JKアサシン米子 第2部

南田 惟(なんだ これ)

第1話 Chapter1 「米子再び」

Chapter1 「米子再び」


【神宮 初冬】

『ミント、今どこだ?』

『バックネット裏を通って3塁側まで来たよ。バックネット裏で2人殺ったよ。相手の銃はグロック、サイレンサー付きだった。木崎さんはどこ?』

『お前の下だ。3塁側の球場内通路だ。今までのところ、敵との遭遇は無い』


木崎とミントは夜の神宮球場にいた。木崎は球場内部、ミントはスタンドを移動している。会話はヘッドセットに内蔵された無線機で同時通話が可能である。木崎は周囲を警戒しながらゆっくり通路を進んだ。赤外線ゴーグルを着けている。紺色のフィールドシャツに紺色の作業ズボンにタクティカルブーツを履いている。右前方のスタンドに繋がる階段の入り口に白く光る影が見えた。反射的にSIG-P226を構える。銃にはドットサイトとサイレンサーを装着している。銃撃戦に備えて赤外線ゴーグルを外して首に掛けた。

『カキン  カキン  カキーン』

金属が床で跳ねる音がした。木崎は咄嗟に伏せて両耳を手で塞いで目を閉じた。

『バーーーーン!!』

稲妻のような光が炸裂し、轟音が響いた。木崎は寝転がったまま、ベルトからMK67破片手榴弾外すと階段に向けて投げた。

『ドーーーーン!! キーン! キン、キーン キン キン』

大きな爆発音が響くと同時に爆風と衝撃派が通路を駆け抜けた。手榴弾の破片が壁や天井に激しく当たる音がする。顔を上げると、敵が2人吹き飛ぶのが見えた。

『木崎さん、今の音は何? 大丈夫?』

『やつらが待ち伏せしてた。2人だ。スタングレネード(音響閃光手榴弾を)投げてきたから手榴弾で吹き飛ばした。ミントも気を付けろ』

『わかった。私はレフトスタンドに向かうよ。外野に行くには一回外に出ないと行けないみたいだね。球場の係員とか警備員はいないのかな?』

『やつらが無力化したようだ。縛って転がしてるんだろう』


ミントは3塁側のスタンドシートの間を四つん這いになって進み、30m毎に動きを止めて様子を伺った。今回もいつも通り制服姿だった。照明塔の明かりは作業用の弱い明かりになっていた。誰もいないグランドがやけに広く見える。通路に通じる入り口から人影が現れた。ミントはしゃがんだ姿勢で人影にベレッタ92の銃口を向けた。サイレンサーが付いている。照明の弱い光が人影を照らす。距離は10m。近づいてくる。黒いスーツを着た男だった。男の目がミントを捕らえた後、ミントの背後に視線を送って銃を構えた。不審な動きだった。

『バスッ! バスッ!』

ミントはしゃがんだ姿勢のままベレッタ92を発砲した。男は頭部に9mmパラベラム弾を受けて後ろに倒れた。

『バスッ! バスッ! バスッ!』

ミントは飛ぶように立ち上がると同時に後ろを向いて3発発砲した。紺色のスーツを着た男が胸に銃弾を受けて後ろに倒れた。男はサイレンサーの付いたグロックを握っていた。

「挟み打ちはお見通しだよ。目の動きに気を付けないとね」

ミントは1人目の男の視線が自分の後ろに向けられた時に焦点が合ったのを見て、背後に敵の仲間がいることを見抜いた。

『木崎さん、2人殺ったよ。これで6人だね。敵は何人いるの? 予想だと3~4人だったよね?』

ミントは言いながらその場に伏せた。

『わからん。10人位だろ』

『ビシッ!』 『パシッ!』

ミントの後ろのスタジアムシートの背もたれが砕け散った。

『木崎さん、狙撃だよ! スナイパーがいる! バックスクーン方向だよ』

『ミント、球場の中に入れ。スタンドは危険だ!』

『わかった、11番通路に入るよ』


木崎とミントは通路で合流した。

「木崎さん、課長はどこなの?」

「隣の秩父宮ラグビー場だ。1班が対応している。2班は外で待機だ。俺達はこの球場の敵を殲滅して合流する」

「スナイパーがいるからスタンドには入れないよ。きっと通路に罠を張ってるよ。思ったより敵が多いよね。でもP90は車の中だよ」

ミントはベレッタ92から弾倉を抜くと、抜いた弾倉から弾を1発取りだしてスライドを引いたベレッタ92のチェンバー(薬室)に入れた。抜いた弾倉にはまだ残弾があるのでポケットに仕舞い、新しい弾倉を取り出すとグリップに差し込んだ。ベレッタ92にはMAXの16発(弾倉15発+薬室1発)が装填された。

「こっちも待ち伏せするんだ。手榴弾が3発ある。MK67とMK3だ」

木崎はMK67破片手榴弾とMK3攻撃手榴弾を1発ずつミントに渡した。ミントはそれをそれぞれ左右のブレザーのポケットに入れた。MK67手榴弾はリンゴ型で爆発により破片を飛ばすタイプで半径15mが殺傷範囲となる。破片は100m以上飛ぶこともあるので投げた方も注意が必要だ。遮蔽物があると破片が当たらない。MK3手榴弾は円筒型で破片は飛ばないが、爆圧と爆風で敵を殺傷する。殺傷範囲は狭いが、遮蔽物に沿うようにして爆風が回り込むので狭い場所や屋内で有効である。

「手榴弾は訓練所以来だよ。でも頼もしいね」

「ミント、あそこのトイレの入り口の陰に潜め。俺は反対側の売店に入る。合図するまで待て」


待ち伏せを開始してから20分が過ぎた。

『木崎さん、来ないね』

『ミント、待つんだ。動くのは危険だ』


『こちら1班の碧海。グランドのベンチで鴨志田課長を確保。生命に異常なし。尚、敵6名は何者かによって射殺された模様。第2班、第3班は合流せよ』

1班班長の碧海の無線が入った。人質として捕られていた内閣情報統括室特務課課長『鴨志田憲一』の身柄を無事に確保したようだ。

『こちら3班木崎。敵と交戦中。スナイパーがいる模様。通信機器は発見できず』

『碧海了解。交戦を中止して合流せよ』

『木崎了解』


『ミント、撤収だ、ラグビー場に向かう』

木崎とミントは1階に向けて階段を下りた。

「止まれ!! 」

大きな声が階段の下から響いた。木崎とミントは反射的にその場にしゃがんだ。階段の下に人影が3つ現れた。階段の上にも4人の人影が立ち、こっちに銃を向けている。

「誰だ? 夜桜か!?」

木崎が緊張した声で言った。

「手を挙げて上がってこい」

階段の上の敵のリーダーが言った。木崎とミントは手を挙げたまま階段を上がって通路に立った。

「座って銃を置け」

敵のリーダーが言った。木崎とミントは硬い床に正座してベレッタ92とSIG‐P226を前に置いた。後ろに男2人が立ち、後頭部にグロックの銃口を向けた。下にいた男達も上がってきた。

「仲間が鴨志田課長を確保した。お前達の仲間を殲滅したようだ。お前、澄川だな?」

木崎が言った。木崎は敵のリーダーの顔を資料で見て知っていた。オールバックの髪型で右頬に大きな傷があった。以前警視庁の機動隊にいたという話だ。頬の傷は極左集団と戦った際にパイプ爆弾で負傷したとの事だった。

「ああ、無線で聞いていた。今回はやられたよ。大損害だ。お前達の中に凄く強いヤツがいるようだな。だがお前達は許さない。俺の事を知っているなら猶更だ」

「まて、本当に俺達と戦争をするつもりなのか? 竹長は死んだ。お前達の組織は後ろ盾を失った。まあ公安自体は無くならないだろうがな。お前達の事は大分わかってきた。だからお前の事も知っている。今のお前達じゃ俺達には勝てないぞ」

「俺は命令に従っている。お前達を排除するだけだ。やれ」

澄川が言うと後ろの男2人がグロックのグリップを握りこんだ。

「冗談じゃないよ! こんな所で死にたくないよ! 私はアルバイトみたいなもんだよ! 女子高生だよ!」

ミントが叫んだ。

「ほう、お前が噂のJKアサシンか。竹長さんを殺ったのはお前の仲間か?」

「知らないよ!」

「まあいい。女子高生だろうが赤ん坊だろうが歯向かうものは排除する。やれ!」

『ドンッ! グシャ』 『ドンッ! バコッ』

轟音とともに2人の男の頭が破裂するように吹き飛んだ。銃声は大口径の銃の発射音だった。

「なんだ! 応戦しろ!」

澄川が叫び、6人の男達が散開して拳銃を構えた。木崎がミントの左手首を掴んで素早く立ち上がり、男達と逆方向にダッシュして柱の陰に駆け込んで伏せた。

「誰だお前は!? 撃て!」

澄川の声が響いた。

『パン!パン!パン!パン!』 『パン!パン!パン!』 『パン!パン!パン!』

男達の銃が一斉に火を噴いた。銃はグロックで統一されている。

『パパンッ! バンッ!! バンッ!! パパンッ! バンッ! バンッ!』

男達とは別の方向から銃声が響いた。ミントと木崎は柱の陰から顔を出した。

「いったい何が起きてるんだ?」

木崎が怪訝な顔で言った。

「米子だ・・・・・・」

ミントが小さな声で言った。制服姿の米子が横に動きながら男達と向かい合うようにして発砲している。男達との距離は8m、床には大型のリボルバーが落ちている。米子はベレッタ92の2丁拳銃だった。銃を持った右手と左手を体の正面に縦に平行になるように構えている。縦に並んだ2つの銃口から同時にマズルフラッシュが噴き出している。マズルフラシュがストロボのように制服姿の米子を暗闇に浮かび上がらせる。2丁の同時の重なった連射の轟音が響く。驚くほど速い連射だ。男達は次々と飛ぶように後ろに倒れた。澄川は立ったまま魂を抜かれたように呆然と米子を見ている。米子は撃ちながら突進して澄川の股間を脛で蹴り上げた。澄川はその場に前から崩れた。銃声が止んで静かになった。2丁のベレッタ92は全弾を撃ち尽くし、スライドストップが掛かった状態でバレルが剝き出しになっている。米子は動くのを止めた。うずくまった澄川以外の6人は仰向けになって倒れている。米子は2丁のベレッタ92のスライドストップレバーを親指で押してスライドを戻すとデコッキングレバーを押してハンマーを倒した。銃を肩掛けカバンに仕舞い、床のS&WのM500を拾った。素早い一連動作だった。

「米子! 来てくれたんだね! 危なかったんだよ! 死ぬところだったよ!」

ミントが喜びの声を上げた。

「ずっとメール見てたよ。返信しなくてごめんね」

米子が申し訳なさそうに言った。

「どういう事だ?」

木崎が言った。

「私が米子にメールを送ってたんだよ。今回も事もメールで知らせたんだよ」

「米子、もう大丈夫なのか?」

「何がですか? 少し一人になりたかっただけです」

「米子、じゃあ戻って来たんだね!? 嬉しいよ!」

「そうだよ。学校の出席日数もヤバイからね」

「木船と竹長を殺ったのはお前か?」

木崎が訊いた。

「そうです。さっき、ラグビー場にいた敵も6人殺りました。鴨志田課長は無事です。怪我をしていたので、グランドのベンチに寝かせてきました」

「そうか、ラグビー場のやつらはお前がやったのか。よくやった。相変わらず強いな」

「木崎さん、久しぶりに戦ったらお腹が空きました。焼肉奢って下さい。ボディーアーマーを着けてますけど3発喰らいました。プレ-トが割れて痛いです」

米子はブレザーのポケットから『コーラグミ』の袋を取り出して2粒口に入れた。

「グミうま」

「木崎さん、焼肉行こうよ、米子の復帰祝いだよ!」

ミントが嬉しそうに言った。

「合流して本部に報告しないといけないから、また今度だな」

「何言ってるの! 米子おかげで課長も私達も助かったんだよ! 融通利かせなよ。無線で報告すればいいじゃん。もう少しで死ぬところだったんだよ! そんなんだから女性にモテないんだよ!」

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