第5話 Chapter5 「群馬 訓練 フォーメーション」

Chapter5 「群馬 訓練 フォーメーション」


 「今日はフォーメションの訓練を行う。今回の任務は多人数相手の銃撃戦が予想される。場所は主に市街地か室内だ。相手が多いから拳銃ではなく、チームで連携してアサルトライフルで一気にケリをつける。暗殺と違って戦闘ではフォーメーションが重要だ」

朝のミーティングで木崎が説明した。

米子達は施設内の市街戦訓練場に移動した。用途に応じた訓練用の建物が複数建っている。

「訓練では模擬戦闘訓練も実施する。訓練所の教官達が参加してくれる事になっている。お前達は模擬戦闘で教官チームと戦う。弾の弾頭は演習用のペイント弾だが装薬は実砲と同じだ。まずはフォーメーションの訓練だ。インカムで話すときは相手をコードネームで呼べ。敬称はいらない。各自のコードネームは米子が『ナスビ』、ミントが『ゴボウ』、樹里亜が『キュウリ』、瑠美緯が『ラッキョ』、パトリックは『ネギ』だ。ちなみに俺は『イーグル』だ」

「なにそれ、ダサイよ。『リンゴ』とか『イチゴ』とか『メロン』みたいにカワイイのにして欲しいよ。それに自分だけカッコイイのはズルいよ」

ミントが抗議した。

「コードネームは作戦直前で決める事もあるから一回で確実に覚えてすぐに使えるようにするんだ。初めてのチームに参加する時は名前を覚えるより覚え易くて呼び易いぞ。今後は毎回変えるからな。ナスビ、わかったか?」

「はい」

「ゴボウは?」

「わかりました」

「キュウリは?」

「了解です」

「ラッキョ」

「了解です」

「ネギ」

「オッケーだぜ」


 『こちらイーグル、ナスビとラッキョは小屋の左窓から突入。ゴボウとキュウリはナスビの指示で正面のドアから突入。敵を殲滅せよ。ネギは現在位置で待機援護。返事はいらない』

木崎がインカムでミッションの指示を出した。

プレハブ小屋は内部が3部屋の平屋作りで突入訓練用だ。米子と瑠美緯は小屋手前30mから匍匐前進で接近すると立ち上がってM4A1の銃床で窓を割り、スタングレーネードを投げ込んだ。

『バーーーン』

スタングレーネードが大きな音が響く。米子と瑠美緯が窓枠に足を掛けて一番奥の部屋に飛び込む。

『バババババババ』 『ババババババババ』

米子と瑠美緯がM4A1のフルオート射撃で奥の部屋のダミー人形を撃った。

『左奥クリア。ゴボウ、キュウリ、突入! 同士撃ちに気を付けて。ネギは周囲警戒』

米子の指示が飛ぶ。ミントと樹里亜が正面のドアノブを引いて手前の部屋に飛び込んでダミー人形にセミオートで銃弾を打ち込む。

『こちらゴボウ、手前の部屋クリア』

『ナスビ了解、合流せよ』

小屋の後方から敵役の教官が2人現れて左窓から侵入しようとする。

『ダーン ダーン ダーン ダーン ダーーーーン』

パトリックが待機位置からセミオート射撃で教官2人を撃った。ペイント弾は見事に命中した。

『こちらネギ、小屋に接近中の敵を2名射殺したぜ。他に敵影なし』


 「よくやった、タイムは良好だ。弾も当たっていた。お前達スジがいいぞ」

木崎が感心したように言う。

その後は建物と条件を変えた突入訓練を3回行い、教官達との模擬戦闘も3回行った。模擬戦闘の1回目は教官4人を相手にして瑠美緯とパトリックが被弾した。2回目と3回目は教官6人が相手で米子達全員が激しく被弾した。

2日目の訓練が終わり、夜は屋根のある駐車場でバーベキューをした。

「どうだお前達! 教官達は強かっただろ」

木崎が言った。

「悔しいですけど動きが全然違いました。フォーメーションもレベルが高かったです」

米子が悔しそうに言った。

「演習弾でも痛かったよ。訓練所では暗殺訓練がメインだから銃撃戦は殆ど無かったし、あっても近距離で拳銃だけだったから今回はいい訓練になったよ。フォーメーションは大事だね」

ミントが言った。

「実戦的な訓練で楽しかったです。もっとやりたいです」

瑠美緯が楽しそうに言った。

「凄かったです。暗殺と戦闘はまったく違うんですね」

樹里亜が言った。

「日本の諜報機関も大したもんだな。実戦的な訓練だったぜ。野戦とは違った難しさがあるな」

パトリオットが興味深そうに言った。

「お前達、サバイバルゲームじゃないんだ! 撃たれたら死ぬんだぞ。自分のミスで仲間が死ぬんだ。明日も模擬戦闘を行う。拳銃戦がメインだ。今夜は仲間同士の親交を深めてくれ」

木崎が言った。


 「難しかったね、気が付くと撃たれてたよ」

ミントが肉を頬張りながら言った。

「教官は一瞬姿を見せて撃つとすぐに隠れたね。慌てて反撃すると別の場所から違う教官が撃ってくる。私達子供扱いだったね」

米子は悔しそうだ。

「だよねー、動きが全然違ったよ。こっちの動きを読んでたよね。さすがにプロだね。まあ私達は実際子供だからね。パトちゃんは違うか」

「海兵隊は上陸作戦や強襲がメインだ。市街戦や室内戦は警察のスワットが得意な分野だな。アメリカに帰ったらスワットで訓練を受けてみるか」

パトリックがバーボンを瓶から飲みながら言った。」

「明日は拳銃がメインだから私達にも分があるよ。ミントちゃん、良かったらこの後例の撃ち方教えてあげるよ」

「いいの? 『米子撃ち』だよね、やろうよ。私から木崎さんにお願いしてみるよ」

ミントが嬉しそうに言った。

「米子撃ちってなんですか?」

樹里亜がピーマンを口に入れながら言った。米子は米子撃ちを簡単に説明した。

「それいいですね、沢村先輩、私にもお願いします」

瑠美緯が元気よく言った。

「オウッ、それは凄いな、俺にも教えてくれ!アメリカに持って帰るぜ」

パトリックも乗り気だ。

「パトちゃんはお酒飲んでるからダメだよ。飲酒射撃は危ないよ」

ミントが釘を刺した。

「よし、今日はもう暗いから明日の早朝にやろう。訓練は10時からだから8時に野外射撃場に集合だ。米子、俺にもイメージ射撃を教えてくれ」

木崎も話に割り込んだ。


 3日目の朝は特別に8時から米子を教官とした拳銃の射撃訓練を行った。場所は野外射撃場だ。教官達も宿泊棟から出て来て興味深そうに見ていた。

バスケットボールを使ったイメージ射撃と拳銃を2丁縦に構えて同時に撃つ『米子撃ち』だ。米子とミントはイメージ射撃で20m離れたターゲットのバスケットボールを目隠しをした状態で射撃し、見事に命中させていた。バスケットボールの位置を半径20mの範囲で変えてもらい、目隠しを外して3秒でボールの場所を記憶し、再び目隠しをして射撃する事の繰り返しであったが、米子はほぼ100%、ミントも80%の確立で命中させていた。木崎、樹里亜、瑠美緯の3人は最初戸惑っていたが、20%の割合で命中させられるようになった。米子撃ちの訓練では全員がベレッタ92を縦に平行に構えてトリガーを2丁同時に引き、前方のターゲットに向けて射撃を行った。米子の熱心な指導のもと全員がコツを掴み、基本はマスターした。後は練習を重ねて速い連射で行えるようにするだけである。約2時間の訓練で1人あたり250発の9mmパラベラム弾を使用した。

 教官との模擬戦闘訓練は室内訓練場で行われた。室内訓練場は通常の射撃レーンの他に、室内戦を訓練する為の複数の部屋や車や遮蔽物が置かれた空間が用意されている。銃は訓練所のべレタッタ92と演習弾を使用した。米子達は一人に2丁ずつ装備した。木崎も米子達のチームに加わった。銃撃戦で米子達は教官達と互角の勝負をした。集団で向かい合って撃ち合うシチュエーションでは『米子撃ち』を試して教官達を圧倒した。


 木崎が訓練後にミーティングを開いた。

「拳銃ではいい勝負になったね。私達の商売道具だし、訓練所では教えてくれないイメージ射撃や米子撃ちは実戦では有効だね!」

ミントは嬉しそうだ。

「俺もイメージ射撃を試したが、銃撃戦では使えるな。複数ターゲットを素早く撃てる。俺達の射撃に教官達が焦ってたぞ。アサルトライフルの模擬戦闘では散々だったが拳銃では盛り返したな」

木崎も機嫌がいい。

「『米子撃ち』凄いですね。これなら暴力団やマフィアなんて楽勝っすよ」

「私も射撃に自信がつきました。ありがとうございました」

瑠美緯と樹里亜が米子に頭を下げた。

「米子撃ち気に入ったぜ。ガバメントでこれをやったら無敵だぜ。アメリカに帰ったら仲間に広めたいぜ。でも教えるのが勿体ないな。俺の強みにするぜ」

「ところで米子、サブマシンガンと拳銃の選定は終わったのか?」

木崎が訊いた。

「サブマシンガンはマイクロウージーで、拳銃はベレッタ92Fでお願いします。スペアも含めてそれぞれ2丁ずつお願いします。マイクロウージーの弾倉は32発用と50発用をお願いします。あと、パトリックさんには45口径仕様のイングラムMAC10とコルトガバメントのMEUをお願いします。45口径の実戦データもとりたいんです」

「わかった、調達しよう。M4A1用のグレネードとM72ロケットランチャーも準備しよう。ナイフは米軍のコンバットナイフを配布する。他に必要なものはあるか?」

「戦う時の服装は普段着ている服でいいですか? 戦闘服だと街中で目立ちます。逃走の時着替える必要があります。武器の装備には弾帯とタクティカルベストを使用しますので用意して下さい」

「いいだろう。小物や必要な民製品は現金を渡すから必要な都度買ってくれ。ただし飲み食いはだめだ。歯止めが効かなくなるからな」

「わかりました」

「じゃあ東京に帰るぞ。6人だと狭いけどハイエースで帰る」

「パトちゃんは一番後ろの席に座ってよね。体デカすぎなんだよ」

3日間の訓練は終わった。木崎の運転するハイエースは夕暮れの関越自動車道を走った。車内ではお菓子を食べたり歌を歌ったり、芸能人の話で盛り上がった。アサシンといっても4人は現役女子高生と中学生なのだ。しかしその女子高生達が構成員2000人の広域暴力団とチャイニーズマフィアに戦いを挑もうとしている。

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