第13話 Chapter13 「会長護衛任務」
Chapter13 「会長護衛任務」
「米子、ミント、この前はご苦労だった。新しいミッションだ」
「あの、八重樫の件も川上の件もJ航空機絡みでしたよね。もう大丈夫なんですか? 八重樫と川上は仲間だったんですよね?」
米子が訊いた。
「大丈夫だ。8年も前の事件だ。今回はたまたま連鎖したに過ぎない。八重樫と川上は生き残った乗客を抹殺した作戦で同じチームにいた。うちの組織の戦闘チームだ。事件後は2人とも組織を去って別々に生きていた。2人には監視がついていた。八重樫は何かの弾みで立てこもり事件を起こした。J航空機墜落事件における一般人抹殺の事実を告発しようと思ったようだ。理由は不明だ。川上は八重樫の行動に何らかの刺激と影響を受けたのだろう。うちの組織に出向させた防衛省を逆恨みしてたのかもしれん。八重樫にとっても川上にとってもあの事件は辛いものだったのだろうな。この8年間で心が壊れたのだろう」
「当時、乗客を抹殺したチームは何人だったんですか? さらに連鎖する可能性があるんwじゃないんですか?」
米子が訊いた。
「大丈夫だ。他のメンバーにも監視がついている。だが、その監視は必要なくなるだろう」
「消されるって事ですね」
「詳しい事は知らん」
「そもそも何で私達に依頼が来たんですか? 筋が違うように思います」
米子が食い下がる。
「八重樫の件はお前とミンントがたまたま渋谷にいたからだ。もし違う場所にいたらその時点でお前達の出番は無かった。川上の件はその八重樫の件の延長だ」
「木崎さんとJ航空機墜落事件にはどんな関係があるんですか? 木崎さんは8年前何をやってたんですか?」
米子が厳しい口調で畳みかけるように言った。ミントが心配そうに米子を見た。
「なんの話だ!? 俺はまったく関係ない! 今回初めて関わったんだ!」
木崎が声を荒げた。ミントが驚いた顔をする。
「わかりました、もう訊きませ。新しいミッションの話を聞かせて下さい」
「米子、お前は勘が良すぎて俺は怖い・・・・・・」
木崎は席を立った。
木崎は30分後に戻って来た。自席で煙草に火を着けると米子とミントを呼んだ。
「新しいミッションだ。お前達2人で三輝会の会長を護衛しろ」
「えっ、暴力団の会長を護衛するんですか? なんかおかしいです。それにボディーガードとか付いてるんじゃないんですか? それと煙草、やっぱり臭いです。吸うのは仕方ないですが、ミーティングの時は控えて下さい」
米子が言った。
「ボディーガードは面が割れてる。お前らが世話係の振りをして護衛するんだ。土日だけでかまわない」
木崎は大きなクリスタルの灰皿で煙草を消しながら言った。
「三輝会の会長ってどんな人物なんですか?」
「権藤正造、82歳だ。今は大阪を離れて東京の港区に住んでいる。三輝会の第3代の組長だった。5年前に木船に組長の座を譲って会長になった。二和会が権藤を狙う可能性があるから外出時に護衛をして欲しいんだ。警察庁からの依頼だ。権藤正造は三輝会躍進の象徴的人物だ。全国制覇も成し遂げたカリスマだ。今でも裏社会に睨みが効く。殺されれば完全に二和会の天下だ」
「暴力団で、しかも老人ですよね。何か気が進みません」
「だよねー、話も合わないだろうし、ヤクザの親玉なんて怖そうじゃん。コンプラ的にも問題だよ」
ミントが言った。
「権藤正造はもう年だ。警視庁第四課の情報だとすっかり丸くなって好々爺だそうだ。お前達と同じくらいの歳の孫もいる。それに俺達の組織にコンプラは無い。非合法の塊だ」
「わかりました、やります」
「米子、やるの?」
「うん、二和会の山崎組長の情報や内情も聞けるかもしれないよ」
米子とミントは権藤の護衛でアルフォードに乗っていた。運転主は神尾、助手席の男はボディーガードの三上だ。権藤は2列目のシートの真ん中に座り、左右の席に米子とミントが座っている。権藤は古くからの知り合い告別式に出る予定だった。
「あんた達、悪いなあ。こんな老いぼれの護衛なんて楽しくないやろ」
権藤が言った。
「仕事ですからしっかりやります」
米子が言った。
「しかしあんた達強いんか? 政府の関係やって聞いとるが、どうみても子供やで」
「私達は戦闘訓練を受けています。拳銃の射撃は得意です。人を撃った事もあります」
「あんた達何歳や?」
「2人とも17歳の高校2年生です。申し遅れましたが私の名前は米子です。もう一人はミントです」
「おう、若いな。わしの一番下の孫娘と同じくらいや。三上、車を停めてこの娘達にお菓子でも買うてこい」
「いや、それは・・・」
三上が返答に詰まった。
「気を使わないで下さい。私達は護衛です。予定外の行動をされると困ります」
米子がきっぱりと言った。
「うーん、そうか。じゃあ後で小遣いをあげよう」
「それも結構です。あくまでも任務です」
「米子さんは若いのにしっかりしとるなあ」
「会長、もうじき着きます。準備をお願いします」
三上が言った。車は斎場の駐車場に停まった。米子とミントは権藤をエスコートして斎場に入った。告別式の会場には権藤と一緒に三上が入った。米子とミントは会場の入り口近くの椅子に座って待つことにした。待つ間も周囲に目を光らせた。
「こんな所にヒットマンが来るのかな? 人目が多いし、私ならこんな場所でやらないよ」
ミントが言った。
「どうだろうね。さっきから刑事らしい男が2人うろついてるね」
「耳にイヤホン入れて、キョロキョロしてバレバレだよね。刑事って動きですぐわかるよ」
アルフォードは日比谷通りを走っていた。
「いやあ、昔の仲間がどんどん鬼籍に入っていくのは寂しいなあ。藤田だって若い頃は世間から恐れられた武闘派の極道やったや。癌じゃどうしようも無いわなあ。あいつと新地で飲み歩いた頃が懐かしいわ。わしもそろそろやな。そやけど二和のやつらを潰さん事には死んでも成仏できんわ」
「会長にはまだまだ元気でいてもらわないと困ります。二和会は必ず潰します」
三上が言った。
「二和会の山崎ってどんなヤクザだったんですか?」
ミントが訊いた。
「そやなあ、まあバリバリの武闘派やな。切ったはったでのし上がってきた男や。度胸はあるし人望もあったが、計算ができん男や。その点木船は頭が良かった。現代のヤクザのトップには木船みたいな男が必要や。だからわしが木船を組長にしたんや」
「木船組長はヒットマンにやられたんですよね?」
米子が言った。
「そうや。あいつも脇が甘かったな。護衛も付けずに1人で銀座に飲みに行ったんや。まあ、本部を東京に移したから油断しとったんやろ。しかし木船を撃ったヒットマンはわからずじまいや」
「最近本部は大阪に戻したんですよね?」
「そうや。木船の次の赤城が戻したんや。本来うちの組は大阪出身や。先代が戦後の高度成長期に建設現場の人足貸しで組を大きくしたんや。抗争もいっぱいあったわ。わしも若い頃は日本刀持って走り回ったわ。54歳の時に先代に認められて組長になったんや」
「権藤さん強かったんですねー」
ミントが言った。
「そやで。無茶苦茶やったで。1人で敵対する組の事務所にカチ込みした事もあったわ。運も良かったんやろな。わしの代で色んな事業に手を広げて全国制覇したんや。わしは四国の貧しい漁師の子やったんや。それが三輝会の組長や。まあいろいろあったわ」
「凄―い! カッコいいですね~」
「ミントさん、あんたいい娘やな。米子さんはしっかりしとるし、こりゃいい護衛やわ」
「米子の戦闘力は凄いですよ。悪いけど暴力団でも勝てないです」
「ほう、米子さんはそんなに強いんか。べっぴんさんやのに意外やなあ。おい三上、米子さんと勝負したらどうや?」
「三上さん、25m先の的の真ん中に連射で500マグナム弾を当てられますか? 米子はアメリカの元海兵隊の大男にも勝ったし、ヤクザを3人をあっという間に半殺しにしたんですよ」
「ミントちゃんやめてよ」
米子が抗議した。
「ははは、凄いですね。私は空手とキックボクシングをやってます。でも強さは潜り抜けた修羅場の数で決まります。是非お手合わせ願いたいもんだ」
三上が馬鹿にするように言った。
「今日は銀座のクラブに行くんやが、米子さんもミントさんも店に入って欲しいんや。いいかな?」
「護衛のためです。問題ありません」
「護衛もいいけど、今日は社会勉強や」
権藤が愉快そうに言った。
米子とミントは権藤に連れられて銀座の高級クラブに入った。
「凄いね、ドラマみたいだよ」
ミントがキョロキョロしながら言った。
「お店も華やかだし、ホステスさんも綺麗だね」
米子も嬉しそうだ。席に3人のホステスが付いた。権藤は水割りを、米子とミントはウーロン茶を飲んだ。
「ママの京子です。権藤さんのお客さんっていうから年配の男性かと思ったらこんな若い娘なんてびっくりです。しかも制服姿なんて」
「わしの護衛や、17歳なんや。女子高生やで」
権藤が得意そうに言った。
「へえ、今の時代はこんな若い娘がボディーガードやるんですね。私の娘みたいな年頃ですよ。高校生なんだ~、JKってやつですね」
京子ママが笑いながら言った。
権藤とホステス達がたわいも無い話で盛り上がった。米子とミントは大人の世界の雰囲気を味わった。
「この店は芸能人も良く来るんや。米子ちゃんとミントちゃんも別嬪やから大人になったらこも店で働かせてもらえばええ」
「あら、こんな美人だったらすぐにナンバーワンになれますよ」
京子ママが言った。
「そやろ、米子ちゃんは美人やし、ミントちゃんはカワイイし、わしの護衛なんかやらせとくの勿体ないわ、あはは。そや、フルーツの盛り合わせ頼むわ。シャインマスカット入りのやつやで。この2人に食べさせたいんや」
権藤が上機嫌になってきた。
テーブルにフルーツの盛り合わせが届いた。メロン、マンゴー、オレンジ、シャインマスカット、キウイが盛り付けられている。
「美味しいよ~。権藤さんの事ゴンちゃんって呼んでいい?」
ミントが言った。
「おお、いいで~、最近、孫が相手にしてくれへんのや、嬉しいわ~」
権藤は相好を崩した。
「シャインマスカット初めて食べました。凄く甘いですね」
米子が笑顔で言った。
「そうか、今度は美味しいもの食べに行こか、何が食べたいんや? 何でもいいで」
「美味しいお肉がいいです」
米子が言った。
「そうか、ほなすき焼き行こか~、いい店知っとんねん。デザートも美味いんや」
「わー、ゴンちゃん素敵~」
ミントが甘えるような声を出した。
車は日比谷通りを走っていた。
「いやー楽しかったわ。ほんまにいい護衛やな。警視総監にお礼言っとかなあかんな。これからも頼むわ」
「ゴンちゃん、すき焼き楽しみだよ~」
ミントが言った。
「後ろ車がずっと付けて来てます。車線変更を3回しました」
神尾が小声で言った。
「会長、念のため姿勢を低くして下さい」
三上が申し訳なさそうに言った。
「権藤さん、これを着て下さい」
米子が3列目のシートに置いたボディーアーマーを取って権藤に着せた。
「何事や?」
「大丈夫です。会長の事は私が守ります」
三上が言った。
『キイーーーーーー』
神尾が急ブレーキを踏んだ。御成門の交差点で信号を無視した左折のバンが道を塞ぐようにして停まった。後ろを走っていた尾行のクラウンも道を塞ぐようにアルファードの後ろに停まった。
「挟まれました!」
神尾が叫んだ。
「車から出るな!」
三上が叫びながらスーツの内側からブローニングハイパワーを抜いた。ワゴンから3人、クラウンから2人の男達が走り出してきた。前方の3人が拳銃を、後方の2人が日本刀を手に持っている。
「神尾さん、ドアを開けて、早く!!」
米子が叫んだ。神尾はスイッチを押して左右のスライドドアを開けた。
「パン」「パン」「パン」「パン」 「パン」「パン」「パン」 「パン」「パン」
男達が5人、車を取り囲むようにゆっくり歩きながら発砲する。フロントガラスが砕け、フロントグリルに激しく弾が当たる。スライドドアが半分ほど開くと米子とミントが転がるように車外に出た。
『バン バン バン ガシッ』
米子がアスファルトに片膝を着いて前方の男達にSIG‐P229を撃った。薬きょうが上手く排莢されずにチェンバーの中で潰れた。前方の男が3人が頭を吹き飛ばされて倒れた。
『パン パン パン パン』
ミントもベレッタ92を後方に発砲する。日本刀を振り上げた男2人が胸に被弾してその場に崩れ落ちる。後続車が5台停まり、運転手が何人か様子を見に降りて来たが日本刀を握って血塗れで倒れている男を見ると慌てて車に戻った。歩道から2人の男が飛び出してアルファードのすぐ横に立って拳銃を構えた。米子は男に突進した。銃がジャムって使えないのだ。男が驚いて米子に銃を向ける。
「パン パン」
男の撃った弾丸が米子の右肩の上を掠った。米子は男に組み付くようにして男の鼻に頭突きを喰らわせた。男は鼻の骨が潰れ、全身の力が抜けた。もう一人の男が米子に銃を向ける。米子は頭突きした男の胸倉を左手で掴んで持ち上げて盾にした。
『パン』 『パン』
『ブッ』 『ブスッ』
弾丸が米子に持ち上げられた男の背中に命中して食い込んだ。
『パン パン パン』
銃を撃った男の頭が弾けた。ミントの撃った9mmホローポイント弾が命中したのだ。
「ミントちゃん、芝公園に撤収! すぐそこが愛宕警察署なんだよ!」
米子が言った。米子とミントは御成門の交差点を走って横断すると芝公園に入った。
「会長、大丈夫ですか?」
三上が言った。
「大丈夫や、全部見とったわ。あの娘達凄かったな、ホンマもんやったわ」
「はい、凄いなんてもんじゃありません、ギャング映画みたいでした。ありゃ勝てません」
「おかげで助かったわ」
パトカーのサイレンが鳴り響いた。愛宕警察署からも警官が大勢走ってきた。
「お前達、よくやった。権藤は無傷のようだ。しかし凄いな、相手はヤクザ7人だ」
木崎が労った。
「よかったです。護衛任務はまだ続くんですか?」
米子が訊いた。
「護衛はもういい。権藤は大阪に帰るようだ」
「あーあ、すき焼き残念だよ」
ミントが悔しそうに言った。
「権藤はお前達に感謝してるらしいぞ。新しい孫が出来たって大喜びらしい。大阪に来ることがあったら連絡してくれって言ってるそうだ。神戸牛を食べさせたいらしい」
「米子、大阪行にこうよ、神戸牛だよ」
「急がなくても来月に行くよ。作戦が完成したんだよ」
「へえー、いよいよだね」
「米子、要望の物は全部準備した。具体的な決行日を決めてくれ。作戦の詳細も教えろ。パトリックや樹里亜と瑠美緯と綿密な打ち合わせをするんだ」
「わかりました。現地での偵察も含めて作戦期間は1週間です。ちょうど学校も春休みです」
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