第2話 Chapter2 「焼肉と米子撃ち」
Chapter2 「焼肉と米子撃ち」
米子達は青山にある焼肉店『寿々苑』で焼肉を食べていた。炭火焼で国産ブランド牛を取り揃えてた高級店だ。
「米子の銃撃凄かったね。さっきの撃ち方は何なの? あんなの初めて見たよ」
ミントが『極特選ロース』を口に運びながら言った。
「最初に撃った2発はM500マグナムだよ。連射はベレッタ92のパラレルレングス(平行縦)撃ちだよ。正式名じゃないけどね」
「何それ?」
「2丁の銃を縦に平行になるように構えて、トリガーを同時に引くんだよ。右手を鳩尾の位置、左手をおヘソ位置に構えるの。手首を胴体から30センチ位離して同時に撃つんだよ」
「どんな効果があるの?」
「縦の軸で2発同時に撃つから、相手の体の縦のラインに2発同時に当たるんだよ。人間の体は横より縦の方が長いから左右に平行に構えるより当てやすいよ。眉間と鳩尾(みぞおち)とか、首とお腹に同時に撃ち込めるからストッピング力も高まるよ。同時にトリガーを引くから時間当たりの発射弾数も増えるんだよ」
「発射弾数?」
「2丁拳銃だと左右交互にトリガー引くのが一般的だけど、同時だと同じアクションで2倍撃てるよ。例えばトリガーを引いて1発撃つのに1秒かかるとして、左右交互に撃つと12秒で12発。でも同時撃ちだと6秒で12発だよ。交互に撃つ1発分の時間で2発撃てる。胴体の上部と下部に2発同時に被弾するからダメージも大きいよ。まあ射撃間隔は0.3秒以下じゃないと話にならないけどね」
「凄い技術だね。どこで覚えたの? オリジナルなら、それって『米子撃ち』だよ!」
「実はこの2ヵ月間、中学生の時に間訓練を受けてた北海道に行ってたんだよ。訓練所の元所長の『漆崎』さんが引退して訓練所の近くで牧場を経営してるんだけど、そこで訓練と勉強してたんだ。訓練所が休みの時は射撃場を使わせてもらった。さっきの撃ち方はそこで練習したんだよ。木船とオットーを殺った時はこっちに戻って来てたけどね」
「漆崎さんって、陸自の元陸将の漆崎さんか?」
「そうです。訓練生の時にお世話になったんです。偶然漆崎さんの命を救った事があって、その時以来可愛がってもらってます」
「銃はどこで手に入れたんだ?」
「漆崎さんが調達してくれました。借りたままのSIG-P229と漆崎さんに調達しても
らったS&WのM500を1丁とベレッタ92を2丁とガバメントMEUを1丁持ってます。でも私、クビですよね?」
「幸い組織にまだ籍はある。今回の件で鴨志田課長を救って敵を13人倒したんだ、クビはないだろう。それにしても大したもんだ」
木崎が呆れるように言った。
「だよねー、もうダメかと思ったよ。頭の中で走馬灯がグルグル回ったよ。だいたい何で私達の班は2人だったの? 1班は12人もいたじゃん。2班も6人だったよ」
ミントが不満そうに言った。
「敵の本隊と秩父宮ラグビー場で交渉する事になっていた。神宮球場は敵の通信班が2~3人いるという情報だったから俺とミントで十分だという判断だったんだ。まさか14人もいるとはな。こっちが本隊だったようだ。スナイパーまでいた」
「敵は鴨志田課長を誘拐してどうするつもりだったんですか?」
米子が訊いた。
「わからない。交渉と身柄の引き渡しが場所が秩父宮ラグビー場だった。俺達を呼びだして殲滅する事が目的だったのかもしれんな。意表を突いてラグビー場から野球場へ移動させるつもりだったのかもしれん。ここが罠だったんだ」
「それを米子が逆襲して全部排除したわけか。やっぱ米子は凄いね。それにしてもここのお肉美味しいね! 生きてて良かったよ、米子ありがとう」
「ああ、超高級店だ。事情を話したら上が経費で落としていいと言ってくれた。この店も教えてくれたんだ。米子のおかげだ。鴨志田課長が米子に会いたがってる。明日の夕方、事務所に来てくれ」
「遠慮なくいただきます。極特選カルビとか極特選ロースとか初めて食べました」
「だよねー、私達いつもは食べ放題だもんね。さっき食べた『極上トロカルビ』なんて口の中で溶けたよ。壺漬け熟成ロースは旨味が超濃厚だったし、タン塩も鬼ウマだったよ」
「うん、美味しいね。クッパと冷麺が楽しみだよ」
「お前らよく食うな。まあ費用は本部持ちだから遠慮なく食べろ。しかし美味いな」
「米子、さっきの『米子撃ち』教えてよ」
「いいよ。ミントちゃんはイメージ射撃できるの?」
「当然だよ。精密射撃以外はアイアンサイトなんて見てないよ」
「じゃあ大丈夫だよ。練習すればすぐに出来るようになるよ」
「俺にも教えてくれ、まずはイメージ射撃だ。今回の件でお前達より射撃が劣る事がわかった。夜桜のやつらは警察系だから拳銃の射撃が上手い。俺のいた自衛隊ではライフルの訓練が主体で拳銃の訓練は殆どしないんだ」
「群馬の訓練所の野外射撃場を2日間押さえて下さい。バスケットボールも沢山用意して下さい」
「バスケットボール?」
「それくらいの大きさの物をイメージ射撃の訓練に使います」
イメージ射撃は銃のリアサイトとフロントサイトを使わない射撃方法だ。的の位置をイメージして銃口をその方向に向けて撃つのだ。西部劇のガンマンがホルスターから銃を抜いた直後に狙いを付けずに撃つのと似ている。米子は、20m先に置いたバスケットボールの位置を記憶して、目隠しをしてイメージで撃つ訓練をしていた。距離と横の角度及び縦の角度をイメージして銃口を向けるのだ。体で覚える感覚だ。
「そうか、用意するから教えてくれ。訓練施設も今の時期は冬季休業期間で2ヶ月間は訓練が休みのはずだから押さえられるだろう。米子、頼んだぞ」
「その代わり、今度はお寿司を奢って下さい」
「わかった。本部に掛け合ってみる」
「あーあ、木崎さん、自腹で払いなよ。だから女性にモテないんだよ」
ミントが言った。
「そうなのか? ミント、どうしたらモテるのか教えてくれ!?」
「じゃあ、ステーキも追加だね。授業料だよ」
米子は事務所の応接室で鴨志田課長と面談をしていた。鴨志田課長は内閣情報統括室特務課課長で、米子達が所属する株式会社ニコニコ企画の登記上の代表取締役でもあった。
「君が沢村米子君か。いやあ助かったよ。噂は聞いてたが、本当に強いなあ。あっという間に6人も撃ち倒した。それに凄い美人だ。芸能人みたいじゃないか。高校生だって?」
「はい、高校2年生です」
「うちの娘と同じだな。暗殺部隊じゃなくて戦闘部隊に入る気はないかね?」
「今のままがいいです。暗殺は計画が8割ですが戦闘はその場の判断が8割で運の要素もあります。私は自分の立てた計画通りにやりたいんです。その方が失敗しても諦めがつきます」
「なるほど。ところで君はIQも高いらしいな。『160』だって? 凄いじゃないか。 作戦課に推薦してもいいぞ」
「自分で立てた作戦は自分で遂行したいんです。私の立てた作戦で誰かが死ぬのはイヤです」
「ほう、たいしたものだな。何か要望はないか? 今回の件でボーナスは出そう。それ以外に何か要望があれば言ってくれ」
「最新型のレーザー銃と攻撃用小型ドローンを購入して頂けませんか?」
「うーん、レーザー銃は難しいなあ。『薔薇』(アメリカ)が了解しないだろう。小型ドローンなら購入できる」
「やっぱり『薔薇』にお伺いを立てないといけないんですか? 日本は独立国家のはずです」
「残念だが薔薇あっての独立国家だ。そうだ、服なんかどうだ? お洒落な服が欲しいだろ? うちの娘なんか服ばっかり買っているぞ。商品券をプレゼントしよう、50万円分もあれば沢山買えるだろう。なにしろ命の恩人だ。それに今回の件は完全勝利だ。上層部も文句を言わないだろう。君がいなかったら我々は負けていたかもしれないのだ」
「相棒の分もいただけますか? 相棒の高梨ミントも今回の作戦に参加しています」
「もう一人のJKアサシンか。いいだろう。私の決裁権の範囲だ」
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