第10話 Chapter10 「J航空機事件とカラオケ」
Chapter10 「J航空機事件とカラオケ」
立て籠り事件の翌日の日曜日、米子とミントは新宿の事務所にいた。2人とも昨日買った服を着ている。
米子は薄い鴇色(薄いピンク)のタイトなツーピースに白いパンプスにライトブラウンのハンドバックを持っている。ミントはホライゾンブルーのワンピースにグレーのパンプスにネイビーのショルダーポーチを掛けている。
「米子、その服似合ってるね、ファッション雑誌のモデルみたいだよ。米子はスタイルがいいから革ジャンにデニムみたいなワイルドな服装も似合いそうだね。私はどう?」
「うん、ダークブラウンの革ジャンも買ったよ。ミントちゃんも似合ってるよ。凄くカワイイよ。ナンパしたくなっちゃう。服買って良かったよ」
「だよねー、馬子にも衣装って言うけど、女として一番輝く時期だもんね。昨日はいっぱい買っちゃったね。また買いに行こうよ」
「お前達の私服を見るのは初めてだ。こうしてみると、やっぱり女の子なんだな。なかなか可愛いぞ。キラキラ輝いて見える、よかったな」
木崎が口を挟んだ。お世辞ではなく本心から出た言葉だった。
「本当にキュートだぜ。日本のハイスクールガールはお洒落で天使みたいだな。ユニフォーム姿もいいが私服もいいぜ」
パトリックも事務所に来ていた。家にいても暇なので事務所の端末を使って調べものをしていた。組織のデータサーバーは事務所の端末からしか接続できないようアクセス制御をされている。
「そりゃそうだよ。『華のセブンティーン』だよ。本来なら木崎さんみたいなおじさんは私達と喋ることなんかできないんだよ」
「まあそうだろうな。高校教師にでもならなきゃ話す機会はないよな。それかJKお散歩とかJKリフレとかだが、それは素人の女子高生とはいえんな。その点お前達は素人だ」
「でも私達はアサシンです」
米子が少し悲しそうに言った。
「そうだった、その方面ではプロ中のプロだな」
「あまり嬉しくないです」
米子が静かに言った。
「だよねー、拳銃やマシンガンぶっ放して暗殺する女子高生なんて私達だけだよ。お洒落な服着て彼ピとデートしたりするのが正しい女子高生の姿なんだよ」
ミントが抗議するように言った。
「昨日の立て籠もり犯は私達の組織にいたって言ってましたけど、どういう事なんですか? たしか名前は八重樫でしたよね」
米子が質問した。
「八重樫健一は8年前まで俺達の組織にいた。戦闘チームに所属していた。陸上自衛隊の空挺部隊上がりだったんだ。ある事件をきっかに組織を去った。監視はつけていたんだが、8年もたったんで甘くなっていたようだ。昨日は官房長官とマスコミを呼んで8年前の事件の真実を暴露するつもりだったんだろう」
「8年前の事件ってどんな事件ですか?」
米子が訊いた。
「J航空機墜落事件だ」
木崎が答えた。
「えっ、覚えてるよ。小学校低学年だったけど大騒ぎだったよね? ジャンボジェットが長野県の山に墜落したやつでしょ? 500人くらい亡くなったんだよね」
ミントが反応した。
「ああ、その事件だ」
「八重樫とその事件にどんな関係があるんですか?」
「これから話す事は厳秘だ。まあ話したところで誰も信じないだろうがな。あの飛行機が墜落したのは自衛隊の訓練が原因だったんだ」
「エンジンの故障じゃなかったんですか? たしかジェットエンジンのブレードが金属疲労で吹き飛んだって聞いてます」
「ブレードの金属疲労は表向きの発表だ。あの日、自衛隊が新型対空ミサイルの発射実験をしてたんだ。軽トラックの荷台から撃てるくらいの超小型対空ミサイルだ。日本とアメリカの共同開発で完成すれば日本の防空能力が大幅に向上する高性能のミサイルだった。訓練は駿河湾沖60Kmで行われていた。伊豆大島の近くだ。残念な事に実験で使用したミサイルは『J航空234便』に命中した。標的機の無線操縦を誤った事が原因だ。標的機が234便に接近してミサイルが標的機を撃ち抜いた後234便に命中した。234便は右の補助翼と垂直尾翼を損傷して操縦不能に陥った。234便は直ぐには墜落せずに伊豆半島と山梨県上空で旋回したあと長野県の山中に墜落した。墜落したのは夕方17:00頃で、その時点では生存者が多数いたようだ」
「八重樫はどう関係するですか?」
「八重樫は生存者を抹殺するチームにいた。俺達の組織の戦闘チームが招集されたんだ」
「えっ? 生存者を抹殺ってどういう事? 助けに行ったんじゃないの?」
ミントが驚きの声を上げる。
「新型ミサイルの誤射が表沙汰になれば大変な事になる。自衛隊だけの問題に留まらず、責任は防衛省や内閣にも及んだだろう。だから事故の目撃者である生存者の抹殺が必要だったんだ」
「そんなの酷いよ! 国が国民を抹殺するなんておかしいよ!」
「それだけじゃない。いち早く現地入った自衛隊の捜索隊に銃撃を行った。自衛隊員が10名以上が死亡した」
「それが本当なら酷い話だよ。J航機墜落にはいろんな都市伝説や噂があるけどこの話は初めて聞いたよ」
「でも八重樫は何で今ごろ告発しようと思ったですか?」
米子が訊いた。
「それは分からない。だがあの作戦に参加したメンバーの多くがPTSDを発症した。国の監視も付いていた。不審な動きをする者は暗殺された。八重樫も心を病み、良心呵責に苛まれていたのかもしれないな。何しろ女子供をまとめて火炎放射器で焼いたんだからな」
「酷い話だけど、この仕事やってると国家の裏側が見えるんだよね」
ミントがため息をつきながら言った。
「この国に限らず、国家という巨大な組織を保つためには、綺麗事だけではやっていけない。だから俺達みたいな存在が必要とされている」
「米子、モヤモヤした気分を吹きとばしたいかカラオケ行こうよ」
「カラオケ?」
「そうだよ。気分が悪くなったから歌でも歌ってパーっと気晴らししたいよ」
「うーん、でも流行りの歌とか知らないんだよね。カラオケ行った事ないし」
「オー、ミント、ナイスアイデアだぜ。カラオケは日本が生んだ素晴らしい文化だぜ。アニメやゲーム、アイドル文化、日本のサブカルチャーは素晴らしいぜ」
「パトちゃん意外とミーハーなんだね、木崎さんもどう?」
ミントが木崎に声を掛けた。
「俺はいい。お前らと必要以上に仲良くなりたくないんだ」
「駒とは仲良く出来ないって事ですか?」
米子が言った。
「指揮官として余計な感情が任務の妨げになる事がある。お前らはチームワークのためにも仲良くやってくれ」
米子達は歌舞伎町のカラオケボックスに入った。ミントは『坂道アイドル』や『モーニーングギャル』の歌を楽しそうに歌い、パトリックはボンジョビの『It's My Life』やブルース・スプリングスティーンの『ボーン・イン・USA』等のいかにもアメリカンな曲を歌った。米子は松田聖子メドレーや安室奈美恵を覚束ない感じで歌った。
「米子は懐メロが好きなの?」
「好きっていうか、お母さんが時々歌ってたんだよね。あと養護施設に古いCDしかなかったし」
「そうなんだ、ちょっとトイレ行ってくるね」
「俺もトイレだ」
「さっき行ったばっかりじゃん、パトちゃんはビール飲みすぎなんだよ」
「日本の生ビールは兎に角美味いんだ、バドワイザーもいいけど、日本のビールは格別だぜ」
ミントはトイレから戻る途中にすれ違った2人組に声を掛けられた。男達は20代くらいのチンピラ風で酔っぱらっていた。
「おー、カワイイ娘発見、俺達と一緒に歌おうぜ」
「お断りします。友達が待ってるんで」
ミントが断った。男1人がミントの腕を掴んで強引に引っ張った。
「いいじゃねーかよ、こっちは男ばっかりなんだ。歌うだけでいいからよー」
男2人の力には敵わず、ミントは男達の部屋に引っ張りこまれた。部屋は米子達の部屋から3部屋離れていた。男達は全員で5人、ミントを見ると歓声を上げた。
「おー、高校生か!? いいじゃねえか」
「あのさー、あんた達痛い目みるよ」
ミントが言った。
「はぁ? 何言ってんだ、痛い目見るのはそっちの方だ。俺達は新宿で最強のチームなんだよ!」
一人の男がミントの腕を掴むとミントをソファーに投げつけようとした。ミントは掴まれた手の手首を回して男の手首を握り、腰を落として間接をきめた。
「イテー、何すんだ!」
もう一人の腕がミントの首に巻き付いた。
「舐めた真似してくれるじゃねえか。脱がしちまおうぜ」
男達3人が、ミントに組み付いて服を引っ張る。ドアが勢いよく開いた。男達が入り口に視線を移す。大男が立っていた。
「なんだお前、でっ、でけえな」
「俺のファミリーに手を出すな!」
パトリックが怒りの声を上げた。
「ふざけんな、てめえに関係ねえだろ! 俺達にはヤクザがついてるんだよ」
【残酷鬼畜シナリオ】
*残酷な内容になりますので苦手が方は【通常シナリオ】まで読み飛ばして下さい。
パトリックが一番近くにいた男を突き飛ばした。男は壁に吹っ飛んだ。
別の男がポケットからナイフを抜いて構えた。パトリックはフットワークを使って男達を左右のストレートで次々に倒した。男達は床に転がって動きを止めた。
「パトちゃん、どうするの? 一人死んじゃってるよ。首が折れてる」
ミントが不安そうに言った。
パトリックは4人を正座させた。4人とも恐怖に震えている。
「どうすんだよ、お前ら人殺しだぞ!」
「俺達のバックには山吹会がついてるんだぞ!」
「ケジメつけさせてもらうからな」
男達が喚き散らすが抵抗する気は無いようだ。すっかりパトリックに怯えている。ミントがスマートフォンで米子を呼んだ。米子はすぐに現れ、ミントが事情を説明した。
「米子どうする? 山吹会がバックにいるんだってさ」
「1人殺っちゃったんだからみんな殺して掃除屋さんを呼ぼうか。生かして返すとやっかいそうだよ」
「そうだね、仕方ないね。でも木崎さんに怒られるね」
「ちょとやりすぎちまったな」
パトリックが頭を搔きながら言った。
米子がリモコンを手に取ってカラオケのボリュームを一杯に上げた。ラップミュージュークの伴奏が部屋に響いた。米子はハンドバックから小型拳銃のルガーLCPを取り出してスライド引くと左端の男の頭に向けた。ルガーLCPは掌に隠れる程の小型ポケットピストルで380ACP弾を使用する。
「おい、何だよそれ? おもちゃだろ?」
『パン!』
銃声が鳴ったが大音量のラップミュージックにかき消された。眉間を撃たれた男が正座の姿勢から横に崩れた。
「えっ、本物かよ!?」
『パン! パン! パン!』
米子は素早く連射した。弾は3人の眉間に命中した。
「さすが米子だね。完璧な射撃だよ」
「ミントちゃん、脈を確認して」
米子はハンドバックからコールドスチールの折り畳みナイフを取り出した。
扉が開いてカラオケボックスの店員が飲み物の載ったトレイを持って入って来た。
米子が店員のこめかみに左フックを打ち込んだ。店員は膝から崩れてトレイに載った5人分の飲み物が床に落ち、グラス同士がぶつかって割れた。
「米子、この人どうする?」
ミントが素早くドアを閉めて言った。
「放置しよう。一瞬だったから見られてないよ。それともミントちゃんもこの銃試してみる? ポケットオートを実際に人体に撃ついいチャンスだよ」
「だよねー、ルガーLCPは撃った事無いんだよ」
「オウ、俺にも撃たせてくれ!」
米子達は1分間隔でバラバラにカラオケボックスを後にした。
【通常シナリオ】
パトリックが近くにいた男を突き飛ばした。男は壁に吹っ飛んだ。
別の男がポケットからナイフを抜いて構えた。パトリックはフットワークを使って左右のストレートで男達を次々に倒した。男達は床に転がって動きを止めた。
「パトちゃん、やりすぎじゃないの?」
「手を抜いたから大丈夫だ」
パトリックは5人を正座させた。5人とも恐怖に震えている。
「すみませんでした」
「許して下さい」
「ミント、どうする? もう一発ずつ殴っとくか?」
「パトちゃん、もういいよ。でもありがとうね」
「ミントと米子は俺にとって家族みたいなもんだぜ。可愛い妹だ」
「私もパトちゃんみたいなお兄さんが欲しかったんだよねー」
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