第66話 おめでとうヒガノボール王国は
無事にヒガノボール王国案は却下された。
危なかった。
みんな国王の名前、つまり俺の名前に拘りを見せてきたが、日の昇るわが祖国と混ざってホームシックになるのでとか適当な理由でゴリ押した。
晴れて、フォートレス王国という名前になったよ。
しかし、王政って王様が何も決められないんだな。
政治的実権のないと思われるスルマーレ国王を微塵も笑えない。
「さて、で、何がどう出るかだよね」
結局今は街の姿勢なわけだ。
ボールを渡すことには成功したといってもトレーヴィ市から王都まで使者が行って、そこから返事がくればいいけど、使者が死者になってしまう可能性もあるだろう。
ニンゲン同士そんなことをするとも思えないが、降伏なんてあり得ないという使者なら軍隊を連れて帰ってくる可能性もあるわけで。
警戒は怠れない。
街の被害にしても、復旧工事はすぐに終わってしまった。
農村からの避難民も自分の村に戻った。
あーあ、これは先が長くなるな。
なんて考え事をしていたら、
「どうした?」
「ぬ? 我が王、働きづめじゃっただろう? ここらで少し休んだ方がいいじゃろうな」
「む、そうか? お前ほど働いては居ないと思うが?」
なぜかニンゲンの信頼の勝ち取り方も旨かった。
水没した都市をさっさと水を抜きに行った判断はトレーヴィ市でも賞賛されているみたいだ。
やっぱり俺なにもしてない気がする。
自分の名前が入った国名になるのを防ぐことしかしてないぞ。
「いやいや、連絡役としてもよくやってくれていると思うぞ。わざわざ戦場を見に来るのもなかなかできることではない」
なんかむずがゆいな。
は、もしかして最前線に樹液を送れみたいな催促だったりするのだろうか?
「む? 我が王、何かよからぬことでも考えているのではないか? 某は樹液さえあれば生きていけるからのう」
心を、読まれた? わけではなさそうだな。冗談っぽい。
それはそれとして樹液を送っておこう。クィマームに連絡だな。
「おっと脱線してしまったのう。これからしばらくは平和じゃ。早馬を乗り継いでも王都には5日かかるらしい。まあこれが嘘だとしても、王国中枢がこの件を知るには3日は要するじゃろうて」
なるほどね。
王都がこのことを知ったとて、すぐに軍隊を編成して送れるわけでもないから、軍事的な脅威があるとしても少し先か。
「ま、つまり某が言いたいのはな、休んでおけということじゃ。根を詰めると良くないぞ」
「ああ、そうかありがとう」
なんだろう。
いや待て。
クィマームが効率至上主義でとにかく働かせてくる印象が強かったから誤解していたが、
「なんですか我が王、妾の顔をまじまじと見て」
「いや、なんにもないです」
「そうですか。ところでここのところあまり深くは眠っていないでしょう。妾の計算では2~3日は動きが無いはずですので、ゆっくりされるとよろしいのではありませんか?」
あれ? クィマームも優しいのか?
「なんです? そんなに驚いて。別段おかしいことは申し上げていないはずですが?」
「ああ、うん。いやなんでもない。ちょっと疲れが出たんだろう」
ふう。俺もやっぱりちょっとおかしくなってたのか?
二人の言う通りゆっくりしようか。
「ええ、戦力は十分ありますから、緊急の判断が必要な事態もそうは起きないでしょう」
「そうじゃぞ。わしらも基本的に昼は寝ておるからの」
え? ロイドたちって夜行性なんだっけ?
あ、昼間は光合成に専念して夜だけ動くのか?
まあ、今はいいや。休もう。
「ありがとう。お言葉に甘えることにするよ」
そう言って集会場を後にする。
ローザリンデ、アルウィナと一緒に帰るか。
「それがよろしいですよ。休まないと判断の質が衰えますからね」
あ、クィマームの休めは効率が落ちているから回復してまともに働けって意味だったのか。
根は働かせマシーンのままだったか。逆に安心した。
あれ? やっぱり俺疲れてるのかもな?
家に付いてベッドに横たわると眠気が増してきたので、昼だと言うのにそのまま寝てしまったのだった。
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