「パトちゃん、それはルッキズムだよ」

ミントが重ねて注意した。


「お前達、よくやった! 米子はバイクでの戦闘を皆に教えてやってくれ。だがまだ甘いぞ。自衛隊の偵察レンジャーに行ってバイク戦闘の訓練をしてこい。紹介状は書いてやる」

「はい、今回の相手は強かったです。もし川上が取り回しのいいサブマシンガンを持ってたらこっちが殺られてたかもしれません。MP7は最適な選択でした」

「もし川上が元偵察レンジャーだったら両手離しで立ち上がってしっかり構えて撃ってきたはずだ。自衛隊を舐めるなよ。運が良かったな」

木崎が言った。


「しかし大したもんだな、君の部隊は」

田沼警視が感心している。

「すべては訓練の賜物です。彼女達は厳しい訓練を受けています」

「その訓練をSATや機動隊にも取り入れたいよ。合同訓練をやれないか?」

「それは内閣情報統括室に進言して下さい」

「ああ、真面目に検討したい」

「でも女子高生が教官ですよ」

「うーん、そりゃ困るな。別の意味で統率が取れなくなりそうだ。戦闘指揮官の彼女なんかアイドルみたいな見た目じゃないか、隊員達がメロメロになりそうだ」


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