第64話 トレーヴィ市
ゆっくりと城壁の中に落ちていったトレーヴィ市街は大変なことになっていた。
具体的には上下水道完備だったのが裏目に出て、周辺部が水没した。
中央の区画は高めに作られていたから、問題は無さそうだが、放置していると周縁部から疫病とかも問題になりそうだな。
「やらかしましたね。何も考えてませんでした」
「クィマーム?」
いや、俺も全然思い当たらなかったけど、甚大な被害与えてるな。
予想以上に予想以上だった。
「正直、水属性魔術師がいればどうにかなると思ったんですが、そんなに機動的に動けませんよね。夜襲でしたし」
「うん、まあそうだね」
「水なんて川に汲みに行くものじゃないですか。すっかりわすれていましたよ」
クィマームも読み間違えたことがかなりショックだったみたいだ。
珍しく茫然としてるかも。
でも、
「我が王、なにやら思ったより被害が甚大なようじゃな? 差し支えなければ降伏勧告をしてもよいか?」
おや、
「今のままでは政治にもならない。某が話をつけて来よう」
「分かった任せる」
「クィマームも良いな?」
「……ええ、一任しましょう」
何事も予定通りにいかないな。
まあ、話し合いの機会が作れるならいいんだけど。
城門は無事だった。城門も城壁の一部だからそれはそうか。
抵抗はない。それどころではないからだ。
城壁内部の兵士も、今は陥没した市街への対応でいっぱいいっぱいのようだ。
そういうわけですんなりと城門に到達して、鉄格子を一刀両断。
そのまま城内に進んでいく。
「むう、やはりエゲつないとしか言えんな」
眼下は水浸し、光源のとなる【火炎槍】が飛び交う中で、揺れる水面がキラキラと光り、石畳は仄暗く明かりを反射するだけだ。
「某は
城壁を崩さんばかりの大声量を響かせる。
眷属将もやるな。
街の一か所だけが、明るくなっている。
否応なく耳目を集めた。
街の喧騒がぴたりと止まり、誰もが
「夜明けまで待つ。それまでに意思を固められよ! 反抗の意あらば世和えを待たず斬る。以上だ!」
それだけ言って
判断は速かった。1時間しないくらい。
その手には白旗を持っていた。
「市長のアゲオです。トレーヴィ市は全面的に降伏するとお伝えしにまいりました。」
「む、了解した。賢明な判断であると思われますぞ。では、某はさっそく水抜きに参ります」
唖然とするアゲオ市長の横顔が印象深い。
さてどうしようか。
目となる眷属将は以前上空から観察中であり、
誰もアゲオ市長に目もくれない。
「おい、
「むう? しかし、排水は急ぐべきですぞ我が王」
「いや、まあそうなんだけど、そっちの軍でアゲオ市長とコミュニケーション取れるのお前だけなんだぞ」
「あ」
そう。眷属も眷属も言葉は話せない。
「しまったあああ!」
「はあ、まあいいですわ。眷属将を差し向けて、私が代わりに話を進めます。暗がりの筆談ですが、まあどうにかなるでしょう」
クィマームが会話に入ってきた。
「む、よろしく頼まれたい」
きりりと、
「【戦技:渦巻き】」
愛刀『
市街に溜まってしまった水を上空に持ち上げて、城壁外に捨ててしまった。
どうやら人間の方も魔術師を総動員して、上水として使っている川を流路変更しはじめていたところだったようだ。
ん? 人間側の即応力もやばいな。
魔術師という人間重機、いや人間土木会社が結集すれば、1年はかかりそうな難工事もやってのけてしまうのか。
魔術師たちの能力を考えれば、なんで降伏したんだろうとは思うが、ここに眷属達の魔術攻撃がくると無理だと判断したのだろう。
アゲオ市長の采配が光ったな。
トレーヴィ市は戦力の大部分を保ってしまったわけか。
今後の憂慮にならないといいが、こればかりは賭けだな。
「我が王、どうにかこちらの要求を呑ませることに成功しました」
クィマームからの連絡だ。なんか細かい条件も整えたみたいだが、大事なこととしては以下のとおりらしい。
1、トレーヴィ市を通じてスルマーレ王国と外交交渉する
2、交渉中は双方武力を行使しない
3、武力の行使があった場合、停戦は終了し、報復措置を再開する
4、城壁の管理は森林陣営が行うが、通行税は取らない
「うん、こういう時の取り決めに歯詳しくないんだけど、まあいいんじゃないか?」
「そうですか。ただ我が王、一つ問題がありまして……」
「ん? なんだ」
「我々の陣営、ノボル王国じゃないのか? って話になってます」
「なんでええええ! トレント連合とかで良くない?」
「とりあえず我々陣営の呼称については保留しておきました。が、ロイドにも思うところがあるらしく、明日話し合って決めますよ」
「ええ……」
ともかく、トレーヴィ市攻略戦は勝利に終わった。
ことごとくグダグダだった気がするが、これが戦場の摩擦って奴なんだな。
予定通りににはいかないものだ。
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