第8話 Chapter8 「米子のファッションアドベンチャー」
Chapter8 「米子のファッションアドベンチャー」
米子とミントは新宿の事務所にいた。米子は学校の出席日を減らさないために平日の昼間は学校に行き、放課後に事務書に寄るようにしている。
「米子、商品券ありがとうね!」
「私じゃないよ。鴨志田課長からのプレゼントだよ」
「でも米子の活躍に対するボーナスだよね」
「チームワークでの勝利だよ。鴨志田課長は洋服を買うようにってくれたんだけど、50万円分も服買えないよ」
「だよねー、私は土日でも制服だし、私服はあまり持ってないんだよね」
「私もほとんど制服だよ。私服はネット通販で買ったデニムとチノパンにトレーナーやTシャツくらいしか持ってないよ」
「だよねー、高校に入るまでは施設だったから寄付された古着がメインで自分で服を買った事なんか無いもんね。親もいないから他人に買ってもらった事も無いよ」
「私もだよ」
米子は9歳から14歳の施設にいる間、政府やボランティア団体から寄付された古着を着ていた。施設では2カ月に一度、子供達に古着を配っていたが、新しい服やお洒落な服は奪い合いになった。米子は奪い合いには参加せず、いつも余った服を着ていた。米子は成長する毎に美しくなっていった。小学校高学年の頃は誰もが認める美少女になったが、服装は貧乏臭くてダサく、そのアンバランスさが見る者の心を悲しくした。
「いっその事金券ショップで換金しちゃおうか? そうしたら色んな物が買えるよ」
米子が提案した。
「うーん、でもそれは悪い気がするよ。鴨志田課長の気持ちだからね」
「でも私、お洒落な服ってどこで買ったらいいか分からないよ」
「商品券だからデパートとかじゃないの? 折角だから見に行こうよ。50万円あれば気に入った服が何着も買えるよ。アウターでしょ、スカートやパンツに靴も買えるよね」
「でもあんまり高いの買うと勿体なくて着れないからそこそこの値段のやつを沢山買いたいな」
「だよねー、どんな服やブランドが流行ってるかよく分からないから雑誌やネットで調べてみるよ。学校にもお洒落な娘がいるから相談してみるよ」
「うん、お洒落な服なんて買った事ないから緊張するけど楽しみだね」
「だよねー、でも私達もJKらしいお洒落をしたいよね。じゃあ週末は渋谷に買い物に行こうよ。美味しい物も食べたいね」
米子は放課後、学校の廊下に立っていた。出席日数はギリギリだが補習授業を受けたのと補習テストで合格点を取り、全国模擬試験でも高得点を取ったのでなんとか留年は免れている。補習テストは全て95点以上、全国摸試は偏差値74で教師達を驚かせた。進路指導の教師は米子に難関大学の受験を勧めた。大学を受験するなら出席日数についても多めに見ると言われた。教師達は高校2年生の米子が本気で受験勉強をすれば東大も狙える考えたのだ。桜山学園は偏差値65で、大学進学率は高いが現役での東大合格者は今までにいなかった。米子はIQが高く、瞬間記憶の能力が優れているため、一度教科書や参考書を読めば記憶に残り、テスト時は応用問題も簡単に解けてしまう。北海道に行っていた2カ月間、受験用の参考書を買い込んで勉強をした成果だった。
「浜崎さん、相談があるんだけど」
米子は教室から出て来た浜崎里香に話かけた。浜崎里香は3人のグループメンバーと一緒だった。米子が多摩川近くの倉庫で3人の半グレを殺した時に現場にいたメンバーだ。
「沢村さん何!?」
浜崎里香は電気に撃たれたようにビクッと飛び上がった。その顔は蒼白だ。
[屋上に行こうよ、聞くだけでも話聞いてよ]
「もう私達関わらないでって言ったでしょ。あの事は黙っててあげるから、もう関わらないで」
浜崎里香は泣き出しそうな顔になった。
「関わってきたのはそっちだよね? おかげで『3人も殺す』ハメになったよ。まあよくある事だから気にしてないけど、なんか都合よすぎるんじゃないの? 黙っててあげるだって? 永遠に喋れないようにしてあげようか?」
「話聞くから怖い事言わないで! 沢村さんが言うと洒落にならないんだよ」
浜崎里香は震えていた。米子と浜崎里香達は校舎の屋上に出た。
「沢村さん、相談って何なの? 私達で出来る事なの? 危ないのはイヤだよ」
浜崎里香が恐る恐る訊いた。
「あのさ、服を買いたいんだけどお勧めを教えて欲しいんだよね」
「服? えっ? 服?」
浜崎里香が拍子抜けしたように言った。
「そう、親戚のおじさんが競馬で大儲けしたらしくて、「服でも買いな」ってお小遣いをくれたんだよ。でも私、あんまり服とか興味なくてさ、よく知らないから」
「わかった、『きらり』がファッションに詳しいよ。きらり、沢村さんの相談にのってあげて」
「いいよ、どんなスタイルにしたいの? 予算は?」
岸本きらりはクラスで一番お洒落で、ファッションリーダー的な存在だった。バイト代の全てを服につぎ込み、将来はスタイリストかアパレル関係に就職したいと思っている。
「予算は50万円、女の子っぽいワンピースとラフでカジュアルな服がいいな。あんまりロリロリなのはいやだよ」
「50万? それならいっぱいコーデできるよ。明日までに沢村さんに合いそうな服をネットで探しておくよ」
「ありがとう、楽しみだよ」
翌日、米子は岸本きらりと学校の近くの千歳烏山南公園のベンチに座っていた。浜崎里香も一緒だ。『岸本きらり』がチョイスした服のコーディネートが何種類かタブレットPCに表示されている。
「どう、沢村さんのスタイルや顔に合うように選んだんだよ。沢村さんスタイルいいし、顔も美形だから想像しながら選ぶの楽しかったよ。スタイリストになった気分だったよ」
岸本きらり自信満々の笑顔で言った。カワイイ系からボーイッシュなカジュアルまで10種類以上のコーディネートだった。
「凄い! 組み合わせがバッチリりだね。色もいいよ」
米子は喜びの声を上げた。
「プリントアウトしてきたからあげるよ。お店の一覧もあるから参考にしてね」
岸本きらりがA4用紙の束を鞄から取り出した。
「岸本さんになんかお礼しなきゃいけないね」
米子が笑顔で言った。
「お礼なんかいいよ。これからも沢村さんに服選んであげるよ。化粧もしてあげる。私、スタイリストになるのが夢なんだよね。芸能人の服を選んでメイクとかしたいんだよ。沢村さんならいい練習になるよ。ただでさえ男子に大人気なんだから、私のコーデとメイクで街を歩けばみんなが振り返るよ。その様子を見たいんだよ。お礼は美香にしてあげて」
「浜崎さん、誰かやっつけて欲しい人いる? お礼にやっつけてあげるよ」
「いや、いいよ。それマジで洒落にならないから。それより私に格闘技教えてよ。前も話したけど、私、総合格闘技習ってるんだよ。沢村さんに打撃系を教えて欲しいんだよね。あのボディーブロー凄かったもん。私が通ってる道場ならいつでも使えるから」
「いいよ。でも、私のは軍隊格闘に近いから一般的な格闘技とはちょっと違うけどね」
「どこで習ったの?」
「それは知らない方がいいよ。人殺しを育てる秘密の組織だよ」
「もうやめてよ! 本気にしちゃうじゃない。冗談だよね?」
「どうだろう?」
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