第3話 Chapter3 「嵐の予感 新しい仲間達」

Chapter3 「嵐の予感 新しい仲間達」


 「米子、ミント、次の仕事だ」

木崎は煙草の煙を吐き出しながらA4の冊子をテーブルの上に置いた。米子は手に取って眺めた。

「『ニ和会』と『金龍会』って暴力団ですか? この前『三輝会』のトップは私が殺りました。私がいない間に紙巻き煙草に戻したんですね? 強烈に臭いです」

「すまん、電子タバコは体に合わん。その三輝会トップの跡目を狙って組織が2つに分裂した。ニ和会は三輝会配下の武闘派の『山崎組』が反旗を翻して2つの1次団体と9つの2次団体を束ねて立ち上げた。三輝会の本部がある大阪で激しい抗争が起きている。三輝会は5年前に木船が本部機能を大阪から東京に移したんだが、木船の後を引き継いだ組長の赤木城一が急遽大阪に本部を戻した。この2ヵ月で双方合わせて30人以上の死人が出ている。横浜でも抗争が起きている。『金龍会』は横浜に本拠地を置くチャイニーズマフィアでニ和会と同盟を組んでいる。お前達には二和会と金龍会のトップを殺って欲しい。幹部クラスを可能な限り殺ってくれ」

「何でニ和会をやるんですか? 暴力団の抗争ですよね? 夜桜との戦いはどうなってるんですか?」

「夜桜との戦いは休戦だ。内閣情報統括室が介入した。法務省と警察庁の幹部が何人か更迭された。しかし油断はできない。夜桜の背後にいたのは国の新しい勢力だ。公安を含めた警察系の組織を配下に治めつつあるようだ。竹長も新しい勢力の一員だった。俺達の所属する内閣情報統括室はどちらかといえば現行勢力寄りだ。だから竹長暗殺の依頼が来たんだ」

「じゃあしばらくは夜桜の事は考えなくていいんですね?」

「そうだ。まあ頭の隅には置いておけ」

「ニ和会の説明をお願いします」 

「ニ和会の母体は超武闘派の『山崎組』で組長の山崎は木船とライバルだったが木船が三輝会のトップになった。前組長で現会長の権藤正造が指名したんだ。それでも山崎はトップになることを諦めていなかった。今回の木船の死という混乱に乗じて反乱を起こしたんだ。もし二和会が覇権を取れば中国マフィアを始め、アジア各国のマフィアが日本に雪崩れ込み、半グレ集団も暴れだすだろう。山崎はなんでもありのイケイケだ。ある意味、三輝会は裏社会を押さえて秩序を保っていたんだ。国の上層部は今まで通り三輝会に裏社会を仕切って欲しいんだ」

「私が木船康男を殺ったのがきっかけになってるんですか?」

「そうだな。米子が裏社会の微妙なバランスを壊したとも言える」

「そんなの米子のせいじゃないよ! 木船康男のバカ息子が米子に変な事したから米子が半殺しにしたんだよ。それなのに米子を恨んで襲って来たのは木船康男だよね。素人の女子高生を配下のヤクザを使って殺そうとしたんだよ。だから米子がやったのは正当防衛みたいなもんだよ」

「だが相手が大物すぎた。米子は大きな『積み木の城』の大事な部分の積み木を抜いたんだ。裏社会が崩れ始めている」

「そんなの放っておけばいいじゃん。裏社会が崩壊するのはいいことじゃないの?」

ミントが疑問をぶつける。

「崩壊の余波は一般人や表社会に大きな被害を及ぼす。日本中のアウトローがやりたい放題に暴れ出し、抗争だらけになるだろう。街中に弾丸が飛び交うようになるぞ。だからニ和会を潰して正常に戻すんだ」

「わかりました。詳しい情報を下さい。作戦を立てる時間が必要です。必要な物を準備してもらいます。今思いつくのはアサルトライフルと汎用機関銃とサブマシンガンに拳銃と手榴弾です。バイクと車も必要です」

「米子、やるの!? 相手は抗争中の暴力団だよ! 警戒して滅茶苦茶に武装してるはずだよ」

「大丈夫、私一人でやるよ」

米子が言った。

「無茶だよ! 協力するけど2人じゃ難しいよ!」

「木崎さん、ターゲットは抗争中なのでかなりガードを固めていると思います。通常の暗殺のようにはいきません。強襲に近い形になると思います。事務所には警察も張り付いてますよね?」

「そうだな。三輝会も二和会も幹部は外出を控えている。暗殺のチャンスは無いだろうな。ただ警察が張り付いているから事務所に武器は無いだろう。警察が邪魔なら大阪府警に圧力を掛ける事も可能だ。事務所を襲うのか?」

「まだわかりません。情報を収集して作戦を立てます。ミントちゃんが言うように2人だと物理的に厳しいかもしれません。事務所の見取り図と周辺の地図をください」

「わかった。3人メンバーを追加しよう。必要なら戦闘部署の別働隊も協力させる」

木崎が言った。

「わかりました。2ヵ月下さい」

「よし、新メンバーは来週には呼ぶからチームビルディングをしてくれ」


 「私は沢村米子、17歳の高校2年生。今は一人暮らし。訓練は北海道で受けたの。近接射撃と格闘術が得意だよ」

「私は高梨ミント17歳。私も一人暮らしの高校2年生。訓練を受けたのは群馬だよ。サブマシンガンが得意だよ」

米子とミントは自己紹介した。

「浅井樹里亜(ジュリア)です。16歳の高校1年です。府中の児童擁護施設から学校に通ってます。訓練は群馬で受けました。格闘術が得意です」

「水谷瑠美緯(ルビイ)です。15歳、中学3年生です。中野の施設から中学校に通っています。訓練は樹里亜先輩と一緒に群馬で受けました。拳銃とナイフ術が得意です」

新入りの2人が自己紹介した。浅井瑠美緯は長い黒髪で身長は160cm。美人系の顔で口数は少ない。生まれながらの孤児だ。水谷瑠美緯はライトブラウンのショートカットでボーイッシュな顔をしている。身長は158cm。よく喋り、明るい性格だ。10歳の時に交通事故で両親と兄を亡くし、施設に入った。

「『ジュリア』に『ルビイ』か。なんか私達の業界ってキラキラネームが多いね。米子は逆キラキラネームだけどね。まあ仲良くしようよ。暗殺の経験はあるの?」

ミントが訊いた。

「はい。3人です。方法は事故に見せ掛けた転落で1人、拳銃で2人です」

樹里亜が言った。

「私も3人っす。1人はナイフで刺殺、2人は拳銃でした」

瑠美緯が答えた。

「今回は暗殺よりも戦闘色が強くなる可能性のある任務だから訓練を実施するよ。アサルトライフルやサブマシンガンの射撃を徹底的に覚えてもらうから」

米子が厳しい口調で言った。

「はい、頑張ります。ご指導よろしくお願いします」

樹里亜が頭を下げた。

「望むところです。戦闘を経験したかったんです。アサルトライフルは訓練で習いました。実戦で撃てるのが楽しっみす」

瑠美緯が笑顔で言った。


 米子とミントは事務所の近くのスウィーツ店『アーナルセクースウィーツ』で話していた。

「米子、新人の2人の訓練どうする? 正直言って面倒だよね。でもしっかり訓練しないと足手まといになるよね。もう1人新人がいるんだっけ?」

ミントがピーチパフェを食べながら言った。

「木崎さんに頼んで群馬の訓練所を週末から3日間押さえてもらったよ。教官として木崎さんにも来てもらう。もう1人の新入りは明日来るらしいしよ。実戦経験はかなり豊富みたいだから期待しようよ。むしろ私達より強いかもしれないよ」

米子はアイスカフェモカを美味しそうに飲んだ。

「そうなんだ。訓練か、久しぶりだな。米子、『米子撃ち』教えてね!」

「いいよ、あれをみんなで覚えれば戦闘力がアップすると思うよ。複数人相手の拳銃の銃撃戦なら無敵だよ」


 米子とミントと木崎は事務所の応接室でソファーに座っていた。大きな男がドアを開けて入って来た。

「ハ~イ! 今日から仲間になるパトリック・グリーンだ。『パト』と呼んでくれ。よろしくな! 俺はマリーン(海兵隊)にいた事もある。アフガンで実戦に参加した事もあるぜ。階級はサージェント(軍曹)だった。俺が入ればこのチームもレベルが跳ね上がるぜ。 しかし驚いたな。暗殺の実行部隊って聞いてたから厳ついおっさん達かと思ったら子供じゃないか。俺はお遊戯を習いに来たんじゃないぜ! 大丈夫なのか?」

パトリック・グリーンと名乗る白人の大男が自己紹介した。パトリック・グリーン、35歳。出身はテキサス州で元マリーン・レイダース(アメリカ海兵隊特殊作戦コマンド)。身長191cm、体重115Kgで髪型は金髪のクールカット。服装は黒のタンクトップにオリーブドラブのカーゴパンツ。常に上半身の筋肉を見せつけている。左の上腕には赤い『薔薇』の絵のタトゥー、右の上腕には漢字で『乙女座』の文字のタトゥーを入れている。格闘術は総合格闘技。武器はナイフからロケットランチャーまで何でも使え、ヘリの操縦もできる。

「パトリック、こう見えてもこの2人は暗殺のプロだ。元CIAのアサシンやエリック・ロギンス達も始末したんだ」

「オウッ、あの羽田の事件か、スゲエな。そいつは済まなかった。仲良くしてくれよ!」

「パトリックはCIAの配下の組織から一時的にうちの組織に来てもらった。こっちからもCIA関連の組織に研修という名目で人を送り出している。まあ、交換留学生みたいなもんだな。パトリックは元軍人だ。それも海兵隊の特殊部隊にいたから戦闘経験は豊富だ。むしろお前達の方がパトリックから学ぶ事が多いかもしれない。仲良くしてやってくれ」

木崎が改めてパトリックを紹介した。米子とミントも自己紹介をした。樹里亜と瑠美緯は群馬の研修所に行って週末からの訓練の準備をしている。


「パトちゃんは日本語が上手だね。乙女座なんだね。アメリカで漢字のタトゥーって流行ってるの?」

「父親が神奈川のキャンプ座間に勤める軍人だったんだぜ。俺も7歳から15歳まで日本にいたのさ。漢字のタトゥーは大人気だぜ。俺は自分の星座だけど、文字の意味より形で選ぶヤツが多いんだ。デザインのサンプルがあるんだよ。俺の仲間は『台所』や『冷蔵庫』とか『便器』なんてのもいるぜ。デザインとして気に入ったらしい。『魑魅魍魎』や『読書感想文』、『激安感謝祭』なんていうタトゥーを入れてるのもいるぜ」

「アメリカ人は面白いね。パトちゃん、銃は何を使ってるの?」

ミントはパトリックの事を『パトちゃん』と呼んですっかり打ち解けている。

「ガバメントだよ。当然だろ」

「9mmじゃないんだ?」

「9mmなんてオカマの銃だぜ。男は45(フォーティーファイブ)だよ。マッチョにいこ

うぜ!」

「45口径か、アメリカ人らしいね」

「俺の体はどこを切ってもアメリカだぜ。骨の髄までUSAだ。銃はガバメント、飯はバーガーにTボーンステーキ、酒はバーボン、車はコルベット、スポーツはアメフトだぜ!」

「私は357マグナムが好きだよ。米子は357SIG弾と500マグナム弾だよ」

「500マグナムだって!? そいつはたいしたもんだ」

「普段は357SIGだけど、最近500マグナムも撃つようになったんです。確実に仕留めら

れます。でも連射なら9mmですね」

米子も話に加わった。

「オー、マイハニー、お前はイカれたエンジェルだぜ。そのルックスで500マグナムをぶっ放すのか。しかしお嬢ちゃん達は綺麗でキュートだな。日本の女子高生は制服がいいよな。天使や妖精に見えるぜ。アメリカに輸入したいぜ」


 「パトちゃん、お昼だよ、ご飯食べに行こうよ。やっぱりステーキがいいのかな?」

ミントが訊いた。

「ああ、でも豚カツもいいぜ。豚があんなにジューシーで美味いなんて驚きだぜ。大盛ライスと一緒に喰いたいぜ。米子は何が食べたいんだ?」

「私はラーメンがいいです」

「オー、ハニー、そいつはグッドアイデアだぜ。チャーシュー山盛りのラーメンもいいよな。チャーハンと一緒に食へたいぜ。ガーリックマシマシだぜ。食べた後は『シコリッシュ・ゴールド』とプロテイン飲んでベンチプレスをやろうぜ。マッチョにいこうぜ。米子は強い男が好きだろ?」

「強い男ですか・・・・・・マッチョはちょっと・・・・・・」

「それにしても米子はビューティフルガールだな。ミントはキュートだし。JKアサシンだって?最高じゃねえか! ハッハッハ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る