第4話 Chapter4 「群馬 訓練 格闘術・射撃」
Chapter4 「群馬 訓練 格闘術・射撃」
群馬県の訓練所は群馬県と長野県の県境にあった。周囲8Kmの施設で周りを高さ3mのフェンスで囲われている。かつては硫黄鉱山だった場所だ。敷地内には講堂棟と宿泊棟があり、室内射撃場と柔道場が存在する。宿泊棟に各自4畳半の和室の部屋が用意され、トイレと大浴場と食堂は共同だった。娯楽施設はなく携帯電話は圏外だがインターネット回線は引かれ、Wi―Fiは使い放題だ。この時期は本格的な冬を迎える為、訓練施設は2ヵ月間閉鎖しており、教官以外には誰もいない状態でほぼ米子達の貸し切り状態だった。
木崎の運転する黒いハイエースが訓練所のゲートから入って宿泊棟の前に停まった。小雪が舞っている。先に訓練所に来ていた樹里亜と瑠美緯が出迎える。各自が割り当てられた部屋で作業服に着替えて講堂棟前の広場に集合した。作業服は紺色の戦闘服だった。
「寒いね~。息が白いよ。12月だもんね」
ミントが手を擦りながら言った。
「よし、これから15Kmのランニングだ。ダミーの小銃を抱えて走るんだ。俺について来い。60分が目標だ」
木崎を先頭に米子、ミント、パトリック、樹里亜、瑠美緯が続いた。訓練所の周りを山道も含めて1週するコースだった。高低差は50mで所々雪も積もっているので足場は良くない。全員が団子になって走っていたが残り5kmになると米子が抜け出して独走となり、そのままゴールした。ランニングの後は柔道場で格闘訓練を実施した。訓練用の樹脂製の透明な防護面を着け、手にはオープンフィンガーのグローブを着けた。相手を変えて3分ずつの軽いスパーリングを行った。全員がパトリックのパワーに振り回された。米子もパトリックに面白いように投げ飛ばされた。
「よし、米子とパトリックは試合形式の訓練だ。どんな技を使っても構わない」
米子とパトリックが道場の中央で向かい合った。身長差は30cm近い。大人の子供のようだ。
「始め!」
道場に木崎の声が響いた。
パトリックがパンチを連続して出したが米子は見切って躱し、パトリックの腹に右飛び膝蹴りを叩き込んだ。米子は腰の下がったパトリックに左ローキックと右カーフキックを打ち込んだ。『バキッ』と鈍い音がした。
「アウチッ、タイムだ!」
パトリックが言いながらしゃがんで左のふくらはぎを揉んだ。
「米子、鋭い蹴りだったぜ。こっちも本気でいくぜ!」
パトリックはダッシュすると両手で米子の襟を掴んで空中に高く持ち上げた。手首をクロスして襟で米子の頸動脈を絞めた。米子は持ち上げられたまま右のキックを出して足指の付け根をパトリックの左こめかみにクリーンヒットさせた。
「グッ! ノオ~!」
パトリックは叫んだが締め続ける。米子は苦しそうな顔になった。米子は両足を外から回すようにしてパトリック肩に乗せて足首をクロスさせての首を絞めた。1分ほどお互いに締め合った。我慢比べだ。米子は意識が遠のきそうになってきた。パトリックがガクンと膝をついて前に倒れた。落ちた(頚動脈洞反射で意識を失う)のだ。米子は背中から畳に落下したがすぐに立ち上がった。頭がクラクラしている。
「勝負あり! 米子勝利」
木崎が大きな声で判定を下した。
「俺は落ちたのか。米子は強いな、スーパーハイスクールガールだぜ」
木崎に喝を入れられて目を覚まし、四つん這いになった姿勢でパトリックが言った。
「たまたまです。さっきのスパーリングでは投げられまくりました。力では敵わないです」
「米子、まだ甘いぞ。俺たちの格闘術は競技じゃない。殺し合いだ! さっきは目潰しを使う状況だ。絞め合うんじゃない。時間と体力の無駄だ! 一瞬で相手を無力化するんだ!」
木崎が厳しい声で言った。
「はい、次はそうします」
「さすが木崎さんだね。特殊部隊の殺人格闘術は凄いね」
ミントが感心している。
その後は全員で試合形式の組み手を行った。米子は全員に勝利した。ミントをカーフキックで、瑠美緯を右ストレートで倒した。樹里亜は格闘術に自信があるだけあって強かった。乱打戦の後掴み合いになったが、左ボディーブローを叩き込んで米子が勝利した。
「沢村先輩強いっすね! 美人だしスタイルいいしクールだし、憧れます!」
大浴場のシャワーで米子が体を洗っていると隣にいた瑠美緯が話しかけて来た。
「瑠美緯ちゃん、運動部じゃないんだから先輩って言うのはやめて。沢村さんでいいよ。憧れるヒマがあったら私の技術を盗んで」
「わかりました。私、中学の時女子野球部だったんです。ノリが体育会なんです。それにしても沢村さんの右ストレート強烈でした。樹里亜先輩もボディを喰らって驚いてました。凄い威力だって。樹里亜先輩は腹筋バキバキなんすよ」
「いくら筋肉を鍛えても衝撃が内蔵に伝わるように打てば倒せるの。力より技術だよ」
「沢村さんは今までに何人くらい殺したんですか?」
「40人くらいかな」
「凄いっすね~」
「任務だからね。プロ野球選手がヒットやホームランを打つのと変わらないよ。数が増えても嬉しくないし、単なる結果だよ」
「沢村さんは『米子』って言うんですね。私は親が宝石好きだったから瑠美緯です。兄は『大弥』(ダイヤ)でした。酷いと思いませんか?」
「私の名前は曾お爺さんが付けたの。米農家だったから『米子』だって。恥ずかしい名前だから20歳になったら変えようと思ってる」
「そうなんすか? 古風で逆にカッコイイっすよ」
「じゃあ名前交換する? 私は瑠美緯の方がいいよ」
「そ、それは・・・・・・」
「今日は戦闘訓練を実施する。まずはアサルトライフルとサブマシンガンの射撃訓練だ。アサルトライフルは『M4A1カービン』だ。調達の都合上こっちで決めさせてもらった。サブマシンガンは『イングラムMAC10』と『MP7』と『マイクロウージー』と『VZ61スコーピオン』を1丁ずつ用意した。4人で使い回して評価して欲しい。実際に装備する1種類を決めたい。拳銃も1種類に統一したいから決めてくれ。スタングレネードも用意する。手榴弾はMK67だ」
木崎が説明した。
「M4のオプション装備はありますか?」
米子が質問した。
「ドットサイトとレーザーサイトは用意した」
「グレネードランチャーもお願いします」
「わかった。本番までに用意しよう」
米子達は施設内の野外射撃場で射撃訓練をした。射撃場の長さは250m。アサルトライフルはセミオートとフルオートで一人当たり90発、サブマシンガンは120発を撃った。
「米子、M4カービンいい感じだね。やっぱりライフル弾は威力が違うね。戦争で使うだけのことはあるよ。アサルトライフルは頼もしいよ。撃ってて気分も上がるよ」
ミントが嬉しそうに言った。
「うん、でも個人的には5・56mmより7.62mmがいいんだけど」
「7.62mmは反動が大きいし、弾もかさばるし、市街戦ではオーバーキルだよ。世界の主流は5.56mmだよ。もうじき6.8mmになるみたいだけどね」
「そうだね。野戦だったら7.62mmの銃がいいけど、M4ならオプション装備も多いし、今回の任務にはM4がいいかもね」
「M4カービンはマリーン(海兵隊)の主力小銃だ。さんざんぶっ放したぜ」
パトリックが言った。
「パトちゃんアサルトライフルの射撃上手いね。いっぱい的に当たってたよ。さすがだね」
「ミント、セミオートを鍛えるんだ。フルオートはすぐに弾が無くなるし命中率も悪くなる。使うのは制圧射撃の時だけだ」
パトリックが助言した。
「うん、わかったよ。米子、サブマシンガンはどれがいいかな? 私はMP7が良かったよ。現代サブマシンガンって感じだよ。VZ61も良かった」
「MP7はいい銃だけど、弾が専用で特殊だよね。4.6mm×30mm弾。貫通力はあるけど、拳銃との互換性を考えたら9mmパラベラムのMAC10かマイクロウージーだね」
「沢村先輩、私もマイクロウージーがいいです。凄い発射速度です。バラ撒くには最適っすよ」
瑠美緯が話に割り込んだ。
「そうだね、発射レートが1400発/分だからね、1秒間に20発以上だよ。でも気をつけないと一瞬で弾切れになるし、発射レート高いから暴れて制御が難しい。指切りの技術がいるよ。樹里亜ちゃんはどうだった?」
「サブウェポンとしてなら私もマイクロウージーがいいです。一番小さいから持ち運びも便利です」
「そうだね。マイクロウージーならハンドバックに入るよね。大きめの上着を着ればショルダーホルスターにも仕舞えるよ」
「VZ61スコーピンもいいな。羽田空港のターミナルで撃ち合った時、敵がスコーピオンだったよ。いい射撃性能だったし、見た目がカコイイいいんだよね。でも皆に合わせるよ。マイクロウージーはサブマシンガンというよりマシンピストルって感じだね。ただ発射時の制御の訓練がもっと必要だよ。コントロールが難しい。小さいのに発射速度がハンパじゃないよ」
ミントが口を挟んだ。普段P90をメインウェポンにしているのでサブマシンガンやマシンピストルへの造詣が深かった。
「俺はサブマシンガンはいらないぜ。拳銃で十分だ。ガバメントがいいぜ」
「パトリックさん、今回拳銃は9mmにしようと思ってます。9mmにして弾の種類を少なくしたいんです。3種類を持ち歩くのは面倒です」
米子が言った。
「そうか、残念だな。オカマの銃を使うか」
「そうだ、実験的にパトリックさんだけサブマシンガンをMAC10の45口径仕様にして拳銃もガバメントでいいかもしれません。弾を45ACPで統一して下さい。個人的に45ACP弾に興味があるんです。木崎さんに頼んでみます」
「オウッ! 米子、最高だぜ。アメリカ人は45口径を愛してるんだ」
「ミントちゃん拳銃はどうする?」
米子が訊いた。
「この前神宮でベレッタ92を使ったけど撃ちやすかったよ。SIG-P226もいいから迷うよね、総弾数も同じ15発だし。でも見た目はベレッタの方がスマートでお洒落だよね」
「じゃあベレッタ92Fにしよう。ベレッタ92の軍用バージョンだよ。樹里亜ちゃんと瑠美緯ちゃんもそれでいい?」
「いいです」
「私もOKです。ベレッタは訓練所で沢山撃ちました」
こうして使用武器は決まった。メインウェポンは4A1カービン。サブウェポンはマイクロウージー。拳銃はベレッタ92F。
M4A1カービンはM16をダウンサイジングしたアサルトライフルで米軍の正式ライフルとなっている。比較的小型で取り回しが良く、様々なオプションパーツを装着できる。弾丸は5.56mmNATO弾で銃口初速は905m/秒。発射速度は800発/分。全長85Cmで重量は2.7Kg。湾岸戦争やイラクやアフガニスタンで米軍に使用され、実戦での使用実績は多い。
マイクロウージーはイスラエル製のサブマシンガンだ。元になるウージーは1950年代後半にイスラエル軍で使用が開始された優秀なサブマシンガで全世界に輸出された。その後は小型化されたミニウージーが作られ、さらに小型化されたのがマイクロウージーである。弾丸は9mmパラベラム弾で銃口初速は300m/秒。発射
が速く、瞬間的な火力を発揮する。
ベレッタ92はイタリア製の自動拳銃で、コルトガバメントの後継の米軍の正式拳銃として最近まで使われていた。9mmパラベラム弾を15発装弾できる。映画ゲームなどに登場することも多く、9mm拳銃の代表格である。
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