第65話 森陣営の名前
「で、いまさら国の名前?」
「そうじゃ」
ロイドたちと膝を突き合わせながら話すのは久々かな?
まあ、根っこなんですけど。
だが違いもある。
この場にはローザリンデとアルウィナもいる。
そしてクィマームもいる。
つまり、この森陣営の全種族がそろったことになる。
「で、外交に当たって国の名前がいるって話だったけど」
森陣営はさすがに意味が分からないけど、フォレスタとかでよくない?
知らんけど。
「いや、そもそも我々は国というものを持ってはいないのだよ」
ロイドは言った。
「へ? どういうこと?」
ロイドは大きく息を吐いてから話を続けた。
「今はわしが長老じみた判断をしているがな、森の中でおもいおもいに生きておるのだ。今は戦時ゆえに纏まらざるを得ないだけでな」
「え? どういうこと?」
理解が追いつかない。
「うむ。スルマーレ王国には王がいて、国土があるという話だったが、我々には森があるのだ」
うーん。なんとなく読めてきたぞ。
遊牧民みたいな生活してたってことかな?
彼らにとっては森が草原だった。
日当たりのいいところ、水はけのいいところ、季節によってこれらを移動し、ばったり落ち合うみたいなことか。
で、ここのところは東の森の瘴気と西のスルマーレ王国によって森林面積が狭まり、移動できる幅が減ってしまったと。
「ん? ということは森林面積が元通りになればまた散らばってしまうと?」
「そうなるな。まあわしはもう遠出はしないからこの辺に居るけれども、若い木々は動きたがるじゃろうて」
ロイドが目を細めた。視線の先ではロビンがピョンピョンと跳ねて遊んでいた。
優秀な戦士ではあるがまだ子どもらしい一面が残っているのだろう。
「つまり、トレントが国を持っていると言うのはだいぶ語弊があるのだ。臨時の結束じゃから森が元に戻れば統制が効かなくなるの」
うわあ、これは面倒くさいぞ。
これは俺が農耕文明に馴染みすぎたせいなんだろうけど、定住しててくれよ。
「ノボル様、アルラウネもそういう生き物ですね」
「あ、そうなの」
ローザリンデもそういう生き物みたいだ。
「いや、そんな目で見なくても、エルフももともとはそういう生活をしていたぞ。まあ出ていったわけだが」
待てよ。ということは、定住や土地の支配に馴染みがある種族ほとんどいなかったりする?
エルフが辛うじて定住を選んだが、歴史は浅いと言うことか。
あれ? 誰も国家としてこの土地を守ろうって気概がなかったりする?
「ええ、我が王。おそらく一番土地に縛られているのは妾、次いで我が王かと」
「マジか……」
なるほどね。スルマーレ王国のカウンターパートとしての王になったところで意味のある奴がいないと。
「ええ、ですので我が王、どうでしょうか、このまま我らの王になってしまうというのは? という話になってくるわけですね」
「ええ……。俺やったことないよ、王政」
「私はやったことありますよ!」
アルウィナがなぜかドヤ顔してくる。
いや、お前は手ひどく失敗したんじゃねえか。
「でじゃ、ノボル君が王となり国の主になってしまうのが良いのではないかなということじゃな」
なるほどね……。
「待って、それ俺にスルマーレ王国という懸案だけ押し付けようとしてない?」
「ぎくり」
「おいこら。しかも、スルマーレ王国が俺を囲い込んで森を全部更地にすることだって考えた方はいいんじゃないか?」
「ああ、たしかに。じゃが、その線はないものと思って居ったぞい」
ロイド、ちょっとそれはお人よしが過ぎるな。
「大丈夫ですよ我が王」
お、クィマームがなにか言いたげだ。
「妾や
あ、俺が大丈夫って話じゃないんだ。森が大丈夫って話か。
「はあ、そういうことね」
「ということで名前なんですけど、何がいいですか?」
クィマームさん。そう言う難しいことはよしなに決めてもらえませんかね。俺、その手の名前分かんないし。
「隣国から見て分かりやすい方がいいよね。下品に聞こえる国名だとよくないと思うんだ。だから、おれはちょっとパスしたいと言うか」
「そうですか。では妾の案から。スルマーレ王国から見て東の方向にありますから、ヒガノボール王国とかどうですか?」
悲報。クィマームさん、ネーミングセンスが無かった。
もしかして蟻頭とか白兵戦型とか、この手の名前を考えるのが嫌だったからあのままなのか?
いやでも火蜂は火蜂だったしなあ。
「うーむ、なかなかいい響きじゃのう。それに初代国王の名前も入っておるから良いのではないかなノボル君」
……笑えよ。なんで上機嫌に勧めてくるんだ。
こんなの公開処刑じゃないか。
周りを見ても「イイカンジじゃね?」みたいな和やかな雰囲気。
いや、ダメだろ。これは代案を持って反対しないとダメなやつだ。
考えろ。考えるんだ。なにかこう厳めしく強そうな名前。
かといっておらおら攻め込まなさそうな名前。
話し合いができそうな感じの名前。
要塞とかどうだろう。英語でフォートレスだったか。
フォレストにも近い(錯乱)。よしこれでいこう。
「いや、フォートレス王国でいこう」
ここは押し切らせてもらおう。
口八丁手八丁を駆使して、恥ずかしい名前は避けるんだ。
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